ハッピィバレンタイン!





池袋に向かう途中で見つけた洋菓子屋。
店先の飾り付けにふと思い出す。

「もうすぐバレンタインか…。」

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呼び出されて訪れた新宿の某マンションを見上げて、静雄は小さく溜め息を吐く。
なぜ自分が仇敵である折原臨也の元に行かなければいけないのか…答えは、二人が恋人同士だからだ。
その事実に少しだけ頬を赤らめて、わざと顔をしかめながらマンションへと入っていく。



「で、何の用だ?」
ソファに腰掛け出された甘いカフェオレをふうふうと冷ましながら、静雄は恋人である臨也にそっけなく問い掛ける。

「やだなぁ、シズちゃん。愛しい恋人に、用もなく会いたいと思っちゃ駄目なの?」
隣でブラックコーヒーを飲んでいた臨也が、わざとらしく大きな溜め息とともにそう返せば、静雄は顔を真っ赤にして俯いた。
愛しいという言葉か、それとも恋人という単語か…はたまた会いたいという部分か、とにかく臨也の言葉が恥ずかしかったらしい。
可愛いとは程遠い外見をしているというのに、臨也にとって今の静雄は可愛くてしょうがなかった。

「あ、そんな可愛いシズちゃんに良いものをあげる。」
徐に立ち上がりデスクへと向かった臨也の手には女の子らしいラッピングが施された小さな四角の箱がある。
それを持って戻ってくると、満面の笑みを浮かべ静雄の目の前に差し出した。

「か、可愛いとか言うな馬鹿野郎…。」
眉間の皺を深めながらも箱を受け取り眺める。
箱の中からふわりと甘い香りが漂ってきて、静雄は思わず口元を緩ませた。

「チョコじゃねーか、これ。開けて良いか?」

「うん、どうぞ。」
言うや否や、綺麗に剥がされたラッピングの中の箱を開けて、一粒だけチョコを摘み取り出す。
そのまま口に放り込むと、洋酒の香りが口内に広がって幸せな気分になる。

「美味しい?」
もう一粒が口の中に消えたタイミングで問うと、静雄の首が縦に振られる。
その反応に気を良くして満足げに目を細めながら、静雄の隣に座り直して顔を近付ける。

「俺も食べたいなあ。」
そう呟いて、臨也の為にチョコを摘もうとする静雄の唇を一舐めしてみせた。
途端に真っ赤になる顔を至近距離から見て、もう一度その甘い唇にキスをする。
歯列や上顎、舌に至るまで丹念に舐め尽くしてから唇を離す。

「ご馳走様でした。」
静雄が摘みかけていたチョコを取り上げ、開いたままになっているその口に入れてやると、漸く静雄は視線を泳がせながらもチョコを咀嚼し始める。
何か言いたそうな顔をしていたが、きっと恥ずかしすぎて言葉が出ないのだろう。
代わりに拳や物が飛んでくることもなく、静雄は何かを思案しているようだった。

「…シズちゃん?」
5分ほど経った頃か、それまで微動だにしなかった静雄がいきなり立ち上がり、携帯電話をいじっている臨也の足元に屈み込んでこちらを見上げていた。
名を呼んで頭を撫でてやれば、心地好さそうに目を閉じる。

「い、臨也っ。」
撫でていた手を急に掴まれ、どこか切羽詰まった様子の静雄がまたこちらを見上げてくる。
目が合った瞬間、静雄の真っ赤な顔が近付いてきて唇に柔らかいものが当たり、キスされたと脳が理解する前にそれが離される。

「その…チョコ、ありがとな。」
照れ隠しなのか手の甲で自らの口元を軽く拭いつつ、視線を遠くに向けてそう呟かれた。

「別に良いよ。今日はバレンタインだしね。」
静雄があまりにも可愛すぎて、にやけてくる口元を必死に抑えながら淡々と返す。
しかし良く考えてみれば、男の自分が同じ男である…いや、性的関係で言えば静雄は女役だけど…それはどうでもいいとして、とにかく男が男にチョコを渡すなんて変な話だ。
それ以前に、男同士で付き合っている事自体が変な話なのだが。

「そっか。じゃあ、お返しは楽しみにしとけよ?」

という訳で、この話の続きは3月14日に!









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