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「……ってわけでさぁ、いくら興味持ったからって深入りしちゃだめだね」
「うわー、マジでそういうことあるんだ…」

放課後、七不思議を教えてくれた友人に自分の体験を話した。七不思議を初めて聞いた時と同じ、静かな教室でひそひそと。
おそ松たちが関わってるかもしれないことは伏せておいた。ただでさえ六つ子ってだけで目立つのに、これ以上悪評が広まっちゃうのもどうかと思ったし。
それに、不思議な現象があったことはおそ松たちとは関係ないしね。チョロ松に言われたように、私の思いこみとか勘違いだったのかもしれないけど…どうにもそれで済ませられない雰囲気があった気がする。
そんな私の心の中には気づかず、友達はちょっと興奮ぎみだ。

「ほぼ全部の七不思議体験するってめったにできないよ。たいてい噂の段階で終わっちゃうじゃん、そういうの」
「だよね、私もそう思ってたから軽々しく関わりに行っちゃったけど、あんまりよくないかも」
「怪談話でもよくあるよねー。好奇心だけで首突っ込んで痛い目にあうっていう」
「痛い目か…あっちゃうのかな、私も」
「さあね〜。何かあったらまた報告してよ」
「あっちょっと!他人事だと思って!」

二人してけらけら笑い合う。
六番目の不思議を体験してから、私には特に何の変化もない。さすがに不思議な出来事に直面した時は背筋が凍ったりもしたけど、終わってみればいい話のネタになる体験だったなと思う。

「それにしても杏里、七不思議に好かれてんのねぇ」
「…やっぱそうなのかな」
「そうだよ。普通なら噂は噂のままじゃない。その場所に行って実際に何か体験しちゃうなんてさー」
「あは、それおそ松も言ってたなー」
「おそ松?」

友人がきょとんとしている。やばい、今まで名前出してなかったのに…
何でもないとごまかしてそろそろ帰ろうかと時計を見た時、教室のドアがガラリと開いた。

「お、杏里見ーっけ」

噂をすれば、だ。赤いパーカーを着たおそ松が立っていた。
後ろが少し騒がしいとこを見ると、他の兄弟もいるらしい。

「なあ一緒に帰ろーぜ!杏里とスイーツ食べたいって十四松とトド松がうるせーから」
「うるさいって何?じゃあおそ松兄さんは付いてこなくて結構です〜」
「スイーツ!杏里ちゃんスイーツだよ!」
「うん、分かった。それじゃ私そろそろ帰ろっかな」

席から立ち、目の前の友人に「一緒に来る?」と声をかけようとした。
が、彼女は奇妙な顔をして私を見つめていた。時おり視線だけが別の方を向き、また私を見つめる。
その突然の仕草があまりにも異質で、どうしたのと言おうとした口も閉じてしまった。

「杏里ーはやくー」
「あ、う、うんごめん、それじゃ…」

鞄を持って足早に席を離れる。
様子のおかしい彼女をあまり見ないようにしてドアの近くまで来た時、教室を見渡したおそ松の一言に今度こそ血の気が引いた。


「お前、一人で何やってたの?」


え、という声を発する前に体が固まる。
一人。一人で。その言葉の意味を頭の中で何度も繰り返した。
なぜか何言ってんの、とは笑えなかった。
どこからともなく冷気が私を取り巻いた気がして、震える指が鞄を取り落としそうになる。
だって今、間違いなく私はあの子と喋って……
………あの子の名前、何だっけ。誰、だっけ?
背後で席を立ったような音と、私に向かって何かを言っている声が聞こえた。
振り向くことができなくて、後ろからの声を耳に入れないようにおそ松の胸に飛びこんで教室を出る。
私にいきなり抱きつかれてびっくりしただろうおそ松が、はずみでドアを閉めてくれて少しほっとした。それでも体の震えが止まらない。

「えっ何どした杏里、積極的だなー。俺に会えなくて寂しかった?」
「い、いやあの、スイーツ食べに行こ。うん」
「おう、行こ行こ」

おそ松から離れて歩きだす。冷や汗がはんぱない。さっきのは一体何だったんだろう。
教室の前を離れ、おそ松に「一人で」の意味を改めて聞こうとした時、おそ松が「そういや」と口を開いた。

「お前、こないだ七不思議がどうとか言ってたよな」
「っ、うん、言った…」
「ああ杏里ちゃん、調査してるとか言ってたね〜」
「で、実際に何かあった?」
「う…」

チョロ松に尋ねられ言葉に詰まると、私が答える前におそ松が話を繋いだ。

「俺七不思議の一つ一つの話は知らなかったけど、七不思議にまつわる話なら聞いたことあんだよな」
「うん、それなら俺も聞いたことある」
「ああ、そっちね〜」

チョロ松とトド松に続いて、残りの三人も頷く。

「え…私知らない。まつわる話?」
「そう」

おそ松が頭の後ろで手を組んだ。

「昔七不思議を調べてた女の子がいて、六番目までは何とか分かったんだけど七番目は見つかんなかったんだって。けどある日、とうとう七番目の不思議を知っちゃって、それ以来行方不明になった、って話」
「行方不明…」

鳥肌がぞわりと立った。
七不思議に詳しい女の子。誰も知らなかった七不思議を知っていた女の子。それは、まるでさっきの……
私は反射的におそ松にしがみついた。

「は、早く行こ…!」
「ちょっ、待って、いつからおそ松兄さんと杏里ちゃんそんな仲なわけ!?」
「えーいつからって、こないだベッドを共にした仲?」
「はぁぁ!?」
「杏里、このクズだけはやめとけっつったろ!」
「絶対無理やりだよこのクズ…」
「おそ松、無理やりは良くないな…んん?」
「は?ちゃんと合意の上だし。なー杏里ー」
「杏里ちゃんはぼくと両想いなんだよ!」
「は?お前の発言も何それ…聞き流せないんだけど」
「杏里…お前の身体、この俺に預けてみないか?」
「ないない死ねば」
「杏里、そんなにくっつかれてちゃ歩きにくいって」

そう言ってにやにやしながらおそ松が腰にまで手を伸ばそうとしてるけど、今の私はそんな場合じゃない。ただもう心臓がばくばくして、今さっきあった出来事を頭からかき消すことに必死だ。

「…わ、私の側を離れないで…!」
「っ、え何それプロポーズ?」
「プロポーズでも何でもいいから側にいてほんとに離れないで一人にしないで」
「りょーかーい」
「待って杏里ちゃん考え直して!どう考えたってこんなゴミみたいなろくでなしより僕の方が旦那にふさわしいってば!」
「実の兄をけなす奴のどこがいい旦那になれるってんだよ」
「杏里ちゃんはぼくと両想いなんだよ!!」
「分ーかったからそれ聞いたから十四松」
「消すか…」
「だな」
「おいそこの真ん中二人兄貴を消す計画立ててんじゃねーよ。嫉妬は見苦しいぜ〜」
「杏里…お前は本当に兄貴を選んじまうのか…!」
「いや誰でもいいからとにかく側にいて一生」

カラ松の言葉に早口で答えると周りがいっそう騒々しくなったけどほんとにそれどころじゃない。
もう七不思議はこりごりだ。下手に関わるんじゃなかった。早くスイーツを食べて忘れよう。
六つ子にやいのやいの言われながら、ただ廊下をひたすら歩いた。



「ねえ、待ってよ…杏里………あんた何と話してんのよ…!?」