×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



一松くんたちの家を出て、すっかり雨のあがった曇り空を見上げた。
はぁ、ドキドキした…!
急に一松くんが寄りかかってくれるなんて思わなかったから心臓の音がすごかったよ!
一松くんやおそ松くんに聞こえてなければいいんだけど。
挙動不審になってなかったかな私…大丈夫だったかな?
一松くんのパーカー着れただけでちょっとパニック状態だったのに、あんなに体くっついてたら身も心も持たないよ!
ちょっと残念な気もしたけど、十四松くんに起こしてもらって良かったかも。

「は…くしゅんっ」

まだ生乾きの髪から、体温が奪われていく気がする。少し背中がぞくぞくとした。
早く帰ってお風呂入って温まろう。
家への道を急いでいると、スマホが音を鳴らした。
あ、トド松くんからだ。
…え、この写真って一松くんが寝てる時の…!?

「……っ!!」

か、可愛い…!!
隣にいた時はあまり見れなかったけど、寝顔ってこんなのなんだ…!!
酔った時みたいにふにゃってしてる!!可愛い…!!!
ちょっと抑えられなくなって、電信柱の陰に隠れてにやけた。
トド松くんありがとう…!!
心の中は花吹雪みたいになってるけど、平静を装って猫みたいだねと返事をした。
深呼吸をして顔を元に戻してからまた歩き出す。
でも足取りがちょっとふわふわしてるのが分かる。
あああ、雨ありがとう!
家に着いてからも夢心地で夕ご飯の準備をしていると、またスマホが鳴る。今度は一松くんからだ。
寄りかかって寝ててごめん、だって。嬉しかったのにな。
なんて返すと引かれそうだから全然いいよ、と。
あ、いつ本屋行こうかな。予定も聞いとこう。
片手間で料理をしつつ、スマホの方がすごく気になってる。わ、返事来た!
いつでもいい、か。
明日でもいいかな。
いつもは午前中だけ学校があって午後からはバイトなんだけど、明日は臨時休業の日なんだよね。でもさすがに気が早すぎるかなぁ…
うん、ここもトト子ちゃんの積極性を見習おう。送信っと。
あ、一松くんがオッケーしてくれた。やったね!
二日連続で会えるなんて本当ラッキーだなぁ。運を使い果たしちゃいそう…
そんなことを思いながら味も分からないまま夕ご飯を食べていた私は、肝心なことを忘れていた。

その結果………



「っ、けほっ」

翌日目を覚ますと、体がなんとなくだるかった。
のども少し痛くて、頭がぼーっとする。
ああ昨日、髪もかわかさないまま夕ご飯食べてて…お風呂にもちゃんと入ったんだけど、手おくれだったんだな。

「……っ、あ…」

声がかすれてる。熱、あるのかな…
なんとかベッドから起きあがって、体温計をさがす。
はかってみると、三十七度八分。び…微妙に高い。
どうしよう、すごくしんどい…
学校、行けそうにないな。春香に連絡しておこう。
あ…!今日一松くんとあう約束してたのに…
午後からだから、それまでに熱だけでも引くといいんだけど。
とりあえずごはんだけでも食べて…あ、かぜ薬ないや…
寝てたら大丈夫かな。頭、氷で冷やそう。
しばらく寝てよう。はやく熱引きますように…

数時間そのまま寝ていたけど、熱は少しましになったかなって程度。
体のだるさはまだ抜けきらない。
うう、だめだ…今日行けそうにない。
楽しみにしてたのに。昨日浮かれすぎたよ…
スマホに手を伸ばして、一松くんにメールを打とうとした。
けど…なんとなく声が聞きたくて、電話をかけてしまった。
ああ、もう…

「っ、けほっ…けほっ」
『…杏里ちゃん?大丈夫?』
「…っあ、いち、まつくん」
『え、もしかして風邪?』
「うん、かぜ引いたみたい…」
『……ごめん、昨日雨ん中走らせたから』
「ん、ううん、一松くんのせいじゃないよ。昨日あったまらないまま、寝ちゃったから…」
『今日は寝ときなよ。俺ならいつでもいいし』
「…うん。ごめんね」
『いいよ。……あ、杏里ちゃん一人暮らしだよね。一人で大丈夫?』
「ん…」

その時私のぼんやりした頭に浮かんだ考え。
この状況を利用しようとしてる。
計算高いって言われちゃうかな。一松くんのこと全然考えてない、自分勝手な思い。

「大丈夫じゃない、かも…」
『…だよね』
「あ、あのね…一松くんさえよかったら、なんだけど」
『うん』
「買い物、たのんでもいいかな」
『うん、いいよ。何持ってけばいい?』
「あ、ありがとう…」

成功してしまった。
ずるいよね。
でも、本当は今日あう予定だったんだもん…
一松くんが来てくれたら、玄関だけでお話してすぐ帰ってもらおう。かぜうつしちゃいけないし。
ちょっとだけ、一松くんの顔見れるだけでいいから。ごめんね一松くん。

「スポーツドリンク、とかあればうれしいんだけど」
『分かった…薬飲んだ?』
「ううん、家になくて」
『じゃあそれも持ってく。あと何か適当に』
「ごめんね、後でお金かえすから」
『いいってそういうの。寝てて』
「うん、ありがとう…」
『それじゃ』

