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ベンチに座り、町行く人を眺める。
今おそ松と待ち合わせ中なのだが、約束の時間から一時間が過ぎようとしている。しかし来る気配はない。何度か連絡を入れたのだが、返事もない。
といっても私は怒っているわけではないのだ。
今日みたいにおそ松から約束を取り付けておいて本人が来ない、連絡もなし、こういうことはよくある。
大抵は競馬やパチスロに夢中になっているか酔いつぶれているかのどちらかだ。
そういう時は一時間待ってみてそれでも来なければ帰る、というスタイルを取っている。後で文句を言ったこともない。
おそ松の兄弟達からは「杏里ちゃんは優しすぎ」と言われることもあるが、私だって待つのに飽きたらさっさと帰るし、そもそも気の乗らない約束なら最初からしない。つまり気まぐれさではおそ松とほぼ同じと言えるのではないだろうか。
というわけでいつもならこの辺りで帰るのだけど、今日はもうちょっと待ってみようかな、と思った。
なぜなら今日は私の誕生日だから。
おそ松にサプライズとかを期待しているわけではない。というかたぶん知らないと思う。
ただ私にとっては記念日だし少し機嫌もいい方なので、気まぐれを起こしたというだけである。
しかし何もしないで待つというのは少々辛いので、コンビニでお菓子を買って食べたり、スマホでゲームをして暇潰しすることにした。
久しぶりに色々なゲームをダウンロードして遊んでいたら目がすっかり疲れてしまった。ついでに電池も切れた。
辺りを見回すと空が少し赤くなっている。
結構時間経ったな。そろそろ帰ろう。
立ち上がった時に「杏里ちゃん?」と声をかけられた。

「あ、トド松。デート帰り?」
「まあね。そうそう杏里ちゃん誕生日おめでとー!会うって分かってたら何か用意してたんだけど…」
「ありがとう。メールでも言ってくれたし、十分嬉しいよ」
「えへへ…それより何してたの?」
「おそ松待ってた」

そういうとトド松の愛らしい顔がぐにゃりと曲がった。

「またかよあいつ!どんくらい待ってたの!?」
「えーと…五時間かな」
「五…」

トド松が信じらんないという顔で絶句した。

「あのバカもバカだけど杏里ちゃんも杏里ちゃんだよ!」

そう言いながらスマホを操作して耳に当てている。

「ちっ…出ないし」
「いいよ、たぶん競馬かパチンコか酒だろうし」
「本当にごめんね杏里ちゃん、残念すぎる兄で…」
「待ってたのは私の勝手だし、トド松は気にしないで」
「ほんと優しいな杏里ちゃん。あ、今からうち来る?バカが寝てるかもしんないし」
「ううん、夜ご飯の用意しなきゃだし。ありがとう」
「そっか。じゃあまた、僕とも遊ぼうね!」

トド松と手を振って別れる。
さて、今日のご飯は何にしようかな。せっかくだからケーキ買って帰ろ。
スーパーへの道をぶらぶら歩いていくと、見慣れた後ろ姿を見つけた。車に荷物を詰め込んでいる。

「イヤミさんだ。こんにちは」
「ああ杏里ざんすか」
「仕事ですか?」
「そうざんす。これから帰って内職ざんすよ」

イヤミさんの抱えている段ボール箱の中に、作りかけの人形が詰まっていた。

「人形作りですか?これ全部?」
「そうざんすよ…今日は徹夜ざんす」
「良かったら手伝いましょうか?暇なので」
「ミーとしては願ってもない話ざんすが、バイト代はそんなに出せないざんすよ」
「別にバイト代とかいいですよ。暇なので」
「それじゃあ、よろしく頼むざんす」

イヤミさんと一緒に車に荷物を詰めてから、ふと思い出してコンビニに入らせてもらう。
コンビニスイーツのケーキを買って、「お待たせしました、行きましょう」と車に乗ろうとした時、遠くの方から歩いてくる一松と目が合った。
「一松だ」と手を振ると、一拍置いてから手をゆらりと振り返してくれた。

