マスカラ(現パロ


※少々特殊です。
水商売パロで、非ばさらキャラであるキャストの女のコ視点です。
さらっと読んで下さい。




19時半ジャスト、パールピンクの携帯から軽快な流行りのポップス。

『着きました』

内容はそれだけ。
送信者は『風魔小太郎』、バイト先のキャバの黒服さん。
普通はうっかり気付かないなんてことがないように電話をかけるもんだと思うけど、この人にそれをさせるのは『無理無理!電波事故起きちまうぜー』なんだと同じく黒服の佐助さんが言っていた。
何となく納得してしまうのは、こ人が喋っているのをキャストの誰も聞いたことがないからだ。

「おはようございまーす」

ポーチだのヌーブラだの詰め込んだショップバッグ片手に乗り込むワゴン。
今日の送迎は私が最初らしく、まだ他のコの姿はない。
運転席には真っ赤な髪の毛の黒服さん。
私の挨拶に首を縦に振って応えたきり、黙々と車を運転する風魔さんはきっとイケメンなのだと思う。
真っ赤な髪が分厚く目を覆ってはいるけど、顎のラインはシャープだし鼻筋もめちゃめちゃ通ってるし、ちょっとあり得ないくらい等身が高いのだ。

「カナちゃんマスカラ貸してくんない?」

「髪巻く時間なくってさ〜、店で巻いても間に合うかなぁ」

「ダイジョブだって、今日ヘージツじゃん!」

女のコが増える度に段々にぎやかになる車内で、やっぱり風魔さんの声は聞こえてこないのだった。


「おはよーございまーす!んで、早速で悪いんですが…着替えてすぐ出られる子ぉいるかなー」

「え〜」「ゴメン私髪巻くから無理っ」「団体さんー?」

わっと溢れる女のコ達の声の中心で、そうそう団体さんがねーVIPに入るんだわー、と眉を下げてるのは風魔さんに負けず劣らず鮮やかな赤い髪の毛の黒服・猿飛佐助さん。

「ねぇ、あたし早入りになるけど時給付く?」

「ありがとエミさん!勿論俺様から店長に頼んどきますってー!」

「やーった!なら着替えてくるわー」

猿飛さんの髪の毛は、風魔さんより少し…夕焼けっぽい色をしている。
その髪の毛を、ヘアバンドでぐっとまとめてすっきり後ろに流している猿飛さんも、なんと言うか、

「イケメン、だよねぇ…」

「ミキちゃん誰が誰が?」

しまった口に出てた。
でもまぁ困ることでもない、キャストの共通認識だと思うし。

「んー?うちの黒服さんはイケメン揃いだなーって」

「あーね。テンチョ顔で選びすぎ!ホモか!」

「エミちゃん問題発言!」

けらけら笑いながら着替えを終える。
因みに私はぱっと見チャラいのに時々妖しい色気を感じる猿飛さんの顔のが好きだ。風魔さんの顔は良く知らないんだけども。

「なぁに話してたのー?ほらほら行きますよ!」

「はーい」

「ね、私若い子につくのヤだよ!」

「分かってますよ―、ちゃんとつけるからさ…失礼します」




VIPの団体さんが帰られて、控室で一服…する間もなく何人かキャストが呼ばれて出ていく。
地方都市のキャバクラの平日としては、かなり賑わっているんじゃないかと思う。他の店知らないけど。
細身のタバコを既に山盛りの灰皿に押し付けた丁度その時、

カチャ

ひょこりとドアの隙間から顔を出す茜色の髪の毛。
キツめの空調にひよひよ毛先を遊ばせながら、ぐるりと室内を見渡すその茜色の主と目が、あった。

「ミキさん、サヤカさんのヘルプお願いしまーす」

きゅっと目尻の上がった猿飛さんの目が悪戯っぽくたわめられる。

「はーい…」

もう一本、吸いたかったなぁ…。
しかしヘルプなのでそんな訳にもいかない。上に、私は猿飛さんのへらっとした笑顔に逆らえない。
断じて色恋管理されているとかではなく、敢えて言うなら萌管理…?

「ミキさんです」

「ミキですっ、こんばんわぁ」

サヤカさんはレギュラーのお姉さんで、ホントに格好イイ大人の女性って感じで…たまに常連さんのことを『からす』なんて呼んでるけど、呼ばれてる方は嬉しそうで…とにかく憧れ。
ここ頑張ったら同伴呼んでもらえたりするかな、なんて下心もなきにしもあらずではあったけども。

「ミキちゃんはさ、お酒飲める子?サヤカがこれ残していってさぁ」

「わー!好き好きっ!好きですっ!空っぽにしてサヤカさんおどかしちゃいましょうっ」

シャンパン自体は後でクるから得意でもないけど、半分以上残ったヴーヴ・グリコを飲み干して、「帰って来て満タンだったらサヤカさんびっくりするかもー」なんて笑ってたら、まさかの

「よっし、入れとくかー」

なんて。
流石サヤカさん。
めちゃくちゃ太客捕まえてますね…。

「お願いしまーっす!ヴーヴ入れてもらっちゃいましたぁ!」

「うわ有り難うございます社長!さっきも入れてもらってたってのに…開けるの待って下さいよ!サヤカ呼んで来ますからっ」

ホールに目を配ってた風魔さんに声をかけたつもりだったのに、あっと言う間にテーブル前に膝をついてる猿飛さん。
の、後ろ、ヴーヴのボトルとフルートグラスを盆に乗せた風魔さんがそびえ立つ。相変わらず仕事の早い人。

「えぇー…じゃあお言葉に甘えて、俺様と風魔も乾杯に加わらせていただく感じで」

うっかり風魔さんの立ち姿に見とれているうちに、お客様と猿飛さんの間で話がついていたようで。
ぽん、軽い音と共に封を開ける風魔さん、フルートグラスに綺麗な泡をたてる猿飛さん。
五人での乾杯と相成ったヴーヴは、きっとアッと言う間に空いてしまうことだろう。




「風魔、猿飛…」

「責任持って送り届けますから、安心して下さいよサヤカさん」

「ふん…」

案の定へべれけになった私は、送迎車の後部座席に転がっていた。
ああ…サヤカさんに挨拶もできなかった…。

酒で歪む視界の中、暗い車内に逆光で浮かぶシルエット。
弛いマーブル、くらいにゆらゆら揺れる世界で、そこだけくっきりはっきり見えてしまったのは何故だったのか。

「…ッは、っ阿呆!まだ女のコ乗ってんだぞ…!」

「………」

「起きたらどうすんだよ…」

「…………」

「ッ!も、もういいっ!もういいからサッサと運転しろって…」

助手席側に乗り出した風魔さんと、重なって離れた猿飛さんのシルエット。
離れても猿飛さんの後ろ頭にまわされたままの風魔さんの腕。
車内の薄暗がりで見えるはずなんてない猿飛さんの顔色が、声色から伝わってくるようだった。

「…そういうのは、帰ってからでいいだろ。…おばかさん」

エンジンの音に紛れさせるように落とされた呟きに、叫びださなかった自分を心底褒め称えたかった。

…エミちゃん、ホモは店長じゃあなくて、当のイケメン達でした…。



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黒服風魔hshs
二人は別に同棲はしてません





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