電話は切れた。
やってしまった。自己嫌悪。
一松くんのこと考えたら、来てもらわない方がいいに決まってるのに。
でも会いたい。ちょっとでも。
まぶたが重くて、目を閉じた。







杏里ちゃんと電話してた一松兄さんが立ち上がった。

「杏里ちゃん風邪引いたの?」
「うん」
「ああ…そういえば昨日僕たち、ドライヤーも貸さなかったよね…」

六人もいて気が利かなくて本当にごめんね杏里ちゃん…!
申し訳なく思ってると、一松兄さんが僕を見下ろした。

「トド松一緒に来て」
「え?頼まれたの一松兄さんでしょ?」
「一人で家行くとか無理…」
「こんな時に何言ってんの!」

まったく…
こういう時に自分を頼ってくる女の子の気持ち、一松兄さんは絶対分かってない。
つまりそういうことでしょ?
何でか一松兄さん含め他の兄さんたちは気付いてなさげだけど、どう見たって両想いなんだからこのチャンス利用して早くくっつけばいいのに。
…なーんてことはまだまだ言わないよ。面白いじゃん。
二人には悪いけどもうちょっと泳がせとこーっと。

「…分かったよ。風邪の時って何持ってけばいいんだろう」
「はっ…アルプスの水…!」
「いらないいらないいらないよ!カラ松兄さん並の空回り発想しないで!」

僕の兄さんがこんなにポンコツで面白い。
むしろ自分が知恵熱出しそうな一松兄さんを捕まえて、杏里ちゃんに頼まれたというスポーツドリンクの他に、母さんのアドバイスに従って色々持っていくことにした。
合コンをした時に杏里ちゃんのアパートまで来たことがあるから、道は大体分かる。
あの時も一松兄さんポンコツっぷりを発揮してたな…何だよ換気窓からも泥棒が入るかもって。入んねーよ。
この商店街通り抜ければもう少し、というところでめんどくさい奴に捕まった。

「あれー?我が弟たちよ、どこ行くの?」
「どちら様でしょうか」
「やめてよお前それわりとトラウマなんだから!」
「杏里ちゃんが風邪引いたみたいだからお見舞い行くの、じゃあね」
「待って待って俺も行く!」
「おそ松兄さん、遊びに行くんじゃないんだからね?人が病気になってるんだからね?」
「分かってるわそれぐらい!俺何歳だと思ってんの!?」
「十歳」
「おいおい俺はピーターパンかよ」
「どうでもいいよ。つか一松兄さんが完全無視で歩いてってるから行くなら早く行くよ」
「う…みんな冷たいよぉ。俺も風邪引こうかなぁ」
「引かないよ馬鹿だから」
「そうだったぁ…」

泣き真似をするおそ松兄さんを渋々連れて、杏里ちゃんのアパートに着いた。
すると、ちょうど階段を下りてきた僕らと同じ三人組。
うわ、やばい。

「あれー?トド松くんじゃん!」
「は、春香ちゃん…久しぶり…」

合コンの時に一緒だった、杏里ちゃんの友達が三人。男一人と女の子二人。

「ってか、あれ…?トド松くん双子じゃ…」

あーめんどくさいことになった!
おそ松兄さんが「誰?」とか興味津々で聞いてくる。うるせー新台にかじりついてりゃ良かったんだよ!

「私達、杏里の大学の友達なんです。ね、トド松くんって三つ子だったの?」
「え、あーまあ似たようなもんかなぁあはは…」
「いや俺たち六つ子だから」
「む、六つ子!?」
「ちょっ、今はそういう話いいでしょ!杏里ちゃんのお見舞いが先!」
「杏里ちゃんなら今寝てるけど」

ぶっきらぼうに言ったこの男。分かりやすっ。
合コンでもそうだったけど、杏里ちゃん狙ってんの見え見えなんだよね。
ただちょっとしつこい感じがして僕は好きになれないな〜。杏里ちゃんの友達もいい加減にしろって目で見てたし。杏里ちゃんは気付いてないっぽいけど。
身内贔屓みたいだけど、それならうちの一松兄さんの方がましかな、なんてね。僕兄さん思いでしょ?

「何言ってんの、うちらが来た時も寝てたの起こしたじゃん」
「杏里、一松くんにも連絡してたんですね」

話しかけられた一松兄さんが「ああ」と口を開いた。

「杏里ちゃんに買い物頼まれたから」
「え」

おお、見事な牽制返し!
春香ちゃんがもう一人の女の子と意味ありげな目くばせを交わした。

「なんだ、じゃあうちらが押しかけることなかったんじゃん!」
「一松くん、杏里をよろしく!」

女の子たちは男を引きずるようにして帰っていった。
一松兄さんにこそっと話しかける。

「一松兄さん、見事な牽制返しだったね」
「…え、何が」

あ、これマジで分かってない顔だ。
呆れたのでほっといて階段を上り始めた。
もう、ほんと馬鹿だなぁ。もどかしすぎる。
でも面白いから言わなーい。

「ねートド松さっきの誰って」
「うるさい」


*前  次#


戻る