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今日はお父さんのいとこのお兄さんたちの家におとまりに行く日。
朝からすごく楽しみで、持ってる服の中から一番かわいいのをえらんで着た。
かみもお母さんにむすんでもらった。
かがみにうつった自分は、いつもよりちょっとだけ大人っぽくなってる。

「杏里、もう行くよ。用意できた?」
「はーい」

お母さんが呼んでる。
お気にいりのポーチを持って、車に乗った。
お父さんが運転して、お母さんが助手席。
わたしは後ろの席で、ポーチの中をかくにんした。
この前、駅の近くのデパートに行った時に買ってもらったレースのついたハンカチと、アメが六つ。
お父さんのいとこは六つ子だから、けんかしないようにちゃんと人数分持ってきた。
その中でも一番おいしいチョコ味はあの人にあげるつもり。
早く会いたいな。
ポーチの口をとじて、まどの外を見る。
田んぼと山と川と車の走る道が見える。
あとときどき家。
わたしの家からいとこのお兄さんたちの家まではちょっと遠い。
お兄さんたちの住んでるところと比べると、わたしの住んでるところはいなかだ。
お兄さんたちの家の回りには、ビルとかおしゃれなお店がいっぱいある。
歩いてる人もおしゃれな人が多い気がする。
女の人もテレビで見るようなきれいな人がいっぱいだ。
でも今日は、わたしだっておしゃれしてると思う。
この服を買う時にお店の人が、今はやってますよってお母さんに言ってたもん。
服にへんなしわがつかないようにおぎょうぎよくすわってるけど、車がゆれるからすぐにぐしゃってなる。
いっしょうけんめいしわがつかないようにしてる間にいつの間にかけしきが変わって都会になった。
お兄さんたちの家はちゅう車場がないから、車を別のところにとめて歩いて家まで行く。
回りにビルや大きいたて物がいっぱいあるのに、お兄さんたちの家はわたしの家の近所でよく見るような、古い感じのお家だ。
日本家屋って言うんだってお父さんに教えてもらった。
家の前にベンチと大きいかさがある日本家屋は、ここでしか見たことないけど。
お父さんがドアを開けて「ごめんください」って入っていったので、わたしもお母さんといっしょについていった。
お兄さんたちのおばさんが出てきて、「いらっしゃい。杏里ちゃん、こんにちは」って頭をなでられた。

「こんにちは。おじゃまします」
「まあ偉い。ちゃんとご挨拶できるのねえ。いくつになったの?」
「六さいです」
「そうそう、今年から小学生なんだったわね」
「そうなんです。皆さんはお変わりないですか」
「何も変わんないわ、残念ながら」
「あいつらいます?」
「今一人だけ家にいるわ」

おばさんが大きい声で呼んだら、かいだんからとんとんっておそ松お兄さんがおりてきた。
赤い服を着てるのはおそ松お兄さんだから、合ってると思う。

「あれ?来んの今日だっけ?」
「朝も言ったじゃないの…」
「あはは、相変わらずだな」
「久しぶり〜。お、杏里ちゃんも久しぶり」

しゃがんだおそ松お兄さんにも頭をなでられた。

「こんにちは」
「こんにちは。おにーちゃんのこと覚えてる?」
「おそ松お兄ちゃん」
「おー!杏里ちゃんすげーな!」
「さ、何もないけどゆっくりしてってちょうだい」
「ありがとうございます、お邪魔します」

くつをぬいだ後、しゃがんでくつをそろえたらおばさんにまた「偉いわねえ」って言われた。
ふだんはこんなことしないけど、今日はとくべつ。
テレビのある部屋に入ったら、となりの部屋でおばさんとお父さんとお母さんがお話を始めたので、わたしはおそ松お兄さんと遊ぶことになった。
テーブルの前に、女の子っぽく気をつけてすわる。

「杏里ちゃんは家でいっつも何して遊んでんの?」
「えっと、本読んだり、お母さんとおかし作る」
「へー!すげーなぁ料理できんだ」
「でもお母さんといっしょじゃないとうまくできない…」
「いやー充分だと思うよ?俺大人だけどカップ麺しか作れねーもん」
「おゆ入れるやつ?」
「そう。お湯入れたら出来るやつ。超簡単」

