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「お待たせ…しました?」

待ち合わせ場所には野球帽に野球服を着た十四松さん。
これからデートだよね…キャッチボールでもしたいのかな。それとも野球観戦?
そんなことを思いながら声をかけたので疑問形になってしまった。
ぐるりと振り向いた十四松さんは満面の笑みだった。ただ、私をじっと見るだけで一言も発しない。

「十四松さん?」
「…!こんにちは!」
「こんにちは」
「……」

十四松さんはどことなくそわそわしながらも、笑顔のまま私を見ている。
不思議な雰囲気の人だ。一松くんとはタイプの違う感情の読めなさを感じる。

「私、杏里って言います。今日はよろしくね」
「ぼく知ってるよ!杏里ちゃん!」
「あ、名前知っててくれてたんだね。兄弟に聞いたの?」
「うん!みんな杏里ちゃんの話してる」
「そうなんだ。なんか嬉しいな」
「ぼく…ぼく…杏里ちゃんにすっごく会いたかったんだ」
「ありがとう!今日は楽しいデートにしようね、十四松くん」
「うん!」

返事と同時に出された十四松くんの手を握る。
ミステリアス、かと思いきや子供っぽい人なのかな。いや、子供っぽいは失礼か。無邪気な人だ。
私の手を確かめるようににぎにぎしている十四松くんに「どこ行こうか?」と聞く。

「遊園地」
「遊園地?」

野球関係の場所じゃないんだ。
じゃあ何で野球服着てるんだろう…一番好きな服なのかな。

「遊園地、好き?」

十四松くんが不安そうに聞いてくる。
別のことを考えて上の空になってしまってた。いけないいけない。

「うん、もちろん!遊園地楽しみだなぁ。デートって感じするね」

そう言って腕を組むと、十四松くんは組んでいない方の手を大きく振って歩きだした。
平日にも関わらず、遊園地はカップルや小さい子連れのファミリーでいっぱいで、どこからもキャーキャーと楽しそうな声が上がっていた。カラフルな景色の中に私たちも交ざる。

「十四松くん、何に乗ろっか」
「あれは?」

十四松くんが指したのは前に見えてきた二階もある豪華なメリーゴーランド。
最初の風変わりな印象とは違って、意外にベタなデートコースが好きなのかな。ちょっと親近感わくかも。

「うん、行こう!こういうの乗るの、小さい頃以来だな」

懐かしくなって、ファンシーな音楽と共にくるくる回る馬や馬車を見つめる。

「杏里ちゃん、どれがいい?」
「そうだなぁ…馬車がいいな」
「馬じゃないの?」
「うん、今日こんなに短いスカートで来ちゃったから馬にはちょっと乗りづらいかなって」

けっこう乗る位置が高かったりするんだよね、メリーゴーランドの馬って。ほんとは久しぶりだし馬の方に乗ってみたかったけど…
なんて考えていると、十四松くんがにっこり笑った。

「ぼくが乗せてあげる」
「え…」
「あ、ぼくたちの番!杏里ちゃん行こー!」
「う、うん!」

十四松くんに手を引かれてメリーゴーランドへ入場する。
一階の、黄色いたてがみにたくさんのお花があしらわれている馬の横に来ると、十四松くんは私の脇に手を入れて「ぃよいしょー!」と持ち上げた。

「わっ…!」

安定感のある力で簡単に宙に浮いた私は、横座りで馬の背中に着地した。あっという間だった。
私より背の高い十四松くんが、今は頭二つ分くらい下に見える。

「すごーい…!十四松くんありがとう!」

無言で照れていた十四松くんは隣の馬に乗ろうとしていたので、「待って」と呼び止める。

「まだこっちスペースあるから一緒に乗らない?きっとこれ、二人乗りの馬だよ」
「え…」
「嫌だったらいいけど…」

十四松くんはぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
それからぎこちなく私の後ろへ上ってきて馬に跨がった。私の体は十四松くんにぴったり密着している。ちょっと狭かったかな?
見上げると十四松くんは猫みたいな目をしていた。緊張してる顔なのかな、これ。
あ、ブザーが鳴った。

「十四松くん、棒持たなきゃ危ないから、ね」

自分の太ももの上でぎゅっと握られていた十四松くんの両手を取って、私の両側から回りこませるように馬の首のすぐ後ろにある棒へ向かわせた。
十四松くんに抱きしめられてるみたいで、これはなかなかカップルらしいシチュエーションだ。レンタル彼女としての仕事、一つやりきった感がある。
メリーゴーランドが回り始めた。私たちの乗っている馬もゆっくりと上下に動きだす。
体を少し十四松くんに預けて微笑むと、十四松くんは口をぎゅっと結んで赤くなっていた。

「えへへ、楽しいね十四松くん」

無言でうなずく十四松くん。
帽子が曲がっていたので手を伸ばして直してあげたら、んぐ、と息を飲む音が聞こえた。それでも口は閉じられたまま。
一松くんみたく無口なタイプなのかな?それとも緊張してるだけ?
こっちからいっぱい喋った方がいいのか、この空気を大事にしたらいいのか、考えているうちにメリーゴーランドの回転は止まった。
係員の人のアナウンスが流れるのと同時に十四松くんがぴょんと飛び下りて、何回も深呼吸をしている。

「…杏里ちゃん!」

笑顔になった十四松くんが、また抱えて下ろしてくれる。

「ありがとう、十四松くん」
「次どこ行く?」
「うーん…あ、あれは?」
「いーよ!行こ!」

やっぱり体が近くて緊張してただけかな。
でもそのわりには、私とこうして手を繋いだりするのにためらいがない気がする。さっきまでの大人しさとはうってかわって元気いっぱいになった十四松くんを見ながら思う。
その後も十四松くんは、一緒のアトラクションに乗る時にはたまに無口になっていた。
十四松くんなりのムードの作り方なのかもしれないと思って、そんな時は私も特に喋らずにいる。

