絡みついた温もりも憎しみで消えてし
 まいそうだ。どうせなら、いっそどう
 せなら。

 鏡に映った自分は逆さまだけれど、そ
 の目にはそのままの感情しか見えない
 。隣を見ても空っぽ、空いた眼窩には
 優しさだとかそんなものが詰まってい
 たんだろうか。
 まあ何が詰まっていようとあの目玉は
 どこか知らないところでもう草木とな
 っていよう。もう遅いのだから、何も
 かも。
 包帯を巻き直して体の力を抜く。どさ
 りと倒れた畳にどこかの誰かが落とし
 た甘い残り香。
 すう、と少し多めに空気を吸い込む。
 これが毒ならいいのにとふと思った。
 優しく甘い毒で痛みもなく死んでいけ
 たら、それはなんて幸せな最後だろう
 。愛しいあいつで安楽死。そんなのも
 いいんじゃないか、と閉じた瞼の裏で
 甘い終わりを夢見た。



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