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『杏里ちゃん放課後デートしよ!青春クラブだよっ』

その後に可愛いスタンプ。
寝る直前、トド松から送られてきたこのメッセージに、普通にデートがしたいだけなんじゃ…と思わないでもなかった。まあいいか。
高校生の時は大抵トト子やチビ太も交えてみんなで遊びに行くことが多かったから、誰かと二人だけで遊びに行く、なんてのは実は新鮮だったりする。
疑似デートもなかなか青春っぽくていいかもね。

『いいよ』
『それじゃ水曜日の放課後に!』

おお、学生っぽい。さすがトド松。
これは私も何か下準備をしておかなければ。
さっそくネットで、今の高校生に人気のショップやフードを調べてみる。
私達が高校を卒業して数年、あの頃の流行とはやっぱり違ってきてるもんだなぁ。
そうは言っても、高校生だった時もあまり流行りを知ってるわけじゃなかった。クラスの子がお喋りしているのを聞いて、そうなんだ、ぐらいに思っていただけ。
トド松の方はあの頃から流行に敏感ではあったな。今回のデートも流行りのスポットに行ったりするのかも。
ネットで最新情報を一通り調べ終えた私は、満足してベッドに入った。

当日の朝、トド松からまた連絡があった。

『今日は六限終わりに高校の前で待ち合わせね!』

放課後デートだからか。徹底してるなぁ。
デート、と言われたのでちょっとはお洒落していこうかと思っていたけどやめた。
設定は放課後。だったら気取らない格好でもいいよね。
至って普通の普段着で通っていた高校に来ると、校門の前にトド松がいた。
トド松もお洒落服じゃなくていつものピンクパーカーだ。同じことを考えてたのかもしれない。

「トド松、お待たせ」
「あ、杏里ちゃん来た来た」

もたれていた壁から軽く跳ねるように起き上がったトド松が、「じゃ行こっか〜」と歩き出す。

「どこ行く?」
「こっちこっち」

トド松が歩いて行くのは、若者人気の高いショップがたくさんある街の中心じゃなく、地元のショッピングモールの方だった。
いつだったか、トド松たちと一緒に来たこともある。

「今もデートでこういうとこ来るの?」
「今はないけど、高校生の時の自分だったら、お金もないしここに来ると思うんだよね。てか来てたし」
「え、デートで?」
「いや、兄さんたちと…」

はあ、とトド松が息を吐く。

「ほんっとにパッとしない高校生だったなぁ…」
「でも、地味ってことはなかったけどね」
「えへへ、そう?ちょっと元気出た」

トド松が嬉しそうに言って、ショッピングモールの入り口のドアを「どうぞ」と開けてくれた。

「ありがとう。うわーこういうとこ来るの、私も久しぶりかも」

ほんとに地元の人だけが利用するような、アットホーム感のある…悪い言い方をすればちょっと寂れた場所。
地下一階から七階まであるここはファッションの店が多く、家族連れや年配の方が主な客層だ。

「懐かしいな〜あの頃と全然変わってなくない?」
「ね、ほんとだね」
「覚えてる?杏里ちゃんとここでお好み焼き食べたの」
「ああそうそう、みんなと偶然会ったんだよね。なのに二人前しか買えなかったんだよねあの時」

六人の所持金が合わせて九百円で、私もそんなにお金がなかったから、何とか二枚を七人で分けたんだった。
あれ?これはちょっとリアルに青春っぽい一ページだったかも。

「いっつもみんなとの思い出しかないんだよなぁ…」

トド松のつぶやきの意味はよく分からないまま、「なんか甘い物食べない?」と誘われて地下に下りる。
駅前にある大型のショッピングモールのとは比べ物にならないけど、ここはここでちゃんとフードコートがあるのだ。学生服を着てる子もちらほらいる。
店先のメニューを見たトド松が「代わり映えのないメニューだなぁ〜」ともらす。

「うん、あの時に戻ったみたいだよ」

そう言うと、トド松はにやりと笑った。

「実はそれを狙ってたんだよね」



フードコートで二百円のソフトクリームを食べながら学生時代の思い出話に花を咲かせた後、ショッピングセンターを出て遊歩道をぶらぶらと歩いた。

「ねー杏里ちゃん、こっちの道覚えてる?神社に続く道」
「うん、お好み焼き食べた後みんなで来たよね、ここも」
「正解〜。寄ってこーよ」

鳥居をくぐってそう長くない石段を上ると、こじんまりした社殿と社務所がある。
緑に囲まれた境内をぐるりと見渡した。ここも変わらないなぁ。
そういえば、みんなで来た時はお金がなくてお賽銭もおみくじもできなかったっけ。

「杏里ちゃん、お参りした後おみくじ引こうよ!」
「私も今そう言おうと思ってた」
「ほんとに?わーなんか運命感じちゃうね!」
「女子力高いね、そのコメント」
「真面目に聞いてよぉ…」

トド松に神社の作法を教えてもらいつつ、手を清めて参拝を終わらせた。
次はおみくじだ。いつもはお正月にしか引かないけど、何が出るかな。

「あ、僕吉だ〜!杏里ちゃんは?」
「私も吉だったよ。あ、番号も一緒じゃん」
「運命感じちゃうね!」
「そうだね、こういうことってあるんだね」
「うわ、何その軽くいなす感じ…もっと感動してよ」

口を尖らせるトド松。

「いや、びっくりしてるよ結構。なかなかこんなことないでしょ」
「だよね!これでまた一つ二人の思い出が増えたねっ」

ご機嫌なトド松とおみくじの内容でひとしきり盛り上がった後、神社の石段を下りて元の道に戻る。
空はもう薄暗くなり始めていた。

「あー…放課後デートはそろそろおしまいかな」

トド松が言う。

「なんかのんびりした時間だったね」
「でしょ?」
「でも意外。トド松のことだから流行りのお店でも行くのかと思って、私今の流行とか勉強したのに」
「それって僕のためにしてくれたってこと?」
「間違いじゃないね」
「えへっ、嬉しいなぁ〜。でもね、今日の放課後デートはこれでいいんだ」
「うん、等身大の青春を過ごした気がするよ」
「んー、まあ、それもあるんだけど…僕がしたかったのは青春ごっこをすることだけじゃなかったんだよね、実は」
「え、そうなの?他に何かしたっけ?」

当時の自分たちがしそうな…というか、実際にしてた行動をなぞった普通のデートだったけど…
思い当たらなくてトド松の顔を見たら、含み笑いをしていた。

「今日行ったとこ、来たことある場所だったでしょ。みんなと」
「うん、そうだね」
「上書きしたかったんだ。杏里ちゃんの思い出に」

さっきよりも体を寄せたトド松の左手が、私の右手の指を捉えた。

「ね、もう一個上書きさせて」



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