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【拍手お礼夢/レンタル一松くん5】

「ただいまです」
「…お帰り」
「みゃーん」
「あっ、今日も来てくれたんですね!」

玄関のライトの下、松野さんと眼鏡を掛けたエスパーニャンコが私を出迎えてくれる。
靴を脱ぐついでにしゃがんでエスパーニャンコに手を伸ばすと、なんと向こうの方から頭を寄せてきてくれた。

「はわわわわ」

なんという至福の時。
しばらくふわふわの毛玉を堪能する。

「疲れが飛んでいく…」
「…だってさ」
「なぁん」

エスパーニャンコは、ここでの松野さんの役割をわかっているのだろうか。
お留守番だけでなく疲れて帰ってくる私へのケアも、松野さん同様完璧にこなしている。

「ありがとうねニャンコちゃん」

おでこをすりすりと撫でて手を離す。猫飼いたいな。無理だけど。
エスパーニャンコを堪能し終わり部屋へ向かう私の後から、松野さんがゆっくり立ち上がってついてくる。

「今日も、一応ご飯作っといた」
「やった!ありがとうございます」
「……エスパーニャンコのご飯もある」
「えっ」

まさか、ということは。
振り返って松野さんを見つめると、薄く笑って「百円」と言われた。

「は、払います払います」
「ふ、了解…」

私より先に部屋に入っていった松野さんは、猫を抱いたまま、自分の鞄から小さいお皿と煮干しの袋を出した。そして片手で器用に煮干しを小皿に出していく。
その間に私はテーブルを端に押し退けて正座をし、松野さんが私の隣に小皿を置くのをドキドキしながら見守った。もったいぶっているのか、松野さんはいつもよりゆっくりとした動きだ。

「…それじゃ、ご堪能ください…」

松野さんは低音の良い声で囁き、エスパーニャンコをそっと下ろしながら高級レストランのウェイターのように恭しく一歩下がった。
エスパーニャンコはというと、さっそく小皿めがけてまっしぐらに駆け寄り、小さいお口であぐあぐと煮干しをかじり始めた。

「はぁ……食べてる……」

ただ煮干しを食べてるだけなのに、なんでこんなに可愛いんだろう。
独り言のようにそう言うと、「わかる」と同意が返ってきた。

「何度見ても飽きない」
「でしょうねえ。何ででしょうね」
「猫だからじゃない?」
「真理ですねそれは」

私も松野さんもテーブルに肘をつき、二人の間にいる食事中のエスパーニャンコをしばらく見守った。
たくさんあげすぎるのは良くない、とのことで煮干しはすぐになくなってしまったが、空のお皿をぺろぺろ舐めている姿にうっとりとしたため息が出る。

「あー可愛かった…ごちそうさまでした」
「…じゃあ人間のご飯はいらないね」
「いやいります!待ってください!」

ぼそっと呟かれた言葉を慌てて止める。
松野さんは何も答えず私を流し目で見て、一拍置いてゆるりと立ち上がった。今日の松野さんは何かと焦らしてくる。
冷蔵庫から出されたのは、ラップのかかった例の猫おにぎりと中身がはっきり見えない大きめの皿。
借りるよ、と言われ、大きいお皿がレンジに入れられた。私の返事を待たないあたり、ここに慣れてきている様子だ。

「それ何ですか?」
「秘密」
「松野さん、今日は何かと焦らしますね」
「え?」

意識はしてなかったらしい。何それと言わんばかりの声だった。

「心理戦とか得意じゃないですか?」
「いや?全然」
「ほんとに?」
「何で?」
「焦らすのが上手いので」
「…ふーん」

チン、と音が鳴り、松野さんがお皿を取り出す。代わりに猫おにぎりがレンジで温められ始めた。
あの大皿、たぶんおかずだろうけど何だろう。
松野さんがこっちに持ってくるお皿を何となしに注目していると、松野さんはそれをテーブルに置かず、なぜか私の前で高く掲げた。

「…何だと思う?」

もちろん私からはお皿に載っている物は全く見えない。
ちょうど照明を背にした松野さんの顔はうっすら笑っていて、悪役みたいな陰影がついていた。

「えー?何でしょう。いい匂いはするんですけど」
「……」
「お肉っぽい匂いですよね」
「……」
「教えてくださいよー、お腹空いてきました」
「……」

松野さんは無言のまま、そしてお皿の中身を見せないまま、チンと鳴ったレンジへ向かった。いい匂いも遠ざかる。

「えええ…」

思わず漏れた呟きに、松野さんが微かに肩をすくめたのが見えた。たぶん今笑われた。
猫おにぎりを取り出した松野さんは、今度は焦らすことなく両方のお皿をテーブルに置いた。

「正解は、手羽先でした」
「手羽先!」

お皿いっぱいに並べられたいい具合に焼け目のついたお肉とタレの匂いがますます食欲をそそる。
私の冷蔵庫に入っていた材料ではないから、また松野さん側で用意してくれたんだろう。私一人では多いぐらいの量の手羽先、用意するの大変だったろうに。

「ありがとうございます松野さん、手羽先も松野さんが作ったんですか?」
「いや…まあ、ちょっとは手伝ったけど……うん」

言葉を濁し気味にして、松野さんは何かをためらったように一度座りかけた腰を浮かした。

「食べていいですか?」
「うん。……あの」
「はい」
「…俺も食べていい?」
「そりゃもちろん。いいですよ」

夕飯いらないって言っちゃったから、と呟き松野さんはそわそわと座り直した。
手羽先のお皿を松野さんの方へ押しやると、遠慮がちに一本取り上げて食べ始める。
もしかして、前回私が『一緒にご飯を食べませんか』と誘ったのを覚えてくれていて、私の希望に沿おうとしてくれたのだろうか。
焦らすのが上手いと言ったその後ですぐ焦らされたし、松野さんってとても素直な人なのでは。

「松野さんって素直ですね」
「え?」

思ったことを言ったら、また何それの口調で返された。

「何が?…てか、どこ見たらそうなるの」
「一緒にご飯食べてくれたんじゃないんですか?」
「違うけど」

図星だったらしく、耳が赤くなっていた。やはり素直な人だった。


松野さんの帰り際、お金を入れたポチ袋を渡す。

「今日は諸々で多めに入れておきました」
「…どうも」

若干不機嫌そうなのは、私が松野さんの意図を見破ってしまったからだろうか。
せっかく少し仲良くなれたと思ったのに。
次からは松野さんの思惑に気付いても指摘しない方がいいな、と考えながら、ドアを閉める松野さんとニャンコちゃんに手を振る。
鍵を掛けようとすると、ドアと一体型の郵便ポストにゴトンと何かが落とされた。
確実に松野さんが入れていったそれは、前回うちにわざと置き忘れていった漫画雑誌だった。
そういえば、今日返そうと思っていてテーブルに置いたままにしてたのを忘れていた。
期待に胸が温かくなり、ページをめくっていく。
予想どおり、私の似顔絵が描かれたページを発見した。留守番中に描いてくれたんだろう。
『猫以外描けない』という小さい字と一緒に、劇画調ながらも美人にしようとしてくれたのだろう人物画だ。
松野さんは素直で照れ屋。
ページの余白に『たいへんすばらしいです』と書き込みながら思った。





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