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とにかく手っ取り早くたくさんのお金がほしくていい仕事を探していた時、無料求人紙の間に挟まっていた手作りのチラシが目に留まった。
レンタル彼女募集、未経験歓迎、の下に書かれた住所に行ってみるとイヤミという男の人がいて、レンタル彼女がどういう仕事かも知らなかった私に説明してくれた。
男性の彼女になりきって一日を過ごすという仕事。相手次第では難しそうだけど、一日で数万稼げることもあると言うしやってみることにした。

「で、チミにはある奴らの相手をしてほしいざんす」
「もう相手が決まってるんですか?」
「あいつらからがっぽり金を巻き上げてあの時の復讐を…」
「え?あの時の何です?」
「オホン…何でもないざんす」

インスタントカメラで写真を撮られた後、とりあえずついて来いと言われとある一軒家の前に来た。
イヤミさんはまずその辺にあった小石を『レンタル彼女』のチラシで包み、なんとその家の二階の窓めがけて投げ込んだ。もちろんガラスは割れたし中から叫び声が聞こえる。

「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」
「黙って見てるざんす」

不安を感じながら隠れて様子をうかがっていると、二階から男の人達の声が聞こえてきた。

「おい見ろよこれ…レンタル彼女だって!」
「しかも六つ子セールで一時間五百円…!?」
「よし、連絡しよう!」
「おー!!」
「お前らバカなの!?前にもこんなことあったけど結局イヤミとチビ太に騙されてたじゃねーか!六つ子セールとか言って同じ手口だし!」
「えー!?」
「た、確かに言われてみれば…」
「チッ、何だよまたイヤミかよー」
「クソ騒いで損した…」
「ガラス代弁償させようぜ」
「一松、虎の調子は?」
「上々」

よく分からない会話がされているけど、良くない展開なんじゃないのかな。
イヤミさんを見ると、落ち着き払って第二投を作っていた。いつの間にか私の写真入りの新しいチラシになっている。
イヤミさんが振りかぶり、再びガラスの割れる音と悲鳴がした。
けど「ちょっと、これ見てよ」という声がしたと思ったらその後は静かになった。
イヤミさんと一緒にさらに様子を見ていると、イヤミさんの携帯が鳴る。

「ハァーイ、レンタル彼女の派遣ですねぇ?」

裏声を使ったイヤミさんがにまにましながら答えている。この家の人がもう電話をしてきたみたい。
通話口を押さえたイヤミさんが都合のいい日時を聞いてきたので「いつでも」と返事したら明日になった。

「いいざんすか、恐らく明日から奴らは入れ替わりでチミを指名してくるざんす」
「奴らが入れ替わりって…?」
「チミには六つ子の相手をしてもらうざんすよ。見分け方を聞いてきたから一応渡しておくざんす」

イヤミさんが私に相手してほしいのは六つ子の人達らしい。『松』のついた名前が六人分と、それぞれの特徴を書いたメモを渡された。
さらにイヤミさんから、露出度の高い服で行くように指示される。この方が相手は喜ぶらしい。
「上手くやるざんす」と一応励ましの言葉をかけられながら、初デートの日を迎えた。イヤミさんは遠くから見守り、何かあれば私の携帯に指示を送ってくれることになっている。
胸の谷間が見える服を着て待ち合わせ場所の公園に向かうと、スーツ姿の男の人が一人、ベンチに座っていた。
この人が六つ子の一人の松野チョロ松さんか。
髪型を整えていてアホ毛がない、という特徴メモにも当てはまる。この人と同じ顔があと五人いるんだ。
彼に近づき、「こんにちは」と声をかけるとかなりぎこちない動きで立ち上がり私を見た。渡されたメモの『全員童貞ニート』といういらない一言を思い出す。

「本日はレンタル彼女のご利用ありがとうございます」
「はっ、は、はい…!」
「えっと、とりあえず座りましょっか」

軽く腕を引いてうながすと、「ひぅ」と上ずった声を出して私と一緒にベンチに座った。ちょっと可愛い。

「初めまして。私、杏里って言います」
「あっ、ぼ、僕は松野チョロ松…です」
「今日はせっかく恋人同士として過ごせるんだから、チョロ松くんって呼んでもいいかな?」
「は、はい…!」
「私は杏里でいいよ」
「っわ、分かった、杏里ちゃん…」

恋愛経験が少ない私よりも緊張しているチョロ松くんが可愛くなってきて、思わず笑ってしまう。
そんな私をチョロ松くんがすごく見ている。正しくは私の胸元を。

「えっと…」
「は、はい!?」
「ふふふっ、チョロ松くんこれからどうする?」
「え、あ、えっと…え、映画とかどうかな」
「映画ね、いいよ」

それじゃ行こっか、と手を繋ぐ。こうするようにとのイヤミさんの指示だ。
チョロ松くんは顔を真っ赤にして恐る恐る握り返してきた。嬉しそうにしているので、こっちも優しい気持ちになる。
そのまま映画館へ向かったけど、彼は手を繋いでいる間無言だった。
そんなに緊張するものなのかな。気になって映画館に入ったところで立ち止まった。

