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大学が休みのある日、買い物でもしようとブラブラ街に出ていた私は、幼なじみの六つ子が向こうから歩いてくるのに気付いた。
周りの女の人がちらちらと六人を見てはキャーとか何とか言っている。六つ子って珍しいしね。服も色違いのツナギでお揃いだし。
みんなでパチンコか競馬場にでも行くんだろうか。本当仲いいよなあ。
ちょっぴり微笑ましく思っていたら、向こうも私に気付いたようでこっちに近付いてきた。

「おはよーみんな」

手を振ってあいさつすると、みんな揃って微妙な微笑みを浮かべた。なんだその顔。

「よ、おはよう。杏里」

代表しておそ松があいさつしてくれる。が。
何だろうこの違和感…
みんな見た目はいつも通りなのに、何かが違うような気がする。
おそ松がどことなく爽やかな気がする。

「…おそ松、どうしたの?」
「え?何が?」
「いや、何か…」
「あ」

私が言いかける前に、おそ松が私の頭に手を伸ばす。
葉っぱでもついてたかな?
おそ松は私の頭についてた何かを取ると、自分の口にくわえた。

「芋けんぴ、ついてたよ」

は?
芋けんぴなんて私の頭にどうやってつくんだよ…
そしてお前は人の頭についてた芋けんぴを笑顔で食うなよ。カリッじゃねえんだよ。
ツッコミが頭の中を流れていくけど口には出さないままぽかんとしていたら、カラ松がずいっと前に出てきた。

「ったく…どんくせぇな。もっと身なりに気を付けろ、バーカ」

誰だお前は。
私の知ってるカラ松はそんなんじゃない。
こんな威圧的俺様発言なんかしない。
妙にサングラスが似合って見えたりとかもしない。
誰なんだお前は。

「カラ松兄さん、女性にその口の聞き方はないんじゃないですか」

珍しく眼鏡をかけたチョロ松が口を挟んでくれた。なぜ敬語なのかは不明だが、チョロ松はまだ普通だ…
と思っていたら、どうやら今まで本を読んでいたらしく片手でパタンと閉じた。
何だその辞書みたいな分厚さの本は。就職情報誌じゃないのかよ。タイトル英語だし。

「あ?こうでも言わなきゃわかんねーだろーがこの女は」
「もうカラ松ってば…ごめんね杏里、カラ松も本当は優しい奴なんだよ?って、知ってるか」

ウインクをするな。何なんだおそ松。おかしい薬を飲んだのか。

「ちょっと…邪魔」

そう言って私とおそ松の間に入り込んで来たのは一松だった。
ノリがおかしいおそ松たちとつかの間壁が出来たようでほっと一息つく。
しかし一松は私の顔をじっと見たまま全く動かなくなってしまった。まあ、こういうのは今までもあっ

「ここで出逢うとは――やはり、運命か」

カラ松みたいなことになってんぞお前!?
いっつも凄まじいほどのツッコミを入れてるカラ松の厨二発言そのものだぞ!?いいのかお前!いいのか!!
ここ一番の衝撃に冷や汗をだらだら流していると、横から「杏里ちゃーん!」と元気な声がかけられる。

「ねーねー、今からどこ行こうとしてたの?」

いつも通りの笑顔で元気いっぱい聞いてくる十四松。
ああ、十四松はいつも通りだ…!

「うん、ちょっと買い物に」
「買い物?へえーいいなあー僕も一緒についてっちゃだめ?」

私の右腕に急に絡められたのはトド松の手。
上目遣いのトド松もいつも通りあざと………いや、あざとくない。普通に可愛い。元からこういう性格だったかのようだ。

「別にいいけど…」
「わーいっありがと杏里ちゃんっ!杏里ちゃん大好き!」

ぎゅっと抱き付いてくるトド松。
ハートマークが飛びそうな可愛らしい反応に、私はただただ違和感しか覚えなかった。
今のところ十四松以外全員おかしいぞ。

「え〜トド松ばっかりずるいなぁ。ね、杏里、僕もついてっていいよね?」
「おそ松兄さんもトド松も、女性に詰め寄るのは失礼ですよ。杏里さんがびっくりされているじゃないですか」
「チョロ松兄さんは堅いんだよっ、杏里ちゃんも僕たちと一緒のが楽しいよね?」
「こいつ、目ぇ離すと危なっかしいからな。俺もついていってやってもいいぜ?」
「お前が何に興味を持つのか知っておきたい。将来を共にするのだから」
「おい一松、何杏里の未来を勝手に決めてるんだよ」
「そーだよっ、杏里ちゃんは僕のお嫁さんになるのっ!」
「お前ら言いたい放題言ってんじゃねぇ!こいつの面倒見れるのは俺以外ありえねーんだよ!」
「がさつなカラ松兄さんに、杏里さんの相手が務まるとは思いませんね」
「えーっぼくも杏里ちゃんと結婚したい!」

