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モデルの話


学校帰り、春香と一緒にショッピングに来た。
ショッピングモールの中をうろうろしながら、ショップを見て回る。

「新しい服が欲しいんだけど、何買おうかな…」
「あたしはポーチ欲しいかも。今使ってるやつとうとう破けちゃってさぁー」
「春香のお気に入りだったやつ?」
「そう…ま、雑誌のおまけでついてきたやつなんだけどねー。あ、そうだ、先本屋寄っていい?また可愛い付録ついてるやつあるかもしんないからさ」
「いいよ。私も雑誌で流行りの服勉強しようかな」
「うん、そうしな。あたしも色々チェックしなきゃだし」

お喋りしながらショッピングモールの本屋に入った。
女性誌コーナーに行って、たまに見ているファッション誌を探す。

「えっ…ちょっと!?」

奥の本棚に入った春香が急に大声を出した。

「何、どうしたの?」
「杏里、これっ、これ見てよ!」

興奮した様子の春香が手招く。
側に行くと、春香が一冊の雑誌を手にしていた。
その表紙が…

「……えっ!?一松くんたち…!?」

よく知っている六人がソファーに腰かけている写真だった。

「な、な、何これ、どういうこと…!?モデル…!?」
「杏里、一松くんから何も聞いてないの?」
「聞いてないよ!春香は?」
「聞いてない…何なのこれ!教えてよトド松くんてばー!」

二人で女性誌コーナーの前でパニックになった。
いつの間にファッション雑誌の表紙飾るようになっちゃったの…!?どういうこと!?

「みんな実はモデル活動してたのかな…!?」
「分かんない、とりあえず見てみようよ!インタビューも載ってんだって!」

春香がページをめくる。と…

「うっそ一人一ページとかすごくない!?」
「うわ…うわ…!」
「えーっマジモデルみたいじゃん!すごーい!」

シンプルな白のトップスと色違いのズボンを履いたみんなが、本物のモデルさんのようにポーズを作っていた。

「すごいみんなかっこいいじゃん!」
「う、うん…!」
「ほら杏里、一松くんのページだよ〜」
「うぅ」

一瞬見えた一松くんがかっこよすぎるからあんまり視界に入れないようにしてたのに…!
春香ににやにやしながらページを開かれて、恐る恐る写真を見る。
フードをかぶってパーカーの胸元をはだけさせている一松くんが、物憂げな表情をこちらに向けている。
ううう…かっこいい…!

「買う?」
「買う…!」

何でこんなことになっているかは分からないけど、これは買わないとだめな気がする…!

「あたしも買おーっと。つかトド松くんに報告……あっトド松くん!ちょっとどういうこと!?雑誌載ってるの見たよ!」

春香がトド松くんに電話をしている横で、私は一松くんのインタビュー記事を読んでいた。
記者さんの、目や猫背が色っぽい、というコメントが目に入る。
他の人から見ても、やっぱりそういう風に映るんだ。
そうだよね、ほんとにかっこいいもん…一松くんはあんまり自分に自信がないみたいだけど、こうやって雑誌に載っちゃうぐらいなんだよ。
これをきっかけに一松くんの魅力に気付く女の子、いっぱいいるんだろうな。
少し憂鬱になって本を閉じた。
本棚には、これと同じ雑誌がまだ並べられている。
たぶんこれと同じ数だけ、一松くんのことを知る女の子が出てくるわけで…

「え、あたし?カラ松くんが一番かっこよかったかなぁー……あははは!そんなにびっくりしなくてもいいじゃんっ」

とりあえず春香はカラ松くんが気に入ったみたいだ。うん、そこは良かった、けど…
はぁ。
ああ、私がこんな一松くんの彼女やっててもいいのかな。
雑誌モデルデビューした一松くんと、流行りもよく分からない平凡な私。
それに私、一松くんに雑誌に載るなんて話、聞いたことない。
一松くんの中では大したことじゃないのかな、こういうの。
秘密にされたのも、そんなに深い理由があるわけじゃないのかもしれないけど…
胸がだんだんとズキズキしてきた。