「また猫でも探してたざんすかねぇ」
「多分そうでしょうねぇ」

私とイヤミさんはイヤミさんの自宅へと向かった。







俺が家に帰ってくると、居間の方が騒がしかった。
おそ松兄さんとチョロ松兄さんとトド松の声だな。
居間に入ると案の定三人が言い争っていて、十四松とあと誰だか分からない奴が「フッ…遅かったなマイブ「一松にーさんお帰りー!!」…えっ」と出迎えてくれた。
チョロ松兄さんとトド松は青筋立ててキレてるが、おそ松兄さんはへらへらと笑っている。缶ビール持ってるし、結構飲んでんな。

「何やってんの」
「あのね、またおそ松兄さんが杏里ちゃんとの約束破ったみたい」
「今回は五時間も待たせてたんだよ!?信じられる!?」

トド松がこっちに勢いよく顔を向けてきた。

「しかも今日杏里ちゃんの誕生日なんだよ!?」
「うわーないね」
「だぁから、あいつは好きで待ってんだって!あいつは自分が嫌だって思うことはしねーの!」
「約束したのは自分だろ!連絡ぐらい入れろよ!」
「いーよ別に、あいつだってもう家帰ってんでしょ」

ごもっともなツッコミを入れるチョロ松兄さんとけらけらと笑うおそ松兄さん。我が兄弟ながら清々しいほどのクズ。
普通の兄弟喧嘩なら面倒くせえし首突っ込まないんだけど、杏里ちゃんはトト子ちゃん以外で仲良くしてくれる唯一の女友達だし、俺みたいなクズでも今回はちょっとねーなと思ったので口を挟むことにした。

「いいんじゃない別に、連絡しなくても」

俺が急に口出ししたからか、きょとんとする三人。が、すぐにおそ松兄さんが笑う。

「ほらな?一松もいいって言ってんじゃん」
「一松、それはないだろ!いくら杏里ちゃんが気にしないからって」
「いや、杏里ちゃんは気にしてないだろうから別にいいんだけど、今連絡したらお邪魔だから」
「え、どういうこと?」

トド松が怪訝そうな顔になる。

「さっき杏里ちゃんに会ったけど、イヤミと一緒だったんだよね。んでイヤミの車乗って二人でどっか行った」

場が静まり返る。
その静けさを破ったのは、おそ松兄さんが取り落とした缶ビールだった。その顔は、もう笑ってない。

「…どういうことだよ」
「知らない。でも杏里ちゃんケーキ的なもの持ってたし、誕生日会でもやるんじゃねーの。二人で」

本当は何持ってたかまでは見えてなかったけど、トド松が誕生日っつってたから使わせてもらった。

「…約束すっぽかす男よりは一緒にいてまだマシかもな」

こういう時、カラ松はあえてトドメを刺しにくる。クソうぜえけどこの意見には同意だ。

「だから邪魔しない方がいいんじゃない」

俺が言い終わるのとおそ松兄さんが立ち上がるのとほぼ同時だった。
俺達の視線も気にすることなく、全く余裕のない顔でドスドスと部屋を出ていく。
玄関の戸を乱暴に開け閉めする音がして、また静かになった。

「…まさかだけど、マジでイヤミと杏里ちゃんが…ってことはないよね」

トド松が恐る恐る聞いてくる。

「冷静に考えて無いでしょ」
「杏里ちゃんのことだから、たまたま道で知り合いに会ったついでに、って感覚だろうね」
「おそ松兄さん余裕なかったね!」
「フッ…嫉妬の炎に身を焦が「燃えろクソ松」…えっ」

あーしんどい。人に関わると疲れる。
でも今回は別に後悔してない。珍しく。







「チミは手先が器用ざんすね。やっぱりこういう作業は女性の方が向いてるざんす」
「そうですか?裁縫なんて久しぶりですけど」
「かなり戦力になってるざんすよ。またこういう仕事が来た時は力を借りたいぐらいざんす」
「時間がある時ならいいですよ」

イヤミさんの家での人形作りはなかなか順調に進んでいた。
この調子なら徹夜はせずにすみそうだ。
一つ作り終えて、次に取りかかろうと手を伸ばす。

「あ、イヤミさん、これで終わりですよ」
「シェッ!?もうざんすか!?早かったざんすねー」
「お仕事終わりですね」
「あー助かったざんす。本当にバイト代はいらないざんすか?」
「いいですいいです。いい暇潰しになりました」
「チミはいい娘ざんすねぇ…」

