「ねえ旦那」
俺と手を繋いで座る旦那に声をかける
。
「どしたー」
「寒くねえんですかィ」
俺の質問の原因は旦那の服装にある。
「寒い」
「ですよねィ」
旦那はいつもの黒いインナーを着てい
ない。つまり着流しのみ。ちなみに今
は3月だ。
「どこに忘れてきたんですかィ」
「いや、忘れた訳じゃないからね」
「じゃあ何で」
「なんとなく」
なんだろうこの人。緩すぎやしないか
。
「訳わかんねー」
「俺をわかろうなんざ500億光年早
いね」
「訳わかんねー」
「俺も。何だよ光年って」
「知りやせん」
旦那はぼーっと宙を見ながら足をぶら
ぶらさせている。小学生みたいだ。
「寒いなら」
「ん」
「沖田のここ、開いてますよ」
「古っ」
微妙なボケに無難なツッコミを入れる
旦那。呆れたような顔をしながらも俺
の腕の中に収まるこの人はすごく可愛
い。
「総一郎くんの匂いする」
「浮気ですかィ、俺ァ総悟です」
旦那は俺に抱きついたあと俺の太もも
にどさっと落ちた。結構重い。
「あったかー」
「頭カラのくせに重てェ」
「んだとコラ」
むっとした顔の旦那と目が会う。なん
となく衝動できれいな唇にキスを落と
す。
「ボケ」
俺が唇を離すと旦那はすぐにそっぽを
向いた。庭を凝視する目元は少し赤か
った。
「ボケ」
「はいはい」
旦那の特徴的な銀の天パを指ですく。
ずっと繋いだままの手に力が入るのを
感じて笑みが溢れた。
「ボケ」
春は多分もうすぐそこ。