何だこれは…
何でいきなり私を取り合ってるんだよ。お前ら昨日までそんな素振り全然なかったじゃねえか…
とりあえず往来で六つ子がやいやい言い合ってるのは目立つのでやめさせなければいけない。

「みんな一緒に買い物行くの?行かないの?」
「行く!」
「行くよぉ!」
「じゃ、ほら早く行こう」

一つため息をついて歩きだすと、全員揃ってついてきた。
一緒に行こうとは言ったものの…何なんだろう、すごく怖い……
右腕には相変わらずトド松がくっついていて、左手は十四松に握られている。
まあ、この両サイドの二人はまだ良い。問題は残りの四人だ。気持ち悪いにもほどがある。
デカパン博士の怪しい薬でも飲んだりしたんだろうか。後で聞きに行ってみるか。
今までだったら、買い物中の姿を六つ子に見られたが最後「何でもいいからおごって杏里ちゃーん」とかごねるおそ松を筆頭に、六人全員に駄菓子を買ってあげたりするのが常だったけど。
今のおそ松は穏やかな笑みをたたえ、「ねえ、杏里」と今まで使ったことのない優しい声色で私に呼びかけてくる。

「今何か欲しいものがあるの?」
「今日は服を買おうと思って出てきたんだ」
「そうなんだ!あ、僕杏里の服選んだげたいな〜」
「…何もおごらないよ?」
「え?おごるって?そんなのいいよ!女の子におごらせるのってさ、なんか…男としてどうかなって思っちゃうし。しかも、好き、な子にさ…」

今まで散々駄菓子でもいいからってごねてタカってきてたのは何なんだ。何で照れてるんだ。

「はいはいっ!杏里ちゃんの服、僕も選びたいな!」
「ありがとうトド松。トド松センスいいもんね」
「えへへへっ、杏里ちゃんに似合う可愛い服いっぱい選んだげるね!」
「おいトド松、だからってあんまり露出の多い服はやめろよ。勘違い野郎が大勢寄ってくんだろ」
「その意見には賛成です。…杏里さんには少々無防備なところがありますし」
「…そういう服着るのは、俺の前だけでいいから」

耳元で囁かれた一松の声に体がびくっとする。一松はボケで言ってんのか素で言ってんのか時々わからないけど、今のような甘ったるい台詞を私に向かって発したことなんか一度もない。
鳥肌が立ってきた。恐怖で。

「ねー杏里ちゃん、他に欲しいものある?」

十四松が繋いだ手をぶらぶらさせながら無邪気に聞いてくる。
こうなったらもう私の癒しは十四松だけだ。

「服以外は特にないかなぁ…」
「えー!そうなのー!?」

大声をあげて心なしかしょんぼりしている十四松。
そんなにショックな発言だったんだろうか…

「杏里ちゃんの欲しいもの、買ってあげたかったなー」
「そうなの?でもその気持ちだけで十分だよ、ありがとう」

十四松は時々おみやげと称してどんぐりをくれることがある。可愛らしくて部屋に飾ったりしているのだけど、私はそういうので十分嬉しいのにな。
よっぽどショックだったのか、声がいつもより低い。

「うーん…でも、やっぱりぼくも何かあげたいな…あ!分かった、じゃあぼくの気持ちを表せるようなものをあげるね!」

気持ちを表すって…?
と言おうとしたら手を離されて、今度は肩を抱き寄せられた。

「百万ドルの夜景とか、どうかな…?」
「誰だお前はー!?!?」

もう限界だった。
両サイドを振り払って六人に向き直る。

「誰!誰!?誰!?!?」
「ちょっ、どうしたの杏里」
「杏里ちゃん大丈夫?」
「大丈夫じゃない!なんか今日みんな変だよ!何なの!?私をからかってんの!?」
「からかってなんかないよ!!」

おそ松の声に言葉を失う。
いつもへらへらしているおそ松の、真剣な声だったから。
口をつぐんだまま、次の言葉を待った。

「からかってなんかない…僕たちは真剣だよ?杏里…君へのこの、焦がれるような恋ごこ」
「バーーーカ!!てめーら揃ってバカだこの野郎!!」

何なんだよその鳥肌ものの浮わついた台詞は!!
絶対今までそんな気持ち抱いてこなかっただろ私に!!
残りの五人も真剣な眼差しでこっち見てんじゃねーよ!!
有り得なさすぎてなんかもう笑えてきた…
必死に笑わないように唇を噛んでいると、おそ松に肩を掴まれて向き直させられた。

「杏里…今までずっと、黙ってきたけど、僕たちもう限界なんだ。だから……誰か一人を、選んでよ」

やめてくれ。
今の私にその台詞は爆笑を煽る材料にしかならない。
下を向いてふるふると震えているのを勘違いしたのか、おそ松が手を離した。

「ごめん、急に言われたって困るよな。でも僕たち本気だよ?杏里のこと、一生かけて大切にしたいって思ってる。僕たちのプリンセス…」

限界だった。二度目の。
笑いがもれないように「ごっ…ごめん…!」とだけ言い残しその場を走り去る。
後ろから「杏里!」とかやけに必死な声が聞こえてくるけどごめん、本当にごめん、笑いをこらえすぎてお腹痛い。
しばらく走った後、建物の影にさっと入って追ってきていないかを確認する。
遠くの方で私の名前を呼ぶ六人と、その周りに群がる女性達が見えた。

