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暇をもて余して六つ子の部屋に来た私は、思い思いに時間を潰している六人と同じくだらだらと、ソファーの上に居座った。
こういうことは日常茶飯事なので、部屋に入ってきた時に挨拶を交わしたきりで会話が弾むでもなく、ただただぼーっとしている。
窓に近い場所なので、陽が当たって気持ちいい。
そこから周りをゆっくりと観察した。
おそ松はソファーと反対側の壁にもたれて漫画を読んでいる。
カラ松は窓のところに腰かけて鏡を見ている。
チョロ松はカラ松の足元に近い場所に座ってアイドル誌を読んでいる。
一松はソファーに私と一人分の間を開けて座り猫を構っている。
十四松は部屋の真ん中で素振りをしている。
トド松は入り口に近い場所に寝そべってファッション誌を読んでいる。
みんなばらばらに過ごしてるんだな。
クッションを抱きながら半分寝転ぶ。眠気が少し襲ってきた。
窓からの光が温かい。猫になった気分。
そのまま何を思うでもなくぼんやりとカラ松を眺める。
本当にずっと鏡見てるんだなー。
髪の毛の流れを微調整してるみたいだけど、ビフォーアフターが全く分からない。
前髪の先を指であっちにやったりこっちにやったりしている。
あんまり変わらないと思うけど。
今度は何もいじらずに自分の顔を見つめだした。
自分の顔、ものすごく気に入ってるんだ。
お気に入りの顔が他に五つもあるってどうなんだろう。楽しいのかな。
惰性でカラ松観察を続けていると、カラ松が私の視線に気付いた。
眠かったので視線をそらさずそのままカラ松を見つめ続ける。
するとカラ松がフッと笑って、声を出さずに「バーン」と手でピストルを撃ってきた。
なんだか可愛くて、私も声に出さずに笑った。
カラ松はなぜか得意気な顔をしていてそれがまた笑いを誘う。
のん気な昼下がりだ。このまま寝てしまいたい…

「カラ松兄さんと杏里ちゃんがカップルみたい!」

十四松が大きな声で言ったのでみんなの注目が私達に集まった。
少しだけ眠気が飛んだけどこの姿勢を立て直す気はない。まだまだ眠い。

「は?何、どういうこと?」
「なに?何してたの?」
「べつに何も…」
「フッ、トップシークレットだ…俺と杏里の、な…」
「うわあの顔めっちゃ腹立つ…」

一松が指示したのか、カラ松の体によじ登った猫がサングラスを口にくわえて一松のところに戻ってきた。
それを猫に割らせる一松。
誰も何も言わないってことは、よくあることなんだろうな。カラ松ですらもう諦めた感じが出ている。

「いや二人とも無言になんないで。何してたのか教えてよ」
「十四松兄さん、この二人何してたの?」
「なんか見つめ合って笑ってた!」
「えぇぇ…」
「クソ松笑われてんぞ」
「うん、カラ松兄さんが一方的に笑われてたんじゃないの?」

またカラ松が得意気な笑みを見せた。

「そうじゃない。愛を…確かめ合っていた…」
「はいはいもうそういうのいいから」
「どうなの杏里ちゃん?」

トド松が促すので、眠くて重い口を開き「あーそんなかんじ」と返した。
とたんにざわつく五人。

「え、嘘でしょ?嘘だよね?」
「ちょっと待って何?お前ら付き合ってたの?」
「はぁ!?杏里ちゃんとカラ松兄さんが!?」
「この世に神などいない…!」
「マジで!?マジで!?」

五人の喧騒ですら眠りに誘うBGMのように聞こえて心地いい。
一人ずつの質問に答えるのもめんどうで半分目を閉じて聞き流していたら、カラ松が集中砲火にあっていた。
まどろんでいたいので、耳が軽くノイズキャンセラーモードになっている。よく分からないが色々言われているようだ。
するとカラ松が逃げるように私の元へ来て「なぁ杏里、そうだろ?そうと言ってくれ!」と言ってきた(この言葉ははっきり聞こえた)。
うん、と頷いたらトド松やチョロ松に「考え直して杏里ちゃん!!」と体を揺すぶられる。
離してほしくて怠い口を開いた。

