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部屋の主が白雪姫みたいに眠っているそばで、私は少し居心地の悪い思いをしていた。
にわかには信じがたいけど、このキラキラした八頭身の人たちはやっぱりおそ松くんたちらしい。
さっきまでいつもの姿だったんだけど、「逆ハーレムって何?」と聞いたらこうなってしまった。
何か、成長したと言うよりは違う世界の人のような…

「ね、杏里ちゃんどう?この姿の俺たち」
「えっ…あの…みんなどうしてそんな姿になれるの?」
「これはF6モードだよ!」
「F6…?」
「あーっあのほら!デカパン博士の薬でね!?こうなってるっていうか!」
「そうそう!トト子ちゃんがさぁ、この姿の僕らを気に入ってくれてたからプレゼント代わりにならないかなって!」
「あ、なるほど…そういうことなのね」

完全に女の子になる薬も作ったらしいし、こういうのもあるんだなぁ。
でもこれ、どういう薬なんだろう…モデルになる薬かな。うーん…
戸惑いを隠せていない私をよそに、お菓子を食べているみんな。
あ、トト子ちゃんの分よけておいてあげよう。あんまり食べられてなかったもんね。その前に気絶しちゃったし。
箱の中から適当に何種類かを取っていると、横に誰かが座った。
えーと、紫の髪だから、一松くんだ。
こんな風になっちゃうんだなぁ…

「…びっくりした?」
「したよー、もう誰かと思っちゃった」
「どう?」
「え?」
「多少は…マシになったと思うけど」
「マシ…?」

うーん、中身は一松くんだし、声もそのままだけど…

「私は…いつもの一松くんの方がいいかな」
「だよね俺もこのモード疲れるし」
「わっ、元の姿に戻るのも一瞬なんだね…って、あれ?なんか一松くん灰色に」
「わーっ杏里ちゃん僕だーれだっ!?」

また目隠しをされた。

「えっと、トド松くん」
「せ、せいかーい!杏里ちゃんにはすぐ分かっちゃうんだねっ!」

目隠しを外された。どことなく焦った顔のトド松くんがいる。
一松くんは見慣れたいつもの姿になっている。でも…

「一松くん、さっき全体的に灰色になってなかった…?」
「そっ、そんなまさかぁ!白黒テレビじゃあるまいし!ねっ!」
「白黒テレビ…?」
「おい一松気を付けろよ」
「焦って加減間違えた…」

加減って何だろう、薬の量かな…
ともかく、一松くんが元の姿に戻ってくれてよかった。他のみんなはまだF6?モードだけど。

「すごいね、見た目全然変わっちゃうね」
「この状態だとみんな気絶するぐらい喜んでくれるんだけどね」
「ああ、トト子ちゃんも気絶しちゃったね…」
「杏里ちゃんはそんなことない?」

おそ松くんが私のあごに手をかけた。至近距離で瞳を覗きこまれる。
いつもより大きいおそ松くんの瞳に私の姿が映る。

「ち、近くて緊張はするけど…」
「おい爽やかジャスティス、前見てみろ」
「え?…わ、分かったって、そのバズーカ下ろしてよ…」

バズーカ?
カラ松くんの声でおそ松くんが離れたので後ろを振り返ると、いつもの一松くんがお茶を飲んでいるだけだった。
今日は不思議なことばっかり起こるなぁ。

「それにしても、トト子ちゃんの誕生日パーティーなのに本人が気絶しちゃうなんて」
「あーまあ別にいいんじゃない?幸せそうだし」
「おそ松くんたちがやろうって言ったんだっけ」
「うん、でもぼくたち暇潰ししたかっただけだから!あははは!」
「あははっ、そうなんだ」

十四松くんにつられて笑った。十四松くんは見た目は変わっても、雰囲気はあまり変わんないな。

「杏里ちゃんは今日は予定なかったの?」
「うん、朝ジムに行ってきたぐらい」
「おおちゃんと行ってんだ?偉いねぇ」
「腹筋割れた!?」
「ふふふ、そこまでじゃないよ」
「いつも夜行ってんじゃなかったっけ」

