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いまの話


今日のバイトは早く終わった。
時計を見るともうすぐ七時。
夕ご飯はどうしようかなと考えて、久しぶりにおでんを食べようと思いついた。
一松くんに教えてもらってから何度か通うようになった、チビ太くんのおでん屋さんに行こう。
今日やってるかなぁ。
川沿いの団地まで出てみると、遠くに赤い灯りが見えた。良かった、やってるみたい。
あ、一松くん誘ってみようかな。
もうご飯食べてるかもしれないから控えめな文章で送っておこう。よし。
メールを送り終えてからおでん屋に近付くと、お客さんが一人いるのが見えた。
あれ、あの赤いパーカー…

「あ、やっぱりおそ松くんだ」
「おお〜!杏里ちゃぁん!」
「おー、久しぶりだな」
「うん、久しぶり。おそ松くんもう飲んでるんだね」

ふにゃふにゃした笑顔のおそ松くんの隣に座った。

「杏里ちゃんも酒飲むぅ?」
「ううん、私はいいや。今日はおでんいっぱい食べに来たんだ」
「杏里ちゃんは数少ねぇ良客なんだ、あんま絡むなよおそ松」
「あぁ?友達かつ弟の彼女に絡むなってかぁ?んな無茶言うなよー」
「ふふふ」

仲いいなぁ。
チビ太くんが玉子を入れてくれたので、さっそく口に運んだ。おいしい…!

「杏里ちゃんうまそーに食べるねぇ」
「おそ松くんもおいしそうにお酒飲むね」
「へへへ、酒はいつ飲んでもうまいんだよぉ」
「こいつ五時辺りから飲んでんだぞ?ほんっとどうしようもねぇクソニートだな」
「ふふふ、そんな時間から?」
「酒飲むのに時間は関係ねーの!」
「ニートだからな」
「うるせぇなぁ…」

二人の面白い会話を聞きながらおでんを食べていると、一松くんからのメールが来た。
今から行く、かぁ。えへへ、来てくれるんだ。
隣のおそ松くんが私にしなだれかかってスマホを覗きこんできた。

「あー?一松から?」
「うん。さっき誘ったの」
「おそ松、気ぃ利かして帰れ」
「えーっ!俺じゃま?杏里ちゃん!」
「ううん、そんなことないよ」
「だーってさ!チビ太ざまぁ!」
「ガキかお前は…」
「あはははっ」

誰かと一緒のご飯はおいしいなぁ。巾着をもちもち食べる。
おそ松くんはちびちびとお酒を飲んでばかりだった。もうおでんはいいのかな。

「おそ松くんはおでんの具だとどれが好き?」
「ん〜、今は牛すじな気分。杏里ちゃんは?」
「私玉子が好きなんだ」
「おっちゃん!玉子一丁!」
「誰がおっちゃんだ誰が!おめぇに言われなくても聞こえてんだよ、ほら」
「ありがとう」

またチビ太くんが私のお皿に玉子を入れてくれた。
初めてこのお店に来た時には、一松くんがお皿いっぱいに玉子入れてくれたんだっけ。
…そういえば、一松くんっていつから私のこと好きでいてくれてたんだろう。
いつか聞いてみたいけど、恥ずかしいな…
そうそう、もう一つ気になってることがあった。
はんぺんを食んでるおそ松くんにお酒を注ぐついでに聞いてみる。

「あ、あんがとー」
「ううん。あのね、おそ松くんに聞きたいことがあるんだけど」
「ん?なにー?」
「私にエスパーニャンコの面倒見ててって頼んだ時あったでしょ?あの時、家に誰もいないって言ってたけど…一松くんがいることは知らなかったの?」
「え、知ってたよ」

当然といった顔で言うのでちょっとびっくりした。

「じゃあ、誰もいないって嘘だったんだね。あ、責めてるわけじゃないんだけど…」
「俺嘘はついてないよー」
「え?」

おそ松くんがにやにやしだした。
何だろう、私変なこと言ったかな…

「正確には、いま誰もいないって言ったの俺」
「え?どういう…」
「あーあれね、いまってナウじゃなくてリビングって意味ね」
「…あ…!」

そ、そういうことかぁ…!わーやられた…!!
確かに、そういう意味なら嘘は言ってない。居間には猫しかいなかったわけだし…
おそ松くんがしてやったりな顔をしてる。

「エスパーニャンコを連れてきたのもおそ松くん?」
「せいかーい!まあこれは十四松のアイデアだけどー。後はあいつらにも協力してもらって家開けといたぐらい」
「…すごいね、こうなるって分かってたの?」
「いや、むしろここまでうまくいくとは思ってなかった」
「こいつこういうこすい知恵だけは働くんだよなぁ昔から」

チビ太くんが呆れたように言うけど、私にとってはなくてはならないものだったからすごくありがたいと思う。

「こすいとか言わないでくれる?俺それで恋のキューピッドになったわけだからね?もっと感謝してほしいもんだよ一松とか杏里ちゃんとか杏里ちゃんとか杏里ちゃんにさぁ?」
「ふふふっ…そうだね、おそ松くんありがとう」
「どーいたしまして!お礼してくれてもいーよ?」
「あはは、何がいい?」
「え〜いいの〜?じゃあ〜、一回だけ」

急におそ松くんの頭が伏せられて取り皿に突っ込んでいったので、その先を聞くことはできなかった。

「…え!?おそ松くん!?」
「おい一松!おでんを粗末にすんじゃねぇ!」
「杏里ちゃんの貞操に比べたらおでんなんてクソどうでもいいだろうが…」
「てめぇおでんを馬鹿にしてんのかバーロー!表出やがれってんだチクショー!」
「もう既に外だけどねここ」