「杏里ちゃん」
「ん?なあに」
「パフェって知ってる?」
「うん、知ってる」
「めっちゃ甘いよね!」
「そうだね。…あ、もしかして食べたいの?」

ぶらぶら歩く私たちの前にはテイクアウトできるミニパフェが売っているお店。

「一緒に食べよ!買ってあげる!」
「嬉しい!ありがとう十四松くん」

チョコパフェとイチゴパフェを一つずつ買って、近くのベンチに座る。
パフェを前にしてわくわくしている十四松くんは可愛かった。
いただきます、と一口食べると、十四松くんから満足そうなため息がもれる。

「ふふっ、おいしい?」
「うん!めっっっちゃ甘い!杏里ちゃんも食べる!?」

チョコクリームのかかったアイスをすくって、私の前にスプーンを差しだす。
こういうのは普通にできるんだなぁ、と思いながらありがたくいただいた。

「ん!おいしい〜!」
「ね?」
「うん!あ、じゃあ私もあげるね」

ストロベリーソースのかかったアイスをすくって十四松くんの口の前まで持っていったものの、ちょっとしたイタズラ心を起こしてスプーンをUターンさせた。
ぱく、と私の口に入ったスプーンを見て十四松くんはぽかんとしている。

「ふふ、だまされたー」
「…」
「あ…お、怒っちゃった?ごめんね、冗談だよ。次はちゃんとあげるから」

余計なことしちゃったかな、とあわててフォローすると、十四松くんは「ううん」と首を振った。

「嫌じゃなかった。今の杏里ちゃん可愛かったから…」

ちょっぴり顔を赤らめてはにかんだように笑う十四松くんこそ可愛くて、パフェをたっぷりすくってあげた。よかった、変化球を受け止めてくれて。
二人してパフェを食べ終えた時には、デートの残り時間は少なくなっていた。アトラクションに乗れるのはあと一つがギリギリかな。

「十四松くん、最後は何乗る?」
「……」
「十四松くん?」
「………か、観覧車」

覚悟を決めたような顔の十四松くん。最後だし、気合い入ってるのかな。

「観覧車かぁ、そういえば乗ってなかったね。いいよ、行こう!」
「……うん」

夕暮れ時でカップルも多い中、私たちも二人きりで観覧車へ乗りこんだ。
四分の一ほど回ったところで、鮮やかな赤色と紺色が混ざりあった空の下、街の明かりが灯り始めているのがだんだん見えてくる。

「わ…ねえ、十四松くん見て!」

フラッグタワーのイルミネーションがきれい、と言いかけて、隣に座る十四松くんの様子がおかしいのに気がついた。
何かに耐えてるような感じだ。さっきまで普通だったのに…あれ?

「……十四松くん、もしかして息止めてる?」

うなずく十四松くん。

「な、何で止めてるの?苦しくない?」
「……」

十四松くんは汗のにじむ顔を向けて絞りだすような声を出した。

「…いっ、ぷん…いちまんえんでしょ…?」
「取らない!取らないよそんなお金!えっ、呼吸する料ってこと!?取らないから!息して十四松くん!呼吸する権利は十四松くんにあるよ!」

あまりのセリフに、怒涛のごとくツッコミを入れてしまった。
一松くんの時の一センチ千円といい、どんな女の子に引っかかったらこんなルールを教えこまされちゃうんだろう…!
ていうか、時々無口だったのってこのせい…!?
必死に説得して、十四松くんに息を止めるのをやめてもらえた。心底ほっとした。
ぜえぜえと息をつく十四松くんの背中をなでる。

「無理しないで言ってくれたらよかったのに…」
「…レンタル…彼女って…こーいうのだと…思ってたから…」
「他はそうなのかもしれないけど、少なくとも私とは普通のデートでいいんだよ」

とは言いつつ、イヤミさんからの請求メールに押されて既に六桁の金額を支払ってもらってるけど…普通って何だっけ…

「と、とにかく、一分一万円なんて料金設定はないからね。安心して」
「うん…」
「落ち着いた?まだ苦しい?」

背中に手を当てたまま十四松くんの顔を見ると、「ちょっと苦しいかも」と返事がかえってきた。

「杏里ちゃん、可愛いから。息止めてなくてもずっとドキドキしてる」
「十四松くん…」

なんて素敵なことを言ってくれるんだろう。私、レンタル彼女なのに何だかもったいないな。

「私も今日はずっとドキドキしてたよ。十四松くんが素敵な彼氏だったからだね、きっと」

十四松くんは「たはー!」と言って両手で顔を隠した。
隠しきれてないほっぺたと耳が真っ赤になっている、そんな十四松くんの方が可愛いと思った。







「…ねえ、あいつ、十四松…だよね?」
「不気味なくらい大人しい…そして常識人」
「前にもこんなことあったなそういや」
「え、何?十四松兄さん杏里ちゃんに本気モードなわけ?やめてよ…!」
「奴はこの中で唯一彼女持ち手前までいった奴だからな…侮れないぞ」
「いやだから杏里ちゃんは俺の彼女だから」
「思い込み激しい闇松兄さんやめて。それチョロ松兄さんよりひどいライジングだからね?」
「俺を基準にすんのやめろ!…っていうか杏里ちゃん普通に僕が一番好きそうな気がするけど」
「はぁぁ〜!?やっぱ一番のライジングだね!?いい?杏里ちゃんから物くれたのって今んとこ僕だけだから!そこ忘れんな!」
「たかがカフェラテ一つでしゃしゃってんじゃねーよ末っ子が!」
「………クソ…足りねえ……チョロ松のレイカグッズも売るか」



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