旧妄想



魔法学校


早朝から始まったグリフィンドールのクィディッチ練習。ロンとハーマイオニーに誘われてその練習の見学に参加したものの、その楽しい空間は引き裂かれた。
練習途中に緑のローブに身を纏ったスリザリン生が箒を片手に練習場へ現れたのだ。何事かと全員が集まると、名前も知らないスリザリンの上級生がウッドへ羊皮紙を突き付ける。胡乱に眉を寄せながら羊皮紙を開いたウッドが怪訝に呟く。


「……許可証?」


ロンとハーマイオニーと慌てて近寄ってみると、羊皮紙に書かれていたのは『許可証』とスネイプの名前。どうやらスネイプが書いた許可証らしく、下卑た笑みを向ける上級生が新しいシーカーを育てるという名目でグリフィンドールから練習場を奪い取ろうとしているのだ。誰が新しいシーカーに、と見回してみると、いた。上級生の後ろから肩を張って堂々と現れるオデコ……じゃなかった、ドラコ・マルフォイ。
私はこいつがそんなに好きじゃない。親の権力に胡坐を掻いて、それにしがみつき振りかざす馬鹿。自分の力で今の権力を得たわけでも、ここに居られているわけでもないのに威張って。
そんな馬鹿にハーマイオニーが言い返す。ふと、嫌な予感が背筋を奔った。……この光景、知ってる、知ってるのに、思い出せない。


「こっちは純粋に才能で選手になったのよ」
「誰もおまえの意見なんか求めていない。生まれ損ないの──『穢れた血』め」


ハーマイオニーを睨みつけ、吐き捨てるように言ったマルフォイ。その言葉にカッと頭に血が上る。
フレッドとジョージが掴みかかりそうになるのをウッドが止め、他の選手たちもスリザリンに憤慨を露わにしていた。ハリーは投げつけられた言葉の意味を理解していないけれど、彼以外は全員その意味を理解している。だからこそ、頭のなかの何かが音を立てて千切れた。
ロンが懐から杖を取り出すのを視界の端で捕らえ、冷静さを失った私も無意識に杖を握る。マルフォイは壊れたロンの杖に何も恐怖を感じなかったみたいだけれど、私の手に杖が握られているのを見ると情けなく悲鳴を上げた。それがまた癪に障るものだから、呪文も唱えず地面へ杖を向ける。──すると、地面が鈍く重い音を立てて粉砕した。土や小石が空を舞う。


「お、おまえ……!」
「レダクト!!」


情けない声を出すものだから、その全てに苛立ちが募って私はいよいよ彼に杖を向けた。否、彼の箒にだ。
粉砕呪文を唱えるとまだ一度も使っていないだろう新品の箒が一瞬で粉々になる。怪訝な目で見ていたスリザリン生は粉砕された箒を見遣った後、怯えた眼差しを私に向けた。──お前らの箒も粉々にしてやろうか。
杖先をスリザリンに向けて低く唸る。


「お前ら、私たちのハーマイオニーを侮辱するな。マグルだから何、純潔だから何。純潔ばかりにこだわってるお前らのほうが穢い。言っておくけど、お前らよりハーマイオニーのほうが高貴で気高い。……それと、マルフォイ」
「ひっ」
「いちいち情けない悲鳴を……マルフォイ、あんた、ちょっと口が過ぎる。少しだけ寝てて」
「嫌だ……嫌だ!て、手を出したら父上が黙っていないぞ!」

だからさ、私はあんたのそうやってすぐに親に頼る姿勢が大嫌い。純潔が一番って考えるところも、私の友達を馬鹿にするところも。だって、あいつに似て──……あれ?誰に似てるって、言いそうになった?また何かが記憶を掠める。思い出せそうで、思い出せない。もどかしく渦巻く感情。靄がいっぱいに広がる。


「っ」


不思議な感情が支配するけれど、怒りの沸点が私の思考をおかしくさせたんだろう。一瞬意識がどこかに飛びそうになる。けれど怒りが勝って、ドラコをきっと睨みつけた。


「ルシウスなんて関係ない。これは私たち子供の問題。『子供』の喧嘩に親はいらないの。……ルシウスも落ちたものね」


最後にぼそりと呟いた言葉に自身で驚く。…え、私、何を言ってるの?マルフォイの父親なんて知らないし、どんな人物かも知らない。それなのに、何を。
小さな声に気付かなかったマルフォイが情けない悲鳴を上げながら後ずさりをするけれど、それを阻むように小さく囁いた。おやすみ──ステューピファイ──と。マルフォイは吹き飛んで、意識を失った。




2019/01/14




TOG×TOA(×TOS)

