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すごく興奮してたと思う。
こんな光景見たの初めてだったから。
今でもまだ少し信じられないくらい。

松野さんが猫カフェを出ていったのを窓越しに眺めていたら、近くの茂みの中からわらわらと五人の人が飛び出していった。
それを追いかける松野さん。あ、もう追いつい…すごく的確な飛び蹴りを…!
あっという間に全員を倒した松野さんは、五人にこちらに背を向けて正座をさせて、何かを言っているようだった。か、顔が、怖い。
何だろう、知り合いの人なのかな。どういう関係なんだろう。
気になったので会計を済ませて私も行ってみることにした。
近付いてみると、私にまだ気付いてない松野さんはぼそぼそと低い声で何か喋っていた。よく聞こえなかったけど、正座している五人がものすごく怯えている。

「あ、あの、松野さん…?」

おずおずと話しかけると、松野さんがびくっとしてこっちを見た。すごく目を見開いてる。
そんなにびっくりさせちゃったかな…と戸惑った私は、松野さんと同じく振り向いた五人の顔を見て心臓が止まりそうになった。

みんな同じ顔してる…!?

「どうもー初めまして!うちの弟がお世話になってます!」
「え、え…弟?」

赤いパーカーを着た人がぱあっと明るい顔になって話しかけてきた。
弟、ってことは、みんな兄弟なの…!?

「あ、ごめんねぇびっくりしたでしょ?僕たち六つ子なんだぁ」

六つ子…!?
ピンクのパーカーを着た人の言葉に、また目を見開く。
すごい、初めて見た…!

「すっ…すみません、僕達邪魔するつもりはなかったんですけど…」
「うんうん。一松兄さんが心配だったんだよ!」
「フッ…見れば見るほどスウィートなハニーだな…」

青いパーカーの人が喋りだしたとたん、松野さんの雰囲気が変わった気がする。めちゃくちゃ睨みつけてる…
あまりの事態にぼーっとしてたけど、はっと我に返った。

「は…初めまして、小山杏里と言います!松野さんとはお友達で…」
「え」
「松野さんって一松のこと?でも俺たちも『松野さん』だから、君と俺たちももうお友達だね!」
「よろしくね杏里ちゃん!あ、僕松野トド松って言うんだ〜連絡先交換しない?」
「ちょ、ちょっとお前ら!一松をほっといてアピールしてんじゃねーよ!」
「よく言うよチョロ松が偵察に一番乗り気だったじゃん」
「おそ松兄さんもトド松もいきなり馴れ馴れしいって言ってんの!」
「フッ、君との出会いに感「ぼく十四松!五男だよ!それでね、一松兄さんは四男!」…」

「お友達」と言った時に松野さんがびっくりしてたみたいだけど、それ以上にご兄弟のパワーがすごくて、意識がそっちに向いてしまった。
一通りの自己紹介を終えて、改めて皆さんの顔を見る。本当にそっくりだ…!

「一松さんがいっぱいいるみたいです」

一松さん(こう呼ばないと区別できないよね)にこそっと話しかけると、「うるさくてごめん」と謝られてしまった。

「そんなことないですよ。不思議な感じですけど、たくさんご兄弟がいらっしゃっていいですね!」

私としては褒めたつもりだったんだけど、一松さんは苦い顔をした。

「邪魔なだけ」
「邪魔とかひでーなぁ。俺達見つけても来なきゃ良かっただけの話だろ?」
「は?」

あ、一松さんが、すごく怖い…

「ちょっとちょっと一松兄さん!杏里ちゃんが引いてるって!」
「い、いえそんなことは…!」
「ねー杏里ちゃん、これからどこ行くの?」
「えっと…どこかでお茶でもしようかなって思ってたんですけど」
「んじゃスタバァ行こーぜスタバァ!な、トッティ」
「う、いいけどあの店じゃないとこにして」
「おいお前らなぁ…」
「よーっしこっから一番近いスタバァどこだ!」

流れでみんなでスタバァに行くことになった。
一松さんは喋らなくなってしまった。不機嫌そうにマスクを元通りにつけ直している。
兄弟がたくさんいて楽しそうだと思ったけど、一松さんは静かな方が良かったのかもしれないなぁ。
みんなと離れて後ろの方を歩く一松さんに、そっと歩調を合わせた。

「一松さん」
「……」
「あまり、スタバァ行きたくなかったですか」
「……」
「……」

気まずい…
一松さんはあまり目を合わせてくれなくなってしまった。
お礼のつもりで誘ったのに、機嫌悪くさせちゃったなんて本末転倒だ。

「一松さん」
「……」
「良かったら、ですけど。また日を改めて二人でどこか行きませんか」

提案してみたら、一松さんがそろっとこっちを向いた。すごく見つめられてる。

「…いいの」
「は、はい。一松さんが良ければ」
「……そっちこそ、」
「はい?」
「俺といて、いいの」
「どういうことですか?」

一松さんはちょっと目をそらして何か迷ってるみたいだった。

「…またあいつら付いてくるかも」
「私は構わないですけど、一松さんが落ち着かないなら何回でも改めて遊びに行けばいいですよ」
「………」

黙りこんで頭をかいた一松さん。
気の乗らない提案だったかな。私はもっと一松さんと仲良くなりたいんだけど。

「……俺、あいつらみたいに明るくないし…」
「気にしませんけど…というか、一松さんも別に暗いってわけではないですよね」
「………小山さんって、変わってる」

あ。
マスクを少し下ろして、ゆるく弧を描いた口元が見えた。
笑ってくれた。
それだけでなぜだか、胸が温かくなる自分がいる。

「それじゃ、またどこか行きましょうね!」
「うん。…ありがとう」
「こちらこそ!」
「あ、…あと…」
「何でしょう」
「あ……さっき、友達、って。俺のこと…」
「はい。あの、もうお友達のつもりでいたんですけど、ご迷惑でしたか?」
「全く」

即答された。ほっとした。


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