走って逃げてきた。何から、と訊かれ
ると返答に困るけれど。走る必要はな
かった。でも、とてもじゃないけどゆ
っくりゆっくり歩いて去るなんてでき
なかった。
俺は仲間を置いてきた。とは言っても
戦争は終わったのだからこの表現はお
かしいのかもしれない。でも確かに、
置いてきた。
夜が明けてすぐのまだ薄暗い世界に独
りさよならもなく飛び出した。別れの
言葉はなくてもいい、そんなに温い仲
でもない。
きっと分かってはくれないだろうけど
。
頭が痛い、喉も痛い。全身が痺れたよ
うな、薄い感覚しかない。へたり込ん
だ場所は何処の誰とも知れない墓石の
隣だった。