おもしろくて笑ったらおそ松お兄さんも笑ってくれた。

「後は何すんの?」
「んーと…絵かいたり、ぬり絵する」
「よしそれしよう!んじゃ上行こっか、色鉛筆とかあったはず」

おそ松お兄さんといっしょに二かいに上がった。
お兄さんたちの部屋に入ったら、おそ松お兄さんがおし入れから白い紙とえんぴつと色えんぴつを持ってきてくれた。
おそ松お兄さんはえんぴつで、紙に動物をかいた。

「これなーんだ」
「きりん?」
「正解〜!」

おそ松お兄さんのかいた絵に色をぬってると、一松お兄さんが帰ってきていっしょにねこをかいてくれた。
一松お兄さんはねこの絵がすごくじょうずですごいなって思ったけど、ほかの絵はあんまりうまくないよって言ってた。
そのあとカラ松お兄さんと十四松お兄さんとトド松お兄さんが帰ってきて、部屋の中が絵でいっぱいになるくらいたくさんぬり絵ができた。

「ねーねー杏里ちゃん、誰が一番絵上手かった?」
「えっと…」
「えーおそ松お兄ちゃんだよね?」
「僕のうさぎも可愛かったでしょ?」
「俺の薔薇はどうかな…?」
「これ!これね!バース!知ってる!?」
「…うーん……」
「おい、困らすなよ…」
「あっ、全部うまいから、これあげるね」

ちょっとこまっちゃったけど、アメを持ってきたのを思い出して、一つずつお兄さんたちにあげた。
お兄さんたちはありがとうって言ってよろこんでくれた。
その時に、おばさんが下からごはんよって呼んだから、お兄さんたちといっしょに下におりた。
外まっくらだ。

「あれ?チョロ松兄さんまだ帰ってきてないの?」
「午前中出ていってからまだね。先にご飯食べなさい。杏里ちゃんも一緒に」
「はい」
「杏里、良かったね、お兄ちゃん達と一緒で」
「うん」

お兄さんたちといっしょのごはんはうれしいけど、トド松お兄さんとおばさんが話してるのを聞いてすこしがっかりした。
わたしが一番会いたかったチョロ松お兄さん。
まだかえってきてないんだ。
いっしょにごはん食べたかったな。
まだかたから下げてるポーチの中には、チョコ味のアメが一つのこってる。
テレビのある部屋に入ったら、丸いテーブルの上にもうごはんがならべられてた。
一松お兄さんと十四松お兄さんの間にすわってごはんをたべる。
そのうちに、おばさんとおじさん、お父さんとお母さんもテレビの部屋に来て、お母さんとおばさん以外はビールをのみ始めた。
テレビを見ながら大きな声でおしゃべりしてる。
お母さんとおばさんはテーブルの上のものをかたづけてキッチンに行った。
わたしはこっそり部屋を出て、げんかんの前にすわった。
チョロ松お兄さんが帰ってくるのをここで待つんだ。
部屋にいたら、お母さんに早くおふろ入ってねなさいって言われちゃうから。
この服、チョロ松お兄さんに見せたくて着てきたから、まだぬぎたくない。
ねむくなってきたのをがまんしてずっとすわってたら、後ろのふすまが開いた。

「あれー、杏里ちゃんそこで何やってんの?」
「え、寝たんじゃなかったの?」
「…風邪引くよ」

おそ松お兄さんとトド松お兄さんと一松お兄さんが顔を出してた。
何て答えたらいいのかわからなくてもじもじしていたら、三人の後ろからお父さんが出てきた。
にやにやしてて顔が赤い。
よっぱらってる時の顔だ。

「チョロ松待ってんだよなー、杏里」
「そうなの?杏里ちゃん」
「杏里はチョロ松が好きなんだもんなぁ」

えっ、と三人の声が重なってわたしを見た。
さいていだ。
お父さん、言わないってやくそくしたのに。
はずかしくて顔も体もあつくなってきた。
なきたくないのになみだが出てきた。

「…っう…う゛ぅー…!」
「わ、杏里ちゃん…!」
「え、あ、杏里ごめん…」
「っう、っうそ、つき!いわ…な、い゛って言った…っのに!」
「ご、ごめんごめんな杏里」
「おどうさんな゛んか大っきらい!!」