一松くんがちらりとこっちを見た。

「うん、そうなんだけど…変な噂聞いたから」
「変な噂?」
「うん…ジムで知り合った人がね、夜遅く帰る時に誰かに後をつけられたんだって。それが何回かあったらしくて」
「うわ、変質者ってこと?」
「多分。今はつけられてないんだけど、まだ捕まってはないみたい」
「危ないよそれ、杏里ちゃんも夜は行かない方がいいよ」
「うん、しばらくは昼間に通ってみるつもり」
「何かあったら一松に電話しな〜。な、一松?」
「…うん」
「あ、ありがとう…!」

おそ松くんって私が一松くん好きって気付いてるのかな…いや、単に一番仲がいいからだよね、きっと。

「あ、そーだ杏里ちゃん旅行行かない?」
「旅行?みんなどこか行きたいの?」
「おそ松兄さんが一人で言ってるだけだよ、ったく金もないのに」
「だってせっかくの休みだよー?どっか行きたいじゃん」
「俺達ずっと休みだろ!自分で言ってて悲しくなるわ!」
「だから杏里ちゃんが休みだって話してんだよ。俺たちの予定なんか計算に入れるまでもないでしょ」
「確かに〜」
「悲しくならねぇのかお前らは!」
「杏里ちゃんどっか行きたいとこあるー?」

姿は違うけどいつも通りの会話で笑っていたら、十四松くんが聞いてきてくれた。

「そうだな…今すぐは思い付かないけど、でも旅行かぁ。私の両親もね、もうすぐ北海道に旅行するみたいでいいなって思ってたんだよね」
「北海道かーいいね!」
「景色綺麗だろうね〜」
「まー俺らはそこまでの金はないから無理として…近場ではどっか行きたいとこない?」
「近場だと…あ、最近スパリゾートができたよね?ちょっと行ってみたいかも」
「あ!いいねースパリゾート!僕も行ってみたかったんだ〜」
「トッティなにスパリゾートって」
「バカなおそ松兄さんにも分かるようにものすごくざっくり言うと、色んなお風呂やプールに入れる場所だよ。大混浴場って感じ?」
「あー銭湯の豪華版みたいなやつね…うん、いいね」

おそ松くんがにやりと笑う。

「よし、そこに行こう」
「いいの?私の希望通してもらって」
「全然!俺たちも銭湯ならよく行くし!一緒に風呂入りに行こーぜ!」
「お前が何考えてるか手に取るように分かるけど、みんな水着着てるからね」
「ええっマジかよ…!まあそれでもいっか、水着だし」
「ありがとう。楽しみだな」

水着持ってたかな。お父さんたちが旅行に行く前に実家から送ってもらわなきゃ。

「俺も楽しみすぎるよ〜」
「何が楽しみですって?」
「わ、トト子ちゃん起きてたの?」
「私を置いてみんなで旅行の話とかずるい!私も行く!」
「もちろんだよ、一緒に行こう?」
「やったぁ!杏里ちゃん、また水着買いに行くの付き合って!」
「うん、いいよ」

そっか、買いに行くって手もあったな。せっかくだから、可愛いのが欲しいな…
こっそり一松くんの方を見る。
ジムに通ってるおかげで少しは体もしぼれたと思うし、ちょっと変わった私を見てもらえるチャンスかもしれない…!
野望を胸に秘めて、トト子ちゃんとのお出かけの予定を立てた。

「で、一松は何で頭抱えてんの?」
「爆発したんじゃない、脳内が」
「想像だけでとかさすが俺たち新品だよな」
「ねーみんな、トト子の水着どんなのがいいかなぁ?」
「もう何でもいいよ〜!どれでも可愛いよ!」
「えへっ、やっぱり?」

トト子ちゃんの誕生日パーティーは、旅行の計画を立てる時間に変わっていった。
この幼なじみグループに入れてもらえたの、嬉しいな。ああ、当日が本当に楽しみ!