「貴女は……一体、何者なんです?」

眉を潜めた大佐の瞳が私を射抜く。剣呑な赤の双眸がひとえに真実を求めていた。
鋭い視線を受け流し、降り注ぐ太陽の光を掌で遮って空を見上げた。駆け巡る記憶に笑みを零す。──悲しくも暖かな記憶。

「私は、私。今はストラタ軍の中佐で、ジェイド大佐を日々監視しています」
「──……今『は』?」

さすが大佐。どんな言葉も聞き逃さず、些細でも拾うんだな。
見据える瞳に鋭さが増す。雰囲気もぴりと硬くなった。そんなに警戒しなくても私は大佐とは何も関係ない場所にいたんだよ。
小さな溜息を洩らしながら大佐に目線を移す。きっとどんな嘘を吐いても、上辺を取り繕ったとしても、それらが偽りだとすぐに気付くんだろうこの人は。隠し事をしても彼はきっと真実を求める。ならば求める真実を告げよう。それに何より、直感が判断した。大佐になら問題ないと。
──こんな私を見て、きっとあの人は笑うんだろうな。困ったように、でも、分かっていたと言わんばかりに。
唐突に浮かぶ彼の微笑みが心を締め付ける。きゅうと苦しくなった。

「大佐に隠し事なんて無理ですね。……私も大佐と同じです。別の世界から来た、いわゆる余所者ですよ」
「……貴女も?」

予想していた答えと違ったんだろう。大佐の表情が驚愕に染まる。意外な様子に思わず小さな笑い声を漏らしてしまった。
そっと瞼を閉じ、思い出すまでもなく巡る記憶をぽつりぽつり、静かに紡ぐ。

「私がいた世界は、シルヴァラントとテセアラ──世界を二つに分けられた世界」

勇者ミトス──ユグドラシルによって切り離された世界は、世界を育むマナを搾取しあって生き長らえている。マナは世界のすべて。マナがなければ植物は枯れ、大地は死ぬ。マナの流れによって片方が繁栄し、片方が衰退するという歪んだ仕組み。そのなかで衰退世界のマナの血族は世界再生の旅を繰り返す。その一巡。一巡りのなかで、私に、唐突に別れが訪れた。長き間見守っていた二つの大地。世界に、彼らに別れを告げる時間すら与えらえず引き離され、代わりに与えられたのは孤独な世界で続く永久の時間。毎夜、思い出す。──大好きだった、大切だった、あの世界。どんなに歪んでいようと、私を守って、見守っていた世界だった。

「元は一つの世界。でも二つに隔てられた。それは本来とは異なる姿。けれど、二つに分かつことで、醜悪な人間の諍いを途絶えさせるしかなかった。そうしなければ全ての源であるマナが枯渇してしまうから。──それは一部の者しか知らない真実。……それでもね、分かたれた二世界を統合しようとする子達がいたの。私はそんな子達と一緒に巡ってた。あの人に似た、あの子と。その子達も大好きだったし、何より、歪だったとしてもあの世界が大好きだった。本当に」

鮮明に思い出せるはるか昔。羽を宿した者達。
透き通った、鮮やかな水色。
つい先ほどまでのような記憶。熱に満ちた子達。
双刀を振るう、苛烈な赤色。

愛しい人の子は、やはり愛しかった。




今の私はどんな表情をしているんだろうか。
私を見据えていた大佐が不意に腕を伸ばす。
強く引っ張られたかと思えば、私は大佐の腕の中にいた。

2018/07/08




TOG×TOA

砂漠のど真ん中で保護をした。
成人男性一人。
それを後ほどこんなにも悔やむとは。


***


「大佐ぁー。今日はなにか情報掴めましたー?」

太陽燦々降り注ぐ夏空の下、木陰で休む私はパスカルと楽しく話している大佐に呼びかける。よくもまあ、日向で話すねあの二人は。
私の声に反応してふ、とこちらを向いた大佐がパスカルに何か一言告げてこちらへと足を運ぶ。おやや?大佐が直々に足を運ぶとは珍しい。いつもは私を動かすのに。

「これと言って情報は得られていませんが、彼女との話は楽しめますね」

私の前で足を止めてにこ、と胡散臭い笑みを浮かべた大佐が私を見下ろす。
……この陰険腹黒鬼畜眼鏡、もといジェイド大佐が目で「そこを避けて場所を開けろ」と訴えてくる。というか命令してくる。あーへいへい、避けますよっと。私も随分と彼に慣れたもんだ。最初は警戒していたけれど、この胡散臭い笑みにいつまでも警戒してたら埒が明かない