「松野くーん!こっち向いてーっ!」
「キャーッ!」
「松野家の六つ子よー!かっこいいー!」

どういうことなんだろうか。
あいつらあんなにモテてたっけ…?
私が知らなかっただけで本当はモテてたのか?それでいて童貞?
何にせよあの女性たちのおかげで静かにショッピングに向かえそうだ。
でも何で急にあんな風になっちゃったんだろう。まるで少女漫画に出てくるイケメンキャラクターみたいになってたな…

ん?

その時私の脳裏によみがえったのは、彼らが昔F6とかいうアイドルをやっていた時期があるという事実だった。
女性ウケを狙ってやったものの、乙女ゲームチックな雰囲気や諸々の事情に耐えられずアイドル路線を諦めたらしい。確かに私が知っている六人は、そういうキャラクターを保ち続けるのが難しそうな奴らばっかだし。
やっぱり自分たちはギャグ畑だからギャグキャラしかできないってことで戻ってきたらしいけど…
ん、待てよ?
イケメンでもなければブサイクでもない、美化も全くされてない至って平々凡々な見た目なのにあの中身っていうのは…ギャグキャラとして成立するんじゃ…?
もしかして、中身だけF6に…!?


「みーっけ」


突然かけられた声に体が跳ねた。
ゆっくり振り向くと、女性たちを振り切ってきたのだろう六人。

「ひ…っ」
「ご、ごめんごめん、怯えないで?」
「もーっ、おそ松兄さんが急にあんなこと言うから杏里ちゃんびっくりしちゃったんだよっ!」
「私達も配慮というものが足りませんでしたね…申し訳ありません、杏里さん」
「杏里を困らせたかったわけじゃない、信じて」
「あー…あのよ、今まで通りっつーのは難しいかもしんねーけど…」
「今は、杏里ちゃんがそばにいてくれればいいんだ!」

未だに違和感を拭いきれないけど、気を抜いたら吹き出しそうになるけど、とりあえずこの人ら無害だよね。少なくともクズニートよりかは人間性がまだましかもしれない。
深呼吸を三回した。

「私こそ、ごめん。急に走り出しちゃったりして」

私が言うと、みんなほっとした表情になった。

「うん、そんじゃショッピング続行!」
「行こ、杏里ちゃん!」

また両サイドにトド松と十四松が引っ付いてくる。

「あっ、ちょ…お前らずるい!さっきも杏里の隣だったじゃん!」
「杏里ちゃんの右は僕って決まってるの!」
「ぼくも譲んないよー!」
「ずるいってー!」
「三人ともうるさいですよ、他の方に迷惑でしょう」
「つか、あんま杏里引っ張んな!危ねーだろが!」

そんな騒ぎ声の中、一松が私に顔を寄せて言った。

「必ず手に入れるから、覚悟しといて」

前言撤回だ。
やっぱ今の状態のこいつらは私にとって有害だ。
いちいちこんな発言されてちゃ腹筋がいくらあったって足りない。

「お、お…お腹…痛…」
「杏里ちゃん!?大丈夫!?」
「だから言っただろうがてめぇら!杏里の負担になるようなことすんじゃねーよ!」
「わーん!杏里ちゃんごめんねぇ…!」
「…ふ…っ(台詞だけ聞くと普通なのになんでこんな面白いの…)」
「騒がない!どこか休める場所を探しましょう」
「く…っ(何で敬語なんだよ…だめだ急にツボに)」
「やはり…孕んでしまったか…」
「…っ…ひ…(やはり孕んでしまったって何だよアレンジしてんじゃねーよ)」
「は…?てめー今何つった?」
「何孕むって?一松兄さんどういうこと?」
「一松?いくら可愛い弟だからって、許せないことがあるよ?」
「…っ…っ(何で急にシリアスな展開になんだよもうやめてマジで)死んじゃう…」
「杏里!?」
「杏里ちゃん!」

笑いをこらえすぎて気絶することがあるんだと思った。そこからの記憶はない。



次に目が覚めた時、私は松野家の六つ子の部屋にいた。そして六人に顔を覗きこまれていた。
これまでのことは夢かと思いたかったが、おそ松が「おはよう、お姫様」と言ったので咳き込むふりして大爆笑した。
とにかく一刻も早く元のクズニートたちに戻ってほしい。そうじゃないと私の腹筋と貞操も危ない気がする。
といっても私にできるのは、この日から鬼のように乱立しだしたフラグをへし折っていくことぐらいしかない。
ああ、普通の大学生だったはずなのに…何で乙女ゲームの主人公みたいになっちゃったんだろう。