トト子ちゃんの家からの帰り、また一松くんが送ってくれることになった。他のみんなは用事があるみたいで一松くんと二人きり。
陽は完全に落ちていなくてまだ明るかったけど、この時間でも変な奴がいないとは限らないから、って。
さっきの何かあったら電話してくれていい、って話もそうだけど、こうやって一松くんに女の子扱いしてもらってるのがものすごく幸せで嬉しい。

「スパリゾート楽しみだね!」
「うん」
「一松くんは水着持ってる?」
「多分。…杏里ちゃんは、ど、どういうの持ってんの」
「持ってるのは水色のなんだけど、新しく買おうと思ってるの」

色々とサイズが変わっている可能性を考えて…!

「へえ…」
「どういうのが流行りなのかなぁ」
「さあ。杏里ちゃんの好きな色は」
「うーん、強いて言えば黒かな」
「…く…!く、黒は……」
「え、だめ?」
「いや、あの…ま、まだ早い…」
「そ、そう?」

黒系の服は合わせやすいってだけだったんだけど、確かに水着で黒はちょっと派手かもしれない。
すごくセクシーなお姉さんが着てるってイメージだし。

「うん、じゃあ黒はやめておこうかな」
「…に、似合うとは、思うけど」
「じゃあやっぱり黒に」
「あああいや早いまだ早い」
「ふふふふっ、どっちなの…!」

一松くんって、けっこう古風な考えの人なのかも。女の子に黒は早いって言うぐらいだもんね。

「じゃあ黄色系にしようかな」
「黄色?何で」
「前一松くん、黄色似合うって言ってくれたでしょ?だから私に似合う色なのかなって思ってたんだけど」
「……」
「どうかな」
「…黄色、はちょっと…」
「だめなの?」
「いや、その…個人的には…あくまで個人的にはの話だし聞き流してくれて問題ないレベルのあれだけど」
「うん」
「…黄色、よりは、白とか」
「白かぁ…」

普段はあんまり挑戦したことない色だなぁ。

「…あのほんとに聞き流してもらって構わないんで今すぐ記憶から消してくれて」
「ううん、白で考えてみるよ!普段着ない色だから、試してみるね」
「まっ…マジかよ……」

それに、他でもない一松くんからのアドバイスだったら取り入れないわけがないよね!うん、絶対白系の水着にしよう!

「みんなの水着はまた色違いのお揃いなのかな」
「多分ね…あートッティが新しいの買ってそうだけど」
「トド松くんおしゃれだもんね」
「あざといだけだよ」
「あざとい…?」
「大してイケメンでもないのに台詞とか服とかでごまかしてる感じ」
「そうかな、一松くんもああいうの似合ったりするんじゃない?」
「えっ…」

一松くんが絶句した。そんなに衝撃発言だったかな。
しばらく黙ってた一松くんだけど、「やっぱ無理」と返ってきた。

「今トド松の服を自分が着たとこ想像したけど見るに堪えないレベル」
「そ、そう…?」
「キャラじゃない」
「そっか…まあ、同じ顔でもそれぞれに合う服は違うのかもね」

さっきのF6モードもそうだけど、やっぱりそのままの一松くんが一番いいな。

「杏里ちゃんは何着ても似合うでしょ、絶対」
「そんなことないよ。でも、じゃあやっぱり黄色の水着でも良かったのかな」
「う…き、黄色は、十四松の色だから…」
「あ、そっか。被っちゃうんだ」

だから気にしてくれてたのかな。
私は気にならないけど、みんなの間で色被りはあんまり良くないイメージなのかも。

「じゃあ一松くんのアドバイスに従って白にします」
「う、うん……楽しみ」
「そうだね!スパリゾートなんて初めて行くから私も楽しみだよー」

何てったって一松くんと一緒だもんね!
当日までに頑張ってもう少し体型整えよう…!


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