彼は、オールドラントという世界のマルクト帝国から来たのだという。最初は疑問だらけだった。世界地図を広げてもマルクトなんて地域も国名もない。見たことも聞いたこともない名前。けれど、その話を最初に聞いた時、すとん、と何かが落ち着いた。──そうか、彼は。彼も。
可哀想だと思う気持ちも、同情も、何もなかった。だって、だって!!この大佐だよ?!腹黒陰険鬼畜眼鏡の!警戒心あらわに怪訝な目で見ていたら「おや、私が怪しいですか?それなら存分に調べてもらって結構ですよ。私を倒せれば、の話ですが」と満面の胡散臭い笑みで言ったのだ。

あかん。勝てるわけがない。大佐は強い。絶対。私も一応は軍人として生活している。相手の力量くらい何となく分かる。大佐には今のままじゃ絶対に勝てない。そこで察したのだ。……コイツ、性格悪い。と。

「頭いい人同士の話は私にはまったく分かりませんねぇー」
「おや。頭の回転が遅く馬鹿だとして、馬鹿だからこそ辿り着く真実や馬鹿だからこそ気付く道というものがあるものです」
「……ちょっと。馬鹿馬鹿言い過ぎじゃないですか」

半目になって大佐を見上げる。──ああ、また。
大佐は時折とても懐かしげな眼差しで話すことがある。何かを思い出しているような、遠い眼差し。きっと元の世界を思い出しているんだろう。
しかし大佐はそれを気付かれないようにか、一瞬でそれを掻き消し再びにっこりと笑ったのだ。

「けれど貴女はお馬鹿さんというより阿呆の気がしますねえ」
「っ、…こんの、クソ大佐……っ!!」
「では呼ばれているので行きますね、お馬鹿さん」

結局は人を貶めるのか!!音符の付きそうなほど軽く言って、大佐は再びパスカルのところへと戻る。くっそ絶対大佐には口喧嘩で勝てない…となると術勝負か?けど術でも勝てそうにもないな、大佐絶対強い…私は大佐に何にでも勝てないってか、くっそー勝ちたい!!

……何だかんだ言って、大佐も人の子だよな。元の世界を懐かしむなんて。出来れば大佐には戻ってもらいたい。本心から思う。誰も知り合いのいない世界なんて孤独なだけだ。気を許した仲間すらいない、窮屈な場所。大佐はそんな繊細でもなさそうだしのらりくらりと過ごすとは思うけれど、やはり違いというものはある。価値観の相違も。それを埋めるのは容易いことではない。

「はあ……」

そっと溜息を吐いて二人を眺めていた時だ。異変を感じて二人をまじまじ見つめる。
ん?んんんん?
様子がおかしい。どうも、変だ。パスカルは何故杖を垂直に立てているのか。大佐はどうしてそうも今までにないくらい真剣な面持ちなのか。嫌な予感がする。唸り声を上げながら目を細めたり開ききって見つめていると不意に二人は詠唱を始めた。
はああああ?!

「贖うは地獄の業炎!」
「業火よ、譜村の折にて焼き尽くせ」
「お前ら…っ!」
「イグニートプリズン!」

悲しくも高低音が重なる。お前ら待てえええええ!!!
言っておくが、木陰で休む私と詠唱を始めたパスカルと大佐とではあんまり距離が開いていない。話は聞こえないけれど十分に術が届いて被害を受ける距離である。それに術師の、しかも高位魔術を容易に操る二人が同じ術を使えばその威力は倍どころじゃない。どこまで被害が及ぶのか。この天才二人はそれを考えずに唱えたというのかお馬鹿!!!
チッ、と舌打ちを盛大に漏らして慌てて立ち上がる。同時に腰に帯びていた剣を抜き、水平に構えた。

「悠久の時を廻る優しき風よ、我が前に集いて裂刃と成せ!サイクロン!」

本当は風の刃で敵を屠るものだけれど、今だけは術が発動しているそこを中心にして風の渦を天高くまで伸ばす。こうすれば被害は広がらないはずだ。中心にいる二人は知らん勝手に身を守れ!
それからほどなくして炎は消え、辺りに残ったのは熱風。荒れ狂う風が熱を帯びて余計に熱かったけれどやがて風も消え、竜巻の中心にいた二人も姿を現す。二人とも各自で身を守ったらしく火傷の痕も傷を負った様子もない。それに安堵する私を尻目にパスカルと大佐は満足げに笑った。

「いやあ、思ったよりすんごい威力になっちゃったね〜」
「同じ術でも、詠唱も出現する様子も違うようですね。興味深い」

こんの…!!笑いごとでも興味深いことでもねーよ!天才と馬鹿は紙一重って本当か!
どれだけの事故になるか予想出来ていない二人に怒りを通り越して呆れを感じる。剣を腰に帯びた私は片手を額に添えて深い深い溜息を吐いた。