手をぱっぱっと振って立ち上がる。
ああ、目がだいぶ疲れたかも。

「終わったことだしケーキ食べません?さっきコンビニで買ったやつ」
「ミーの分もあるざんす?チミはお人好しすぎる気がするざんすよ…ところでなぜケーキを?」
「今日私誕生日なんです。だからケーキ食べたいなと思って」
「誕生日?へえ…ああ、じゃあこれをあげるざんす。今日の仕事でおまけでもらったざんすが、ミーは使わないざんすから」

イヤミさんに手渡されたのは、お花をあしらったガラス玉のついている可愛い髪ゴムだった。

「ありがとうございます。ちょうど買おうかと思ってたんです、髪が邪魔になってきて」
「そりゃ良かったざんす」

ゴムをしまって、冷蔵庫にしまわせてもらっていたケーキを持ってくる。

「それじゃ、イヤミさんどうぞ」
「ありがたくいただくざんす」
「あーおいしい。最近のコンビニスイーツは馬鹿にできませんね」
「久しぶりにケーキなんか食べたざんすよ」
「そうですね」
「しかし誕生日に彼女を五時間待たせるとは、おそ松の奴本当にダメニートざんすね…」
「え?」

意外な言葉が出てきて思わず聞き返してしまった。

「え?ってチミ…」
「あの、私おそ松の彼女じゃないんですけど…」

一呼吸置いて、イヤミさんがシェーッと飛び上がった。

「チ、チミ達恋人同士じゃなかったざんすか!?」
「はい。別に付き合ってくれと言われたことはないですし、好きと言われたこともないですし」
「はぁー…あいつはどうしようもなく奇跡の馬鹿ざんす」

なぜか頭を抱えるイヤミさんを横目に、ケーキをぺろりと食べてしまった。おいしかった。
ごちそうさまでしたざんす、と手を合わせるイヤミさんを見て私もそろそろ帰ろうかなと思った時、玄関がピシャンと開く音がして、誰かが入ってくる足音が聞こえた。

「な、何ざんす?」

イヤミさんが呟いた瞬間、私達のいる部屋のふすまがスパンと開いた。
そこに立っていたのは何やら怒った顔のおそ松だった。

「おそ松?何でここに?」
「それはこっちの台詞だ!何でイヤミと一緒にいるんだよ!」

あ、私に怒ってるのか。
もしかしてあの後連絡くれてたんだろうか。電池切れてから確認できてないしな…

「おそ松、杏里はミーの仕事を手伝ってくれてただけざんすよ」
「私が手伝いたいって言ったんだよ」
「だからって!今日は俺と約束してた日だろ!」
「五時間待たせた人間の言うことじゃないざんすよおそ松」
「うるせーイヤミは黙ってろ!」
「なんつー自己中心的発言ざんすか!」

すごく怒ってるおそ松と呆れ顔のイヤミさんが口喧嘩を始めてしまった。

「ごめんおそ松、一応連絡は入れたけど返事なかったから」
「返事なくても!どうせ俺のことだから競馬かパチンコか酒でくだんねー時間潰してるだけなんだから何回だって連絡くれりゃいーだろバカ!」
「おそ松自分が何言ってるか分かってるざんすか…」

呆れ果てたイヤミさんが脱力しきった声で呟いた。

「そうしようかとも思ったんだけどいつも通りでいいかなって。それに…」
「それに?」

不機嫌丸出しの声でおそ松に促される。

「もう疲れちゃってたし」

スマホの小さい画面でのゲームは長時間するもんじゃないな、と教訓になった。
内職でさらに疲れたし、家帰ったら目を冷やしたりした方がいいかな。
なんてことを考えてたら、おそ松からの反応がぱったりなくなった。あれほど怒りオーラを放ってたのに、一気にしぼんでしまったみたい。今はなんかちょっと震えてる。