「ねー…ねむいから…寝たいの…」

日光を避けるようにクッションで顔を隠してしまったのでその後の会話は聞こえなかった。
本格的に眠いのでこのまま寝かせてもらおう。
うとうとしていたら、頭を柔らかく撫でられている感触がした。心地よくてまどろみの中に落ちていく。







「ぐっすりお休み、マイハニー…」
「うわもう彼氏気取りだし…」
「てかこれあれじゃない?杏里ちゃん眠くて何の話か分かってなかったパターンでしょ」
「杏里ちゃんが起きてからもう一回聞いてみよう」
「覚悟しとけよクソ松」
「杏里ちゃん本気だったらどーする!?」
「そこだよ十四松、杏里って何考えてるかよく分かんねー時あるからさ、もしかしたらマジかもよ?」
「もしマジだったらどうする?カラ松兄さん」
「えっ…あ……フッ、その時は幸せに」
「スッと言えよお前全然覚悟できてねーじゃねぇか」
「杏里ちゃんぼくたちのお義姉ちゃんになってくれるかな!?」
「あ!それはそれでいいかも〜!」
「おおいーねいーね!俺にとっちゃ義妹だけど。杏里が義妹かー、エロくていいよなー」
「ほんと煩悩の塊だなこいつ」
「てなると杏里ちゃん、うちで一緒に住んでくれるのかな?」
「何それ…マジエロいじゃん…!」
「あは、AVみたい!!」
「…ふ…いいね…」
「一松兄さんそういう系のAV持ってたもんね〜」
「え、そーなの?」
「は、ちょっ、何で知ってんだよ…!」
「え?マジで持ってたの?適当に言ったのに〜」
「てっ…てめぇぇ…!」
「マジで一松!貸してよ今度ー」
「おい!なんちゅう会話してんだよお前ら!寝てるとはいえ杏里ちゃんいんだぞ!」
「そうだぞ。うるさいお前ら」


「…………マジであいつ彼氏の顔になってきたな…」
「チッ…クソ松風情が」
「……ねえ、ちょっと気付いたかもしれないんだけどさ」
「あん?」
「どうしたトッティ」
「もし杏里ちゃんがカラ松兄さんと結婚したとするじゃん?てことはこの家を継ぐ有力候補として、カラ松兄さんが一番…」
「うわマジかよっ…!」
「嘘だろ…!」
「え、じゃあぼくたち追い出されるのかな?」
「えーっ?カラ松に限ってそりゃないと思うけど」
「いやでも無いとは言えないよ、ただでさえ僕ら雑に扱ってきたし」
「今からカラ松兄さんのご機嫌取ってどうにか追い出されないようにしなきゃ…!」
「一松兄さんどーする?」
「どちらにしても死を意味する…」
「まー俺別にプライドとかねーしカラ松に土下座するぐらいなんてことないけどねー」
「クズすぎて逆に尊敬するよおそ松兄さん!」







目が覚めた時にはもう夕暮れで、薄暗い部屋に窓から夕陽がさしこんでいた。
仮にも人の家にお邪魔しておいてぐっすり昼寝してしまったようだ。
誰もいない。みんなどこかへ行ったんだろうか。
少し体を起こした時に初めて、タオルケットがかけられていることに気付いた。
あの六人の誰かは分からないけど、こういう気遣いをしてくれたのは嬉しい。そして余計申し訳なくなる。
タオルケットを畳んで一階に降りた。
玄関には六人分の靴がある。出掛けてはないみたいだ。
ということは居間かな?
そっと覗いてみた。
…六人が円卓を囲んで何かひそひそと話し合っていた。
いや、よく見ると話し合っているのはカラ松以外の五人だけで、カラ松は相変わらず鏡を見ていた。

「あの…おはよ」

声をかけると六人が一斉に私を見た。

「フッ…目覚めたか、カラ松ガール」

なぜか声をかけてきたのはカラ松だけだった。
他の五人はどこか緊張したような顔をしている。勝手に眠りこけたことに怒ってるわけではなさそうで、ほっとしたけど。
居間に入ったら、カラ松がタオルケットを受け取ってくれた。

「ありがとう」
「いや、いいんだ。お前の天使のような寝顔を見ることができたからな…」
「なんだそれ」

くすくす笑っていると、何も言わないままの五人が息を飲んだ。

「あっ…あの…杏里ちゃん…?」
「なに?」
「あー、あのさぁ、杏里ちゃん…」
「ああごめん。勝手に寝ちゃって」
「いやそこはどーでもいいよ日常茶飯事だろ?そうじゃなくてさ…」
「うん」