ろうかを走って一番おくの部屋に入った。
だれもいないまっくらな部屋の、おし入れの中にかくれる。
大きいダンボールのはこのとなりに、おし入れを開けられてもすぐに見つからないように小さく体育すわりした。
お父さんのうそつき。
きらい。
なみだが止まらなくて、せっかくかわいい服を着てきたのにぐしゃぐしゃになった。
さいあく。
部屋のふすまが開いて、お母さんが「杏里?」って呼びに来たけはいがしたけど、その時はがんばってなみだを止めてしずかにした。
そしたらお母さんは「杏里がいないんだけど…」って出ていった。
部屋の向こうでお母さんやお兄さんたちがわたしをさがす声がする。
でもずっとそのままでいたら、部屋の外がだんだんしずかになった。
しーんとしてる。
もうわたしのことさがしてくれないんだ。
でも出てかないもん。
おこってるんだもん。
おこらせたのあっちだもん。
おし入れの中、まっくらでちょっとさむいけどずっとここにいるんだ。
そう決めた時にだれかが部屋に入ってきた。

「杏里ちゃん?」

ひざにおしつけてた顔を上げた。
チョロ松お兄さんの声だ。
かえってきたんだ。
見つかっちゃうかもしれない。
どうしよう。
電気をつける音がして、「ここかな?」って声がしておし入れが開いた。
おし入れの中が明るくなっていそいで顔をかくした。
今へんな顔になってるから見られたくない。

「あ、いた。杏里ちゃん」

見つかっちゃった。
となりのダンボールがどけられてしまった。

「杏里ちゃん、出ておいでよ」
「……や…」
「お父さんもお母さんも心配してるよ」
「…おとうさんきらい」
「杏里ちゃんのお父さん、杏里ちゃんに嫌いって言われて落ち込んじゃって今みんなでなぐさめてるんだよ」
「………」
「杏里ちゃんが出てきてくれたら嬉しいんだけどな」

チョロ松お兄さんがこまってるみたいだから、ちょっとだけ顔を上げた。
わたしと目が合ったチョロ松お兄さんは、ほっとしたような顔をしてた。

「おいで、杏里ちゃん」

チョロ松お兄さんが手をのばしてきたのでにぎった。
チョロ松お兄さんの手は大きくて、わたしの手はほとんどかくれちゃってる。
おし入れの外に出たら、チョロ松お兄さんが「その服可愛いね」って言ってくれた。
はずかしかったから下を向いた。
おこってたの、どうでもよくなった。

「ありがとう。あのね、これあげる…」
「わ、いいの?ありがとう」
「チョコすき?」
「好きだよ。おいしいよね」
「うん…」
「じゃ、みんなのとこ戻ろっか」

チョロ松お兄さんが手を引いてくれた。
だけどちがうのがいいなって思って、うでを広げた。

「ん?……ああ。え、いいの?」

うなずいたらだっこされた。
服がぐしゃってなったけどぜんぜん気にしない。
顔が近くてはずかしいけどうれしい。
チョロ松お兄さんがわたしをだっこしたままテレビの部屋に入った。
みんながあつまっててこっちを見てたから、目をそらした。

「あー良かった、杏里ちゃん帰ってきた」
「どこいたの?」
「ん?あー…秘密。ね、杏里ちゃん」
「ん…」

ひみつのかくれ場所、言わないでほしいなって思ってたからうれしかった。
体育すわりしてうつむいてるお父さんのよこで、お母さんがこっちを見てわらった。

「杏里お帰り。チョロ松くん、ありがとう」
「いやいや。杏里ちゃん僕になついてくれてるんだね」
「そうなの。ね、杏里」

わたしがチョロ松お兄さんを好きだって、チョロ松お兄さんはまだ知らないみたい。
チョロ松お兄さんがわたしをだっこしたままテーブルの前にあぐらですわった。
わたしはチョロ松お兄さんの足のまん中にすわることになった。
でも、チョロ松お兄さんの顔が見たかったから、ちょっとだけよこになるようにすわった。
テーブルにはさっき食べたごはんがまたならんでる。