「さ、杏里、お迎えも来たしもう外も暗いから、そいつ連れて帰るざんす」

イヤミさんがやれやれといった感じで沈黙を破ってくれた。

「でも片付けが…」
「あーいいいい、ミーがやっとくざんす。だから早いとこその土足野郎を連れて帰ってちょ」

言われて初めて、おそ松が土足で上がりこんでいることに気付いた。
魂の抜けてしまったようなおそ松の背中を慌てて押す。

「それじゃ、失礼します」
「はいはい」

家を出て、おそ松の手を引いて歩く。
電池が切れたみたいに無反応のおそ松がとぼとぼと歩くのに合わせて、私もゆっくりと暗くなった道を歩く。

「おそ松の家に帰るのでいいんだよね?」

聞いても答えが返ってこない。
代わりに、「何でイヤミ…」という呟きが聞こえた。

「帰り道でたまたま会ったんだよ。暇だったし仕事お手伝いしようと思って」
「………疲れた?」
「え?仕事はまあまあ疲れたかな…」
「そうじゃなくて!…俺といるの、疲れた?」
「え?別に?」

さっきから微妙に会話のキャッチボールができてない気がする。おそ松は何でそんなにしょげてるんだろう。

「ほんとに?」
「うん、おそ松といて疲れるってことはないけど」
「だって、さっき、疲れちゃったって!」
「疲れちゃった…?ああ、おそ松待ってる間スマホでゲームやってたらすっごい目疲れちゃって。電池も切れちゃったし、もし連絡くれてたんならごめんね」

おそ松が「はあぁ!?」と声を上げた。

「め、目の話かよ!あーびっくりした!あーびっくりした!紛らわしーんだよ!」
「何の話だと思ったの?」
「べ、べっつに〜」

よく分からないけど元気になってよかった。

「あー焦った…イヤミの方が良かったとか心臓に悪いわ…」
「何がいいの?」
「何でもない!杏里!これからは俺の許可なくイヤミと会わないように!」
「それは無理だよ。偶然会うかもしれないし」
「だめったらだめなのー!」

幼稚園児のごとく駄々をこねるおそ松にわかったわかったととりあえず返事をした。でも無理な時は無理。

「…ていうか杏里、今日誕生日なんだって?」
「あ、うん。知ってたんだ」
「トド松が言ってた…イヤミとケーキ食べてたし…ずるい…」
「おそ松ケーキ食べたかったの?買っていこうか?」
「おう!買ってこーぜ!杏里のおごりな!」
「いいよ。他のみんなも食べるよね」

私は食べたし、じゃあ全部で六個…とコンビニに入ろうとしたら、おそ松に手を引かれて止められた。

「どうしたの?」
「…やっぱり俺も出す」
「え?無理しなくていいよ」
「お前の分は俺が出す!」
「私もう食べたから別にいいよ」
「出すっつってんだろうがー!!」
「あ、そう…?じゃあ、ありがとう…」

おそ松が人におごるなんて珍しいこともあるもんだ。大人しくおごられておいた。
その後せっかくだからうちで食べてけというおそ松に連れられて松野家まで来た。
家に入る前、おそ松にまた手を引かれて止められて「今日はごめん」と謝られた。もしかしてずっとそれを引きずってたから様子がおかしかったんだろうか。
別に気にしてなかったよ、と言うと「やっぱりな!お前はそういう奴なんだよな!」となぜか嬉しそうだった。

「あ!お帰りおそ松兄さんと杏里ちゃん!」
「おう!長男様の御帰宅だぜ!」
「お邪魔します」
「いらっしゃい杏里ちゃん」
「二人とも仲直りできたんだねー!!」

にょろにょろと腕を動かす十四松にそう言われて、私は頭にはてなが浮かぶ。

「私とおそ松、別に喧嘩してなかったと思うんだけど…」
「そーそー、俺たちすげー仲いいから!ラブラブだから!」
「こいつすぐ調子に乗りやがる…」

イラっとしたらしいチョロ松に買ってきたケーキを渡す。

「今日私の誕生日なの。だからみんなでケーキ食べよう」
「うわあいいの杏里ちゃん!」
「やったー!ケーキだー!」
「お前ら俺たちに感謝して食えよ!」
「おそ松兄さんはどうせ一円も出してないだろ!」
「出しましたー杏里の分は出しましたー」
「一人分かよ!」
「杏里、お前というエンジェルがこの世界に舞い降りし日を祝福してこれを…」