「ねえ、チョロ松くん」
「な、何?」
「そんなに緊張しないで?私今、チョロ松くんの彼女だよ」

緊張を和らげてもらおうと、空いている方の手でほっぺたを軽くふにふにとつまみながら撫で、安心してもらえるよう笑いかける。

「………っ」
「あ、ごめん…こういうの嫌だった?」
「っ、ぜ、全然っ」
「そう?良かった」

少し目をうるませて赤い顔をしているチョロ松くんが可愛くてまた笑う。この仕事、楽そうだ。

「そうだ。チョロ松くん、ごめんだけど映画観る前にオプション料金を…」
「あ、ああやっぱりそうだよね!いくら?」
「えっとね…」

イヤミさんからのメールを見ると、胸チラ見料や手繋ぎ料など聞いたことのない料金名がずらりと並んでいた。
計六十七万七千四百円。

「えっ…」

思わず声が出た。稼ぎのいい仕事とは聞いてたけど、これはちょっとやりすぎじゃ…胸チラ見料なんかでお金取れるの?

「どうしたの?杏里ちゃん」
「あ、ううん、えっと…」
「それ料金表?」

チョロ松くんが携帯の画面をのぞきこむ。

「あの…手繋いだのは私からだし、これは」
「ちょっと待ってね、この服を入れれば何とか…」
「えっ待って、何で脱ごうとしてるの!?」

当然の顔でスーツを脱ごうとするチョロ松くんをあわてて止める。

「だって服ぐらいあげないと杏里ちゃんのしてくれたことと釣り合わないし…」
「服はいいよ!今あるお金だけでいいから!」
「えっ…?」

驚きの顔でチョロ松くんが私を見る。

「服、脱がなくていいの…?」
「いいに決まってるよ!脱いじゃったらどうするの?家帰るまでにチョロ松くん風邪引いちゃうよ!」
「…杏里ちゃん…君は女神なの?」
「な、何言ってるの、とりあえず脱がなくていいから」
「そう?靴だけでも」
「靴もいいよ!ね、チョロ松くんはそのままでいいの」
「で、でも…お金、足りないし」
「なら、次に私とデートしてくれた時に合わせて払ってくれたらいいよ。私待ってるから」
「……杏里ちゃん……」

なぜかものすごく感動しているチョロ松くん。
もしかして何が何でも金目の物全部渡さないといけないって思ってたのかな…真面目な考えだけど、さすがに着てる服を渡されるのはちょっと困る。
それにこれで次の仕事も予約入ったようなものだしいいよね。イヤミさんには私から話しておこう。

「ね、そういうことにしよう?私とまたデートしてくれる?」
「…っ、うん!ぜ、絶対また杏里ちゃんとデートするから!えげつないぐらい金持ってくるから、待ってて…!」
「うん、待ってる。ありがとうチョロ松くん」

そう言って手を握ったら心底幸せそうな顔をして笑ってくれた。
可愛いし、なんかいいことした気分。
映画を観ている間も隣のチョロ松くんはちらちらとこっちを気にしていた。
勝手に私からの無料サービスとして暗闇の中でそっと手を繋いであげると、息を飲む音がしてすがるように握り返してきた。
私も横を見るとばっちり目が合う。微笑んだら映画そっちのけでずっと私を見ていた。
映画が終わり、あのシーンが良かったねという私の台詞にチョロ松くんはしどろもどろになりながら答えていた。ろくに観てなかったのに話を合わせようと頑張ってくれているところが可愛い。
女の子慣れしてなくてズレてる部分はあるけど、真面目でいい人だ。
そう思っていると携帯のアラームが鳴った。仕事の終わりだ。

「…あ、それじゃ、時間来ちゃったから…」
「そ、そっか、もうお別れか…」
「うん、短くて寂しいけど、今日はここまでだね」
「次はもっとお金持ってくるから!杏里ちゃん、次も会ってくれる?」
「もちろん!チョロ松くんとのデート、楽しみにしてるね」

別れ際にチョロ松くんの持っていた全ての現金をもらって帰り、事情を話しつつイヤミさんに渡すと、紹介料と言って半分を持っていかれた。この人もこの人で何だか怪しい人だ…と今さら思った。
けど既にデート予定が次々と組まれているので、すぐにはこの仕事をやめられない。
さて明日はトド松さんの番だ。支払いは現金以外では受け取らないようにしよう。今日のはいい教訓になった。







「お帰り〜チョロ松兄さん」
「どうだった」
「…あれがイヤミやチビ太なわけない…ガチ女神だった…!」
「マジか…!」
「何かあった?」
「お金足りないのに『次でいいよ、待ってるから』って言ってくれて身ぐるみはがされなかったんだよ!?何にも売り付けられなかったし怪しい集会にも連れてかれなかったし!こんな優しい子他にいる!?しかも言うまでもなく超絶可愛いし!!」
「おお…!」
「これはひょっとするとひょっとするんじゃないか…?」
「ああ、確実に俺達に運が向いてきている…!」
「いや兄さんたちポンコツになりつつあるから言うけど、普通の子はまず身ぐるみはいだりしないから。普通のことだからそれ」
「いやトッティ、お前明日マジでビビんなよ」
「えーそんなに!?チョロ松そんなに!?」
「早くぼくの番来ないかなー!」



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