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「#エロ」のBL小説を読む
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昼休み、授業の調べもののために図書室に来た私は、目当ての本を本棚に返した後、ふと第二図書室へと入った。
うちの高校は図書室が二つある。小説やラノベ、授業に使える資料書籍が置いてある第一図書室と、あまり利用されなくなった本や先生方しか使わなさそうな専門書が置いてある、倉庫のような第二図書室。二部屋は繋がっていて、どちらも出入り自由だ。
だけどみんなが主に使うのは第一の方なので、普段第二の方に出入りする人はめったにいない。倉庫化してるだけあって、最低限本が傷まないような造りになっている他はただ薄暗いだけの部屋だ。
だからだろうか、この第二図書室の七不思議が出来上がってしまったのは。
キィ、と静かな音を立てて閉まるドアを背後に、クラス教室よりも狭い倉庫の中を見渡す。
ドアのすぐ横の壁には東向きの窓が三つ並んでいるけど、ブラインドが常に下ろされている。
そこからのわずかな日光も避けるように本棚が並んでいて、その間隔は人がギリギリすれ違えるぐらい。壁も本棚で埋められている。
本好きな人ならたまらない空間なんだろうなぁ…なんて思いながら近くの棚を眺めてみたら、さっそく英語のタイトルの本ばかり。何の本なのかすら分からない。
けど、私の探している七不思議でないことは確かだ。

この第二図書室には、『呪いの書』がまぎれていると言う。
大きさや色は不明だけど、その本にはタイトルがついていないので見ればすぐに分かるらしい。
果たしてそれは見た人が呪われる本なのか、呪いのかけ方が書いてある本なのか、そこまでは分からないみたいだけど。
タイトルがない本なんてあるのかなー。あ、でも背表紙が無地の本ならありそうだし、デザインとしてあえて書かれてないことだってありそう。
暇つぶしがてら昼休みが終わる前にざっと見ていこう。
端の本棚の右上から順に目線をスライドさせていく。面白くなさそうな本ばっかりだ…
しかもどれもこれも、背表紙にちゃんとタイトルがある。
光の加減でタイトルが書かれてないように見えたのが、尾ひれをつけて広まったのかなぁ。
半数の棚を見回って飽き始めてしまった時、ドアが開く音がした。
本のぎっしり詰まった棚のすき間から、誰が来たのか目をこらす。先生だったら、詳しい事情を聞かれる前に帰りたい…
そう思っていると、私のいる棚の一つ手前でその人が立ち止まった。
学ランの下に、見覚えのある青いパーカー。

「カラ松?」
「おお、杏里」

他の兄弟よりも少し太いまゆを上げたカラ松は、すぐにキリッとした顔つきになった。

「こんな所で出逢うとは……ディスティニーを、感じる…!」
「私は感じないけどね」
「フッ…」
「何しに来たの?」

カラ松がこんな人気のない場所に来るってことは、ここで男の時間とやらを過ごす気なんだろうか。
でも、もうすぐ昼休みも終わっちゃうし…
見れば、一冊のノートを持っている。私と同じように、勉強のついでに来たのかもしれない。
もしかしてカラ松も七不思議を…?

「…ああ、これか?」

私がノートを見ていたことに気づいたのか、カラ松はなぜか得意げにノートを掲げた。普通のノートだ。

「勉強しに来てたの?」
「いや……知りたいか?」
「うん、まあ」
「そうだな、じゃあ…お前の感想を聞かせてくれ」
「ちょっと嫌な予感がしてきた」

渡されたノートの最初のページを開く。
そこには手書きで『マイスペシャル☆ポエトリー』と文字が並んでいた。

「う、うわぁー…何これ…」

おののきながらめくると、一番上にキラキラの題名、その下にLOVEだのGREATだの英単語を交えながら文章が書き連ねてあった。どのページをめくってもそうなっている。
内容は理解したくないので字だけを追う。でも特に深い意味をなさなそうなものであることは間違いない。

「え…っと…ラブレター…?」
「それでもいいぜ、お前宛の…な」
「いや、ごめんだけど返品するね…」
「お気に召さない、か…では新たな」
「いいいい、カラ松の手をわずらわせたくないし!それよりこのノート、ほんとはどうする気だったの?」
「ここの蔵書に置いてもらおうと思ってな」
「いやだめだよ!置いてもらえるわけない!」

とんでもない発想に思わず口調が強くなった。ちゃんと小声でね。
カラ松は私の反論が思ってもみなかったのか、目をぱちくりとさせた。

「もう既に何冊か置いてるんだが…」
「いやだめだめ!何してんの勝手に!」
「この高校に、俺という伝説を残したい…!」
「悪い意味で伝説になっちゃうから!ほら回収するよ!」
「えっ」
「えっじゃないよ!もう、どこ置いたの?」

私が強気でうながすと、カラ松はしぶしぶ奥の棚を指した。私がまだ見ていない棚だ。
広い棚をくまなく探すと、大きい図版の陰に同じようなノートが入っていた。

「これ?」
「フッ…正解」
「かっこつけなくていいから!後は何冊あるの?昼休み終わっちゃうよ…!」
「杏里、何故人は辛いことがあっても前を向き、希望を持って歩いていけるのだろう…そう考えたことはないか?」
「つまり忘れたのね!」
「パーフェクト!」
「黙って探して!」

全く、第二図書室なんか入らなきゃよかった。カラ松と手分けして痛ノートを探すはめになってしまった。

「ところで、お前はどうしてここに?」

向こうの棚の方からカラ松が聞く。

「カラ松、ここの七不思議って聞いたことない?」
「七不思議?」

口調からして、カラ松も聞いたことはないみたいだ。

「この第二図書室に『呪いの書』っていうのがあるんだって」
「聞いたことはないが…どういう本なんだ?」
「どんな見た目かは知らないけど、タイトルがないんだって…」

そこで私は口をつぐんだ。
もしかして…もしかして、カラ松の痛ノートのことなんじゃ…?
ぜ、絶対そうだ!あのノート、表に題名書いてないし、中身が別の意味でヤバイし…!
面白半分に見ちゃった人が呪われたってぐらいダメージ受けたんだ、それだ…!
ありえない話じゃないと思うな、まさか誰も自作のポエムを図書室の本の中にまぎれこませる人がいるなんて思わないもんね!私もさっきまでそんな可能性全く考えてなかったし!
半笑いになりながら、棚の隅に入っていたノートを一冊見つけた。さっきカラ松に見せてもらったやつと同じだ。表紙にタイトルはない。
これも痛ポエムが書かれてるんだろうか、と気になって適当にページを開いた。

「…ひっ」

落としたノートがぱさりと閉じた。手に嫌な汗がじわりとにじむのが分かる。
一瞬見えたページの真ん中には、見開きでたった一言こう書かれていた。


『あのこがほしい』



なぜかは分からないけど、あの一言は異質な感じがした。
あれはカラ松が書いたの?それにしては雰囲気が違ったような…

「どうした?」

カラ松が側に来てくれた。

「いや、あの…これもカラ松の?」
「ああ、そうだな。多分これで全部だ。オールクリア…」
「ねえカラ松、このノートに『あのこがほしい』って書いた?」

聞かずにはいられなかった。
カラ松が少し考えこむ。

「書いた…かもしれないな。それは多分、俺が書いた劇の脚本だ」
「脚本…?」

カラ松がノートを拾ってパラパラとめくって見せる。

「ほら」
「…え、そんな…」

中は全部ぎっしり文章のつまった脚本だった。
私が見たあの見開きは、どこにもなかった。