『お、とう、さ……おか、さ……?』


眼前に広がるのは、血の海だった。
雷鳴鳴り響く豪雨。灯りのない暗闇のなか、その血の海に呆然と立ち尽くす幼い私に、あるひとりの海兵が歩み寄る。焦点の合わない瞳で海兵を見上げ、この惨劇が理解出来ずに小首を傾げた。するとその海兵は、私を見たあと肩を抱き寄せすっぽりと腕のなかへ収める。


『悪い、ごめん……全部、おれたちのせいだ、』


何度も何度も、その海兵は謝っていた。海兵の肩から見えた光景は、依然として血の海。腕があらぬ方向に曲がった両親が、目を剥き出して私を見つめている。その惨劇を思い出す度その光景しか浮かび上がらないでいた――


◆   ◆   ◆


『賞金7600万……上々』


その日は10年前と同じく雷鳴轟く豪雨だった。
海賊になった私は自分が映る指名手配書を見たその日、ある島の民は海軍に人質に取られた。海軍を潰そうとしていたところ、海軍は私の行動に勘づき『民の命が惜しければ、命を差し出せ』と私に言ったのだ。私の首で島民全員が助かるのならば、容易いものだとクルーの言葉も聞かず、首を差し出そうとした時。悲しいかな、悲鳴が響き渡った。


『………こ、の…っ!薄汚い…っ海軍め……っ!』


脳裏を刹那のうちに駆け廻ったのは、幼い日の光景。ああ、あれは――


◆   ◆   ◆


『…海軍においで。そうすれば他のクルーの命は助ける』

『信じれない』

『おれは約束を守る。絶対に、助ける』


差し出された手。死に向かう人生は、一旦引き返し再び生へと向かう。
私に差し出されたその手は、あの時の海兵の声に似ていた。そんなことを、差し出された手に自分の手を重ねながら頭の片隅で思っていた。


◆   ◆   ◆


ねえ、私。
昔の私の夢は、なんだった――?


を忘れた

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