「ほら杏里下りなさい、チョロ松くんがご飯食べれないでしょ」

お母さんが言った。
やだって首をふったら「いいよ、このままで」ってチョロ松お兄さんが言ってくれた。
やさしくてすき。

「ロリコン…」
「ロリコン…」
「おいこら、杏里ちゃんの前でんなこと言うな!教育に悪いわ!」
「まさかの否定しないっていうね…」
「ちっげーよ!違うに決まってんだろ!ったく…」
「ねえ杏里ちゃん、こいつのどこがいいの?口悪いよ〜?」

となりにおそ松お兄さんが来て、こそこそ話しかけてきた。

「んー…」

好きなところ、いっぱいある。
まよってたらおそ松お兄さんがまた話しかけてきた。

「今日チョロ松、アイドルのライブ行ってたんだぜ?女好きってどうよ」
「おそ松兄さん、変なこと杏里ちゃんに言うなよ!別にいいだろアイドルのライブ行ったって…」

アイドル。
チョロ松お兄さん、アイドルすきなんだ。
アイドルってかわいい子なのかな。

「女好きだと旦那にしたら苦労するよー」
「ちょっと何言ってんの?さっきから…」
「そんな男でもチョロ松がいいんだ?」

アイドルの話を聞いてショックだったけど、うんってうなずいた。
アイドルの人よりも、たぶんわたしのほうがチョロ松お兄さんのことすき。

「お〜!」
「愛だな…!」
「もう一生こんな子現れない…」
「あはは!チョロ松にーさんモテ期!」
「クソダサ兄さん良かったね〜!」
「おい誰のことだクソダサ兄さんって……えっと、ありがとう杏里ちゃん」
「うん」
「杏里ちゃんはチョロ松にーさんと結婚したいの?」
「うん」
「えっ」

チョロ松お兄さんがおはしを落とした。
ほかのお兄さんたちがヒューヒュー言ってる。
けっこんしたいのも言うつもりはなかったけど、もういいや、言っちゃえってうなずいちゃった。
チョロ松お兄さん、どう思ったかなって見上げたら、顔まっかにしてた。

「あらあら杏里ちゃんがうちに来てくれたら安泰ねぇ」
「ふふふ、そうですねおば様」
「良かったなぁチョロ松ぅ、うらやましーなー」
「チョロ松兄さん結婚したがってたもんねー」
「や、だって、け…結婚って、えええ…!?」
「わたしじゃだめ?」
「うっ…!いや、そうじゃ…」
「杏里…いつの間にそんな言葉覚えたんだ…っ!」
「あーあ、親父撃沈…」
「あははははは!どんまい!」
「ほらチョロ松、答えてやれよ」

おそ松お兄さんがひじでチョロ松お兄さんをとんとんってついた。

「う、え、えーと」

チョロ松お兄さん、こまらせちゃった。
そんなつもりなかったのにな。
それに、すぐにおへんじしてくれないってことは、わたしのことすきじゃないのかも。
チョロ松お兄さんは、アイドルの子がいいのかな。

「あ…あのね杏里ちゃん、結婚の意味、知ってる…?」
「うん。お父さんとお母さん」
「おいおい、小学生バカにしてない?そんぐらい知ってるっつーの。な杏里ちゃん」
「おそ松兄さんは黙ってて。その…えっとね、結婚っていうのは、女の人は十六歳にならなきゃできないんだよ」
「十六?」
「そう。杏里ちゃんは今六歳だから、あと十年待たなきゃいけない」

そんなこと知らなかった。
すきな人どうしだったらすぐにできるって思ってた。
あと十年。

「十年経って杏里ちゃんが結婚できる歳になっても、その…僕のこと、好きでいてくれたら……」
「けっこんできる?」
「…うん。できるよ」

十年って長いのかな。
短いのかな。
でも、十年たったらチョロ松お兄さんとけっこんできるんだ。
その時にはわたしも、チョロ松お兄さんのすきなアイドルみたいになってるかもしれない。

「まつ。十年まつ」

そう言ったら、また回りがヒューヒュー言った。
チョロ松お兄さんは、こんどはこまった顔しなかった。

「…ありがとう、杏里ちゃん」