真っ昼間からの市中見回りで8月末の
 残暑に滲む汗に顔をしかめながら歩い
 ていると万事屋の野郎が土手の草原に
 寝そべっていた。
 本当に暇な奴だと思いつつも、どうせ
 顔を合わせてもロクな事がないのはよ
 く分かっているので見なかった事にし
 て通り過ぎようとした。
 だが総悟と近藤さんがついてきていな
 い。
 あまりにも予想通りの展開に溜め息を
 吐き、呆れ顔を作る。
 正直、どうとも思っていない。何故な
 ら先程暇な奴だと万事屋を馬鹿にした
 が俺達も奴と然程変わりないからだ。
 要するに、暇なのだ。
 一つ喧嘩でも吹っ掛けてやろうかと少
 しだけ通り過ぎてしまった奴を振り返
 る。
 総悟が無表情だがどこか楽しそうに話
 しかけている。近藤さんが奴に向けて
 怒鳴っている。やっぱりどこか楽しそ
 うに、だ。
 奴には人を惹き付ける不思議な力があ
 る。何と言うか、よくわからん奴だ。

 「オイ万事屋、こんなとこで何やって
 んだ」
 「…………」
 「旦那?」
 「聞いているのか万事屋ァァア!お妙
 さんはなァ、お妙さんはなァ!」

 妙だ。いつもなら突っ掛かってくる筈
 が、今日に至っては返事どころか視線
 すらも寄越さない。

 「オイ、万事屋?」
 「おめーら、今日が何の日か知ってっ
 か」

 何かを探すように空をぼうっと見なが
 ら万事屋が言う

 「今日?」

 やっと返事をしたかと思えば訳の分か
 らん事を言い出す始末。変なもんでも
 食ったんじゃねぇだろうな。

 「今日だよ、今日。何の日か、知りて
 ぇか?」
 「言ってみろよ」
 「……今日はな、世界の中心が、消え
 た日だ。」
 「はァ…?」
 「世界の中心?」

 訳分かんねぇ。遂に糖分で頭やられち
 まったか。ざまーねぇな。
 なんて、考えてたとき。
 ふと風に乗って聞こえた小さな呟き。

 貴方がいない

 どんな風音よりも切なく、どんな虫の
 音よりも儚く、どんな雨音よりも哀し
 い、そんな声だった。
 俺達は情けなく固まった。奴だけが一
 人、またぽつりと洩らした

 苦しい

 の言葉に、計り知れない重さに、ただ 
 黙ることしかできなかった。
 でもやっぱりよく分からん奴で。

 「なーんてね。」

 とだけ残してこちらには一瞥もくれず
 背を向けて歩いて行ってしまった。

 「土方さん」
 「なんだ」
 「俺らもそろそろ行きやしょう」
 「おー」

 嗚呼もしかして奴は未だに探している
 んだろうか。
 世界の中心を。



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