五人がそろそろとアイコンタクトを交わしている。
誰が切り出すかを目だけで話し合って、トド松が言うことに決まったようだった。

「あのね杏里ちゃん…さっき昼寝する前何があったか覚えてる?」
「昼寝する前?うん、別に記憶が欠けてることはないと思うけど」
「カラ松兄さんに何言われたか覚えてる?」
「言われた…?『そうだと言ってくれ』ってやつ?」
「そうそう!杏里ちゃん頷いてたけど、何に頷いてたか分かってたの?」
「え、いや分かんない…眠くて適当に頷いてたから」

五人がにわかに興奮し始めた。

「ほらね!ほーらねー!!」
「やっぱり分かってなかったか!」
「だよなー!俺差し置いてカラ松とかねーもんな!」
「ないないあるわけない…ククッ」
「えーそーなの杏里ちゃん!?」
「あーでも惜しいことしたなー、杏里が義妹になりそうだったのに」
「義妹ってなに?」

なぜ五人が喜んでいるのか分からずカラ松に助けを求めようと視線を送ると、ものすごくどんよりしていた。少し涙目にもなっている。

「え…カラ松、大丈夫?」
「………」
「もういいよ、杏里ちゃん。あーすっきりした!」
「一件落着…」
「僕ら家から追い出されなくてすむね!」
「ねえ、何の話?分かるように話してよ」

全く話が見えない。
なんでカラ松だけ悲しそうなんだろう。

「杏里ちゃん寝かける前、カラ松兄さんと笑い合ってたでしょ?」
「笑い合ってた…ああ、そうだね」
「あれほんとに愛を確かめ合ってたの?」
「あー何かそんなこと言ってた気がするね」
「杏里ちゃん適当だね!」
「男泣かせ…」
「それを真に受けたカラ松兄さんが俺と杏里は将来を誓い合った仲とか言い出すから、マジで二人が付き合ってたのかと思ったんだよ、僕達は」
「やっぱカラ松兄さんのいつもの空振りってことだね〜」

ノイズキャンセリングしてた時の会話はこういうことだったのか。
それでカラ松以外の五人があんなにやきもきしてたわけか。
さっきまでの緊張ムードはどこへやら、五人はすっかり和やかに笑い合っている。
と、急にカラ松が私の手を取った。

「…杏里、もう一度言わせてくれ」
「うん」

もう一度ということは、私が寝落ちる前に同意を求められた言葉ということだろう。
正確には一体何て言われたのか気になって、カラ松の言葉を待った。
するとカラ松は私の手を握ったまま、片膝を立てて跪いた。

「杏里……」
「ちょ、何すんのカラ松兄さん」
「やめろよ痛い天丼は!」
「まーまーいーじゃんあれぐらいさせたげろよ」

五人もカラ松の言葉を待っているみたいだ。
真剣な表情のカラ松が、私の顔をまっすぐ見つめている。

「……お前の愛で、俺を包んでくれないか」

いつも通りかっこつけてるようで、何となく痛さは感じられない。
それより、これは告白なんだろうか?恋人になってくれとかそういう類いの。

「包めるか分かんないけどいいよ」

そう答えると、しばらく無言の時が続いた後、五人の叫び声がこだました。

「わはっおめでとーカラ松にーさぁん!!」
「嘘だろ!?マジなの!?マジなの杏里ちゃん!」
「お……終わった……ッ!」
「か…か…カラ松に先越された…!?」
「いいの杏里ちゃん!カラ松兄さんだよ!?このクソ痛ファッションとクソ痛発言連発のクソ松兄さんだよ!?」
「うん、いいよ」

改めてカラ松を見ると、私の手を握ったまま硬直していた。
自分で言ったくせに、信じられないといった顔をしている。
思わず笑ったら、そんな私を見てカラ松もへにゃりと表情を崩した。
うとうとしている時に頭を撫でてくれたのも、きっとカラ松なんだろう。日だまりの中にいるような安心感があったのを思い出す。
カラ松とこの先そういう時間を過ごすのも悪くない。そう思った。