「ああ杏里?いるよ、ちょっと待って……杏里、トド松くん」

春香がスマホを渡してきた。

「え、私?…あ、もしもし?」
『もしもし杏里ちゃん?えへ、見てくれた?僕たちモデルデビューしちゃったよー!』
「うん、今見たよ!みんなかっこよくてびっくりしちゃった!」
『えー、みんなかぁ…まあ同じ顔だけどさぁ〜、誰が一番とかないの?』
「えっと…」
『あああ待った、言わなくていい、答え分かってるから』

くすくす笑いながら言われて、ちょっと恥ずかしい。

「それにしてもびっくりしたよ、いつの間にこんなことになってたの?」
『んー?ふふふ、ちょっとね〜。おかげで臨時収入も入っちゃったし、編集部の女の子たちと何人か連絡先交換できたし〜』
「ふふ、さすがトド松くんだね」
『……って春香ちゃんにも言ったんだけどさぁ、春香ちゃんノーリアクションなんだけど…ちょっとヘコむ…』
「えっ、トド松くんってやっぱり春香のこと…?」

気になる発言が出てきたから、慌てて声を潜めて聞いてみた。

『え?いや〜そりゃあ付き合えたらいいよね〜みたいな?春香ちゃん普通にいい子だし、可愛いしー』
「そ、そっか、そうだったんだね…!私応援するから!」
『ほんとに?ありがと杏里ちゃんっ、もし僕が付き合えたらダブルデートしようね〜』
「そうだね、しようしよう!あ、そろそろ春香に代わるね」
『うん、じゃまたねー!』

春香にスマホを返すと、早速トド松くんは次の遊ぶ約束を取り付けているみたいだった。さすが、トド松くん。

「うん、じゃあまた連絡する!はーいばいばーい……お待たせ杏里、これ買ってくる?」
「うん」
「あたしも一冊っと。友達が雑誌に載ってるなんてなかなかないよね!あーびっくりしたー」

けらけら笑う春香と一緒に本を買って店を出た。
ショッピングは続いたけど、さっき感じたもやもやした気持ちもそのままで…
家に帰ってきても心はまだ晴れていなかった。
荷物を下ろして一息つく。
ベッドに寝転んで、買った雑誌を開いた。
私の知らない一松くんがいる。

「……」

一松くんが遠くに行ったような気がして、無性に寂しくなってきた。
スマホを取り出して、一松くんにメールを打つ。

『雑誌に載ってたの見たよ!本当のモデルさんみたいですごかった!』

何で話してくれなかったの、なんて聞くと重いって思われそうで書けない。
とりあえずそれだけをメールに綴って送信した。
もしかしたら、これから別の雑誌にもモデルとして登場したりして、六つ子なんて珍しいから芸能界に入ったりなんかして、そしたら私よりも可愛い子といっぱい知り合って……
スマホが鳴った。電話だ。一松くんから。
早いなぁ、今メール送ったばっかりなのに。

「もしもし」
『見たの』
「うん、見たよ!びっくりした」
『……』
「一松くん?」
『……あんまり、見られたくなかったんだけど』
「え、どうして?モデルさんみたいですごいなって思ったけど」
『いや…モデルの真似事とかさせられて笑い者にされただけだから』
「そんなことはなかったけど…」
『大体六つ子のニートをファッション誌で特集するってどういうこと?方向性おかしいでしょ。話題性が欲しいだけだって…飽きたらすぐ捨てるくせに』

一松くん、あんまり撮影に気が進まなかったんだな…
でもいつも通りの一松くんで少し嬉しい。

「撮影疲れた?」
『疲れた。何かずけずけ質問してくるし。初対面なのに色々探られてほんと疲れた』
「トド松くんは楽しそうだったけど」
『ああ…あいつとカラ松はノリノリだったけど、俺すぐ帰ったし』
「そうなんだ。でもかっこよかったよ一松くん!雑誌買っちゃったよ私」
『えっ』

一松くんの言葉が途切れた。

『…か…買ったの』
「うん。えへへ、今も見てるよ」
『…別に、俺なんか見たって何も面白くないでしょ』
「ふふふ、そんなことないよ。すごくかっこいいよー」

素直に気持ちを伝えたら一松くんが黙ってしまった。
照れてるのかな?

