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チョロ松に呼び出された私は、一冊のノートを渡されていた。
ぱらぱらとめくると中は白紙。

「何これ」

チョロ松は若干そわそわしながら、「青春クラブの活動ってことで…」と言った。

「女の子と交換日記するのが青春っぽいなーって思ってさ」
「交換日記か。小学生以来だな」
「やったことはあるんだね」
「うん、女友達とね。でも今の歳になってからやるって新鮮かも」
「じゃあやってくれる?」
「もちろん。私からでいいの?」
「うん、そうしてもらえると嬉しいな…あ!あいつらには内緒でね」
「了解」

交換日記。確かに青春っぽい。
家に持ち帰って、何を書こうか考えた。
小学生の時は何書いてたっけ…
日付と天気は書いてたかなぁ。
それから今日の授業の話とか、この後何して遊ぼうとか、好きな子の話を聞いたりとかかな。
日常のことでいいか。気楽に書こう。
というわけで、この間高校生の時によく行ってたパン屋をのぞいたら、当時好きだったメロンパンがまだあったことを書いた。
我ながらどうでもいい話だな…と思って、そういえば帰り道で偶然チョロ松に会った時、半分ちぎってあげたことも思い出した。
あの後他の六つ子がわらわら寄ってきて、結局チョロ松はちょっとしか食べれなかったんだっけ。
思い出したら笑えてきた。
それも書こっと。覚えてるかな。

次の日、チョロ松に書けたよと連絡したら、受け取りに行くと返ってきた。
こうやってスマホですぐにやり取りできちゃうけど、手書きっていうのがいいんだよね。
わざわざ家まで来てくれたチョロ松は「ありがとう」と嬉しそうに受け取ってくれた。

「次私に回す時は家のポストに入れてくれててもいいよ」
「分かった。こっちもポストに突っ込んでてくれていいよ」
「オッケー。封筒か何かに入れとくね」

チョロ松はノートを開こうとして、「やっぱり家に帰ってからにしよう」と鞄にしまった。

「ふふ、なんかわくわくするね」
「うん、既に宝物になる予感だよ」
「そこまで?」
「あはは…変かな」
「ううん。大事にしてもらえたら嬉しいよ」
「そりゃするよ。…それじゃ、また書いてくるね」
「うん、楽しみにしてる」

チョロ松が帰っていくのを見送ってから、私も散歩に出かけることにした。交換日記で書ける話の種を探すためだ。
そうすると、いつもの景色の中にチョロ松が喜びそうな物がないか考えながら探すことになる。
交換日記ってめちゃくちゃ相手のことを考えさせられるツールだなぁ。

数日経ってから、ポストにノートが入れられていた。
わくわくしながら開く。
メロンパンをちぎってあげたことは覚えてくれていたみたいだ。嬉しいな。
あの後十四松が気に入って何度か食べに行ったみたい。へえ、知らなかった。
続けて、高校の時の思い出話が書かれていた。わー懐かしい。

『杏里ちゃんと同じクラスだった時、古典の授業で杏里ちゃんが寝てて、後で僕に聞きに来たことあったよね。あの時杏里ちゃん猫耳みたいな寝癖ついてたけど気付いてた?』

…知らなかった。
こんな風に私の記憶にないことも書いてある。よく覚えてるなぁ。
地味な学生時代だったけど、些細なことでも思い返してみるとこれはこれで充実していたのかもしれない。
後は恋人とか好きな人でもいればね…
そういえばチョロ松は好きな子いたのかな。
当時から六つ子は全員トト子に入れあげてたけど、基本可愛い子に目がなかったしな、あの六人。
これを機に聞いてみちゃえ。
町で見かけたにゃーちゃんの猫の手型手袋が可愛かった話と、高校の思い出話の流れで『あの時好きな子いた?』と書いてみた。

松野家のポストに入れてまた数日後にノートは返ってきた。
チョロ松からの返事を読もうとして、その前の一ページが破られていることに気付く。
綺麗に破り取られているから一見分からなかったけど。何か別のメモにでも使ったのかな。
あまり深く考えずに読んで、返事を書いた。
私の好きな子がいたかどうかという質問には、『僕達みんなトト子ちゃんがアイドルだったからね』と答えてくれていた。
読みようによってははぐらかされたようにも見えるけど、まあいっか。
『杏里ちゃんは好きな人いたの?』って質問には正直に『いなかった』と返す。面白味のない返事でごめんね。
よし、書けたからさっそくポストに入れに行こう。一応秘密の交換日記だから、他にはばれないように投函しないと。
前回と同じく、松野チョロ松様と書いた大きめの茶封筒に入れて家を出る。
すると、松野家に着く前にチョロ松に出会うことができた。ラッキー。

「交換日記書いたから、今からポストに入れに行くとこだったんだ。せっかくだから今渡すよ」
「ありがとう。杏里ちゃん書くの早いね」
「そうかな?自分のペースでいいからね」
「うん、杏里ちゃんもね」
「そういえば、チョロ松一枚ページ破いた?」
「えっ…!な、何で分かったの?」

何の気なしに聞いたら、かなりびっくりされた。

「あ、怒ってるわけじゃなくて…別にいいんだよ、ちょっと気になっただけだから」
「あ…そうなんだ、いや、僕も別に…ただちょっと書き間違えただけだから」
「そうなんだ」

チョロ松いつもペンで書いてるもんね。
でも修正液とか塗りつぶすとか他にも方法はあると思うけど…どうしても見られたくない何かを書いちゃったのかな。
私が一人で納得していると、チョロ松はノートを広げてさっそく読み始めていた。

「…杏里ちゃんって好きな人いなかったんだ」
「え?ああそこ?うんそうなんだよ、ごめんね自分から振った話なのに」
「ううん」

どことなくそわそわとノートをしまったチョロ松は、コホンと咳払いをした。

「杏里ちゃん今から暇?」
「うん、何もないよ」
「メロンパン食べに行かない?今度こそちゃんと半分こしよう」
「いいね。それも青春取り戻す感じだね」
「そうだね。…僕はもう少し取り戻したいけど」
「え、何て?」
「な、何でもない…!」

昔と変わらないパン屋で一つのメロンパンを買って、真ん中で半分にちぎる。
久しぶりにチョロ松と食べたメロンパンは、少しだけ甘く感じた。



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