どうやらいつの間にか来てた一松くんが、おそ松くんの頭を押さえ付けたみたいだった。
おそ松くんががばりと起き上がる。良かった、お皿に乗ってたのが冷えたはんぺんだけで。

「おい一松!俺感謝されるべき人間だろ!?言ってみろああん!?お前と杏里ちゃんくっつけてやったのはどこの長男様だァ!?」
「エスパーニャンコ」
「そうじゃねぇ!」
「じゃあ十四松」
「そうじゃ…そうだけどそうじゃねぇ!!」
「てか何でおそ松兄さんがいるの」
「私が来たときにはもういたんだよ」
「そーそー。杏里ちゃん口説いてた」
「何それ遺言?」
「おそ松よぉ、余計なこと言わねぇで二人から感謝されときゃいいじゃねぇか」
「うるせぇぇ!俺はもっともっと感謝されるべきなの!労ってもらうべきなの!さっきお前こすい知恵とか言ったけど、それなかったら一松はずっと闇松のままだったんだかんな!」
「…まあそこは感謝しなくもなくもなくもないけど」
「え?それどっち?」
「おそ松兄さんから悪知恵取ったら後は何も残んないしね。唯一の取り柄だしね」
「あーそりゃ言えてんな。悪知恵イコールおそ松みてぇなとこあるもんな」
「そうだ…これから悪知恵のことをおそ松兄さんと呼ぼう」
「ねー杏里ちゃん聞いてくれる?俺ね、心壊れそう」

笑って聞いてたらおそ松くんが涙目になっていたので、慌ててフォローに回った。

「わ、私は、おそ松くんに感謝してるよ」
「杏里ちゃん…!」
「おそ松兄さんありがとう」
「こいつ…!!」

一松くんがおそ松くんと私の間に入ってきた。

「あぁ〜俺の唯一の癒しが遠くなっちゃったよぉ」
「杏里ちゃんまた玉子食べてんだ」
「あ…うん」
「無視!」

おそ松くんがすねてお酒を飲むのに戻ってしまった。
でも、こんな感じでもちゃんと兄弟の信頼関係があるんだろうな。
だってそうでもなきゃエスパーニャンコを連れてきたりしてくれないと思う。
後で聞いたら、薬で一時的にエスパーになってたみたいだし。わざわざそこまでしてくれたってことだよね。
注射したって言ってたから、猫ちゃんの方には怖い思いさせちゃったかもしれないな…今度会ったらいっぱい猫缶あげよう。いつもどこにいるんだろうなぁ。

「よーいしょ」
「わ」

一松くんと反対側の隣に、お猪口を持ったおそ松くんが移動してきた。
顔を見るとにっこり笑われた。

「あはは、こっち来たんだ」
「うん!杏里ちゃんも飲もーぜぇ」
「うーん、私は…」
「おい、さっき杏里ちゃん飲まねぇっつってただろーが」
「えー?そうだっけ?」
「この人ザルみたいな頭だからね」
「まぁ知ってたけどよ」
「杏里ちゃぁん」

涙目のおそ松くんがもたれてきたので背中を撫でてあげた。

「ごめんね、今日は飲まないつもりなんだ」
「てか離れてくんないクズ松兄さん」
「んだよ!いーじゃん別に!お前は杏里ちゃんの彼氏かっつの!」
「彼氏だよ」
「だあぁーっ!!俺も彼女欲しいぃぃぃぃ!!」

一松くんが即答で彼氏だって言ってくれたのが嬉しくて、隣で叫ぶおそ松くんと同じくらい心の中が騒いだ。
でも一松くんは何でもないようにしれっとしてるから、私も顔に感情が出ないように頑張った。平然を装って玉子の残りを頬張る。
でも…これからは私も堂々と一松くんの彼女だって言えるんだなぁ。
しみじみとそんなことを思ったらすごく幸せな気がしてきて、お酒を飲んでないのにふわふわしてきた。

「杏里ちゃん幸せそうな顔してやがんなぁ」
「え!そ、そう?」

チビ太くんに指摘されて慌てたら、おそ松くんにほっぺたをつつかれた。

「あは、杏里ちゃんかーわいい」
「う…」
「おそ松その辺にしとけよ…」

顔に出ないように頑張ってたけどできてなかったみたい。恥ずかしい…

「…ほんと玉子好きだよね杏里ちゃん」

良かった、玉子食べてるからだと思われてた。

「う、うん。おいしいよ」
「俺も食べようかな…」
「いいよ、はい」

玉子を割って一松くんの口に持っていった。

「………」
「一松くん?」
「おーい一松ー、生きてるか?」
「くっ…これがリア充…!」
「え?……あ!あ…ち、違うよね!私の玉子ってことじゃなかったよねごめんね…!間違えた!ごめん!」

あああもう恥ずかしい…!
普通に考えたら分かるじゃない、何でこんな勘違いしちゃったのもうやだ…!
温かいおでんを食べてたこともあって体がすごく熱くなってきた。帰りたい…!
思わず顔を手で覆った。そのまま机に突っ伏す。

「杏里ちゃぁんそれ俺にもやってぇ!」
「ナチュラルに見せつけてくれんじゃねぇかバーロー!」
「違うの…間違えた…!」
「うわ、一松何でそんな割り箸バキバキになってんだよ…」

平静を取り戻すのにすごく時間がかかった。
こんな感じでこの先、一松くんと一緒にいてて心臓持つのかな…!
ちょっと心配になった出来事だった。


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