『……見てほしくないから言わなかったのに…』
「え、見ちゃだめだった?」
『そうじゃ、ないけど…だって俺だよ?しかも俺だけじゃない、同じ昭和顔が六つもあって、堂々と童貞ニートって紹介されてんだよ。ただの恥さらしだからこんなの』
「一松くんはそう思ってたんだね…」
『だから、別に、こんなの…見なくて良かったし』
「私は楽しかったけどな。プロのカメラマンさんに撮ってもらったみんな、かっこいいよね」
『………みんな?』
「うん、身近な人がこんなに素敵な感じになっちゃってると気後れしちゃうな、って、ちょっと思ってて…」
『安心していいよ。中身はクズのままだから』
「クズだなんて思ったことないけど…今こうやって電話してて安心した」
『安心?』
「うん…あのね、一松くんが知らないうちに雑誌とか載ってて、何か、遠い人になっちゃったみたいで、ちょっと寂しいなって思ってたから…」

思っていたことを吐き出すと、少し楽になった。
今は電話の向こうから聞こえてくるいつもの一松くんの声にすっかり安心してるんだけど。

『…杏里ちゃん』
「なに?」
『…今から、会いに行っていい?』
「え」

突然の申し出にドキッとする。

「い、いいよ。私今から何もないし…」
『…うん。すぐ行く。家?』
「うん、今家」
『分かった。じゃ後で』

電話はそこでおしまいになった。
雑誌の横にごろりと丸まる。
わー、今から会いに来てくれるんだ…!
でも急にどうしたんだろう。すごく嬉しいけど…
ベッドから起き上がってメイクや服の乱れをチェックしてる内に、玄関のチャイムが鳴った。早いなぁ…!

「一松くん、どうぞ」
「…お邪魔します」

いつもの紫のパーカー姿でのそのそと入ってきた一松くんは、ベッドの上の開いたままの雑誌を見てパタンと閉じた。

「ほんとに見てるし…」
「ふふふ、見てました」
「羞恥プレイだっつの」
「自分の写真は見たの?」
「一瞬だけ。自分をずっと見てんのはクソ松だけでいいから」
「あはは、カラ松くんずっと見てるんだ」
「ケッ、この顔の何が面白いんだか…」
「でもかっこよかったよね、あれは自分で考えたポーズなの?」

一松くんの隣に座りながらそう聞いたら、何とも言えないような顔で凝視された。

「…一松くん?」
「………かっこいい?」
「え、うん。かっこよかったよ、みんな…」

そう言うと、一松くんの目がもっと細くなった。

「…ふーん、みんなですか…」
「一松くん?」
「いいですけどね、どうせ同じ顔なんで…区別とかあってないようなもんだし誰が誰でも一緒だし」

…あ、もしかして拗ねてるのかな。
閉じられた雑誌を開いて一松くんのページを出した。

「あ…私、は、この一松くんが一番かっこいいなって思ったよ」
「お世辞とかいいですよ…」
「ほ、ほんとだってば!このフードで影になってる感じとか、表情とか、全部すっごく好きだよ!」
「………っ」

い、勢いで好きとか言っちゃった…!顔が熱い。
でも、ほんとのことだし…
と思ってると、一松くんによってまた本が閉じられてしまった。

「……こんなの見なくても、本人が隣にいるんだから、」

本を閉じた手が私の手にそっと重なった。
あ、熱い。

「俺の方、見てよ」

全身に一気に熱が回って倒れそうになった。
何で一松くん、こんなことさらっと言えちゃうのかな。私、こんな時何て言ったらいいの?
何も言葉にならなくて呼吸が苦しくなる。
えっと、えっと、

「……み、見てるよ、いつも、一松くんだけ…」

やっとの思いでそれだけを言えた。
ううう、恥ずかしい…!穴を掘ってでも入りたい…!
体が燃えたぎりそうなほど熱いのを頑張って冷まそうとしていると、目の前からぼおっという音が上がった。

「…え、一松くん!?一松くん燃えてるよ!!一松くん!!」

一松くんが文字通り燃えていた。赤い炎に包まれてる…!人体発火って言うんだっけ、こういうの…?
恥ずかしいとかそれどころじゃなくなって必死に消した。
何とか消えてくれて、一松くんは無事だった。良かった。
何か限界を突破しちゃうとこうなっちゃうみたい。初めて知った。
どうしたらいいか分からない雰囲気がうやむやになって正直ほっとしたけど、もったいなかったかも…
もうちょっと恋人らしい雰囲気に慣れないといけないな、なんて思った出来事だった。


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