その後、また術を試そうと構えた二人を、私は本気で止めたのだった。

2016/05/15




幸村精市

「こんにちは、松木春香です。ええと、幸村くんと景ちゃん…氷帝の跡部くんに誘われて、合宿の間マネージャーをすることになりました。不束者ですがよろしくお願いします」

合宿に出発するバスの前で幸村くんに促されて軽い自己紹介をする。普段の練習でフェンスを取り囲む女の子たちに嫌気がさして女子自体がだめなんじゃないかって思っていたけど、頭を下げると「よろしく」と声が降ってきて想像とは違うのかなと安堵の息をつく。想像では嫌がられるんじゃないかなとは思っていた。あからさまに嫌な態度とか取られたらこわいなあ、なんて思ったり。
でもそんな事なくて安心。よかった。

「それじゃバスに乗り込んで。出発するよ」

幸村くんの仕切り声に選手たちは続々バスに乗り込む。その列に割り込むのが悪い気がして、皆が乗り込んでからバスに乗ることにした。すると、言わずもがな席は前のほうで。というか空いてなくて。補助席にしようかなと通路の補助席を出そうとすると一番前に座っていた幸村くんに呼ばれる。

「松木さん。そこじゃなくて隣、おいでよ。補助席じゃ座りにくいから」

おお…!幸村くんはやっぱり王子さまか…!微笑みが眩しい。幸村くんのその申し出をありがたく受け取って、隣に座ることにした。…わああああどうしよういいにおいがする。

「悪いね、マネージャー頼んで。跡部も松木さんに来てほしそうだったからつい」
「ううん大丈夫、景ちゃんから来いって言われたし、手助けできるならするよ」

そうして幸村くんと歓談しているうちに、朝が早かったためか私の意識は微睡んできた。ここまでは良い。起きた後、わたしは心臓が止まると思いました。


2015/12/12




ライトニング(×零式)

──不意に、羽根が舞った気がした。
淡い光。砂金のように細やかな光が柱となって眼前で煌めく。仄かな光が薄らしていた輪郭を明確なものにした。カツ、と足音と金属音と衣擦れの音。確かになる輪郭の主がまた一歩を踏み出す。一歩、また一歩と踏み出す度に輪郭ははっきりしたものへ。
しっかりと捉えられるようになった姿。そこに居たのは騎士だった。腰に数多の純白の羽根。左腕には盾、右手には剣。白皙のように白い肌。凛とした目許。そして、風に舞うピンクブロンド。

「……、…だれ…?」

周りには手を繋ぎ、笑顔のまま瞼を閉じて眠りについているような零組の皆。軍旗のように繋がれた朱いマントが風に靡く。
私は一人、そこに居た。万魔殿で審判者を倒し魔導院に皆と戻って来たんだ。その後は皆回復してまたこの魔導院で生活するんだと思っていた。彼らにはアレシアの加護があるから。けれど加護は無くなっていて。──彼らは死に直面した。直面して、眠るように。その顔は本当に寝ているみたいで。
どうして、私一人、ひとりだけ、のこったの、いきているの。
抑えらない嗚咽を漏らす。叫び声のような嗚咽。その時だった。不意に羽根が視界を掠めたのは。涙で歪む視界に過る白は鮮烈だった。荒れ果てた廃墟のような魔導院に純白。涙でぐしゃぐしゃの顔を上げるとあったのだ、砂金を散らしたような神々しい光の柱が。

「私はライトニング。ヴァルハラから全てを見ていた。女神が嘆き、その嘆きが私をここに遣わせた。──立て」
「ヴァルハラ……女神……?まって、なに、それ」
「女神エトロの慈悲だ。世界を、時を、廻れ」

ライトニングと名乗った女性は地面に座る私の腕を掴んで立たせ、詳細な説明もなしに私を見下ろす。真っ直ぐで真摯な瞳。力強い双眸に言葉を失う。世界、時を廻るってどういう事?
唖然とするばかりのライトニングの言葉にいつの間にか涙は止まっていた。呆然とライトニングを見上げると彼女は口許に微かな笑みを乗せて私を見下ろす。けれどそれは一瞬で、真摯な瞳はすぐに彼女が現れた光の柱へ向けられる。そして彼女は私の腕を引っ張ってその光の前まで歩かせた。柱を見上げる双眸、光から巻き上がる微風に弄ばれるピンクブロンド。凛々しい横顔を見つめているとライトニングがこちらを向いて目が合う。

「正せ、歴を。負けることなく」
「歴……?」
「お前なら出来るだろう?」

ふ、と優しく柔らかくなる瞳。私が何かを言う前にライトニングに光の柱に放り込まれた。

「愛しい者達を。エトロの嘆きを。どうか──」

砂金に呑み込まれ揺らぐ視界。魔導院が消えていく。
それと同時に遠退く意識。
ライトニングが囁いた気がした。

「──どうか、正しき歴に、正しき導を。私には手出しが出来ない。頼んだぞ、神の御子よ」

2015/12/12



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