辺り一面屍の世界だった。本当に何も
ない。刀や薙刀が無造作に転がる、破
綻した世界。生きていた数多の肉片た
ちが揃いも揃って足の裏に貼りつく感
触がして吐きそうになる。無視できな
い自分も大概阿呆なんだと思う。ふと
誰もいない筈の背後に足音を聞いて振
り返る。高杉だ。此方に向かって気怠
げに歩いてくる。じっと見つめていれ
ば終わったな、と話し掛けてくる。敢
えて返事はせずに高杉を待つ。再び口
を開いて大丈夫かと問うてくる。大丈
夫だと笑えば奴も笑った。この屍だら
けの戦場で笑い合う俺たちは相当異質
で気持ち悪いに違いないと思う。だが
まあ皆死んでいるので迷惑は掛けてい
ないだろうから気にしない。近付いた
高杉に手を伸ばす。もう十分届く距離
。向こうも手を伸ばしてきて俺たちは
抱き合う。口づける。血の味しかしな
いそれは間違えても美味しいとかそん
な訳はないのにそれでも高杉となら誰
の血で不味かろうと幸せな自分はきっ
と頭がおかしい。何だかもう消えてし
まいたくなった。愛してるを聞く度舞
い上がる、怖くなる。二人で何処かへ
行きたい。この戦争に終わりがあるの
を知っている。きっと勝てないことも
知っている。それでも戦うのは終わり
が少しでも遠くなるように。戦争が終
わって豹変した世界で高杉はきっと俺
の隣にいない。この世界だから、破綻
しているからこそ成り立つ破綻した関
係。だからもう消えてしまいたい。世
界の果てでもその遥か向こうだってい
い。いっそ死んだっていい。なあ高杉
、俺と来てくれないか?お前が俺を見
て俺の隣にいる今なら。お前がいるな
ら何処だっていいさ、ねえだから。
唇が離れて高杉に呼ばれた。なに、と
返せば死ぬなよ、って。キスしたら思
考まで読まれていた。おかしくなって
笑った。奴も笑っていた。