沖田くん死んじゃったって。
 そう言った銀ちゃんの目はいつもと変
 わりなく死んでいたけど、その中に少
 しだけ悲しみとかそんな感じの色を見
 た。ような気がする。
 そんなのを見た後じゃとてもじゃない
 けど軽口なんて叩けなくて、焦りは逃
 げ場を失った。
 ふうん、って浅い返事をしてソファの
 上に寝転がる体から力が抜けるのを無
 視した。
 彼は肺を患っていた。
 病気で死ぬだなんて笑える。って諦め
 たような顔をした彼に本気で怒ったの
 はついこの間のはずなのにもうずっと
 昔のことのように思えた。
 病室に力なく横たわる彼はどうしても
 母親を想起させてどこにあるかも分か
 らない心を抉った。
 随分と細く白くなった手は握る気をな
 くさせた。
 ああ、あの時握っておけばよかった。
 彼の温かみは思い出せない。お互いに
 好き合っていたのに結局最後までふれ
 合わなかった私達はお互いの温度を知
 らない。
 泣き出しそうになってソファに膝を抱
 えて座るとふわりと甘い匂いがして、
 一瞬遅れて大きな熱が私を包んだ。
 銀ちゃんが、私を抱き締めていた。
 目を瞑る。沖田の温度を知らない私が
 銀ちゃんの温度を沖田だと信じ込むの
 は簡単だった。
 ああ、最後まで彼が私を抱き締めなか
 った理由が分かった。最後まで私が彼
 を抱き締めなかった理由が分かった。
 どうか許して下さい。
 純粋な、この恋を。



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