みんなのやり取りを楽しそうだなと見ていたら、カラ松から五本のバラの花束を渡された。

「わぁ、ありがとう!」

思わず顔がほころぶ。花をもらって嬉しくなるところ、自分で自分を女の子っぽいと思う。

「フ…お似合いだぜ子猫「はぁぁーっ!?何だよそれ何だよそれぇ!!俺だってお前にケーキ買ってやったんですけどー!?」おそ松…」
「え、うん。それもありがとう」
「ちーがーうー!!そんなんじゃねぇもっと『おそ松くんありがとう…惚れ直しちゃった』とかじゃねーの!?俺たいがい人におごんないよ!?」
「この人が兄で本当に恥ずかしい」
「同意」

既にケーキを頬張っているトド松と一松がわりと辛辣なことを言う。

「うーん…私『おそ松くん』って呼んだことないし」
「細けぇことはいいんだよ!そこじゃねーの!あーもー杏里のバカ!バァァァカ!」
「杏里ちゃん、三歳児はほっといてケーキ食べよう」

チョロ松が席を空けてくれたのでそこに座る。
あ、そうだ。イヤミさんからゴムもらったんだった。ケーキ食べるのに髪邪魔だし使わせてもらおう。さっきもらった時に使えば良かったな。
ゴムを取り出すと、トド松から「それ可愛いね!」とすかさず声がかかる。さすがだなぁ。

「ありがとう、これさっきイヤミさんからもらったんだ」
「はぁぁーーーーーー!?」
「うるっせぇよクソ長男!」

隣に座るおそ松が叫んだのでちょっとびっくりした。でもイヤミさんも人に物をあげる時ぐらいあると思う。

「イヤミが…イヤミがこれを杏里に…」
「うん。なんか仕事のおまけでもらったって言ってた」
「仕事のおまけかい!!」
「おそ松兄さんだけ別室で食べてくれる?」

迷惑そうにトド松が言うけど、私はわりとにぎやかで楽しいと思う。

「ごちそうさま。杏里ちゃんありがとう」
「こちらこそ」
「ごちそうさまでしたー!」
「何かごめんね、僕ら何もあげれなくて…」
「気にしないでいいよチョロ松。みんなでケーキ食べれて楽しかったよ」
「だろ?俺が誘って良かっただろ?」
「ったく…おそ松兄さん、来年はちゃんと彼女の誕生日くらい祝ったげなよ」
「へいへい」
「え?」

さっきも聞いた違和感のある言葉にまた声を上げると、六人が一斉にこっちを向いた。

「え…え?って何?杏里ちゃん」
「あの、イヤミさんにも勘違いされてたんだけど、私おそ松の彼女じゃないよ」

私の一言で空気が凍った気がした。この様子だとずっと誤解されてたに違いない。

「あ……あれ?おそ松兄さんと、杏里ちゃんって、その……」
「つ、付き合って、ないの…?」
「うん。よく一緒にいるから誤解させてたのかもしれないけど、私達恋人同士じゃないよ。付き合おうとか告白とかも別にないし…おそ松にも早く彼女が出来たらいいのにね」

そう言っておそ松を見ると、顔面蒼白で心ここにあらずといった感じだった。
まずい、おそ松の彼女いない歴イコール年齢という傷口に塩を塗ってしまった。

「ご、ごめんおそ松。でも焦ることないよ、この歳で恋人いない人なんてたくさんいるし、私なんて彼氏いないどころか好きな人もいないし。大丈夫だよ」

フォローをしてみたものの、おそ松はゆっくりと机に顔を伏せてしまいには泣き出してしまった。

「ど、どうしよう…ごめんねおそ松…」
「いや、もうほっといていいよ杏里ちゃん」
「自業自得」
「ケーキおいしいね!!」
「そうだねー十四松兄さん」
「フッ…兄貴の気持ち…俺はよく分か「黙って食え殺すぞ」うん…」

おそ松は泣きっぱなしでちょっと申し訳なかったけど、みんなと一緒に何だかんだ楽しい誕生日を過ごせた。
みんなの誕生日の時は、私もちゃんとお祝いしなきゃいけないな。