愛など無い筈なのに




静雄がどんなに願っても、夜は何食わぬ顔で訪れる。
すっかり暗くなった空を眺めて溜息を吐き、仕事終わりの疲れた体を引きずって新宿にある臨也の自宅に向かった。

「遅かったね。逃げたのかと思ったよ。」
事前に渡されていたカードキーを使って部屋に入ると、臨也はデスクの前でパソコンを弄っていたらしくこちらを見向きもしないまま皮肉を言った。

「…仕事、忙しかったんだよ。」
そうは言ったが、別に件数が多かったわけではない。
静雄の事を気遣ってくれたトムが、午後の回収の時間を大幅に遅らせたのだ。

「あ、そう。せっかく田中トムを消せる理由ができたと思ったのになあ。」
くつくつと小さく喉奥で笑いながら静雄を見つめる臨也が、デスクを離れ近付いてきて腕を強く掴む。
反射的にその手を振り払いそうになったが、抵抗すれば何をされるか解りきっている。
されるがまま、と言うのは些か気に食わない部分もあるが仕方ない。
今は自分のプライドよりも、もっと大事なものを守らなければいけないのだ。

「んー、床とソファとベッド、どこが良い?」
ニヤニヤと口元に嫌な笑みを浮かべ、楽しそうに問う臨也から顔を背けた。

「別にどこでも…っ。」
不機嫌さを滲ませた答えを最後まで口にする前に、近くにあった黒い皮張りのソファに投げ出されて衝撃に息を詰まらせる。
仰向けに転がされ、更にその上から臨也が先程までの笑顔を消して太股の辺りに跨がってきた。

「何それ。人がせっかく選ばせてやってんのに、面白くないな。」
ベストのボタンが一つずつ丁寧に外されていく。
次いで蝶ネクタイまで外され、シャツも肌蹴られた。
冷たい指先が胸元を這い、体がぶるりと震える。

「ねぇ、シズちゃん。」
熱っぽい吐息を零して、臨也が静雄の手を取る。
そして自らの股間に静雄の手を宛がわせて口端をニヤリと歪めた。
臨也の下肢はズボンの上からでも視認できる程に勃起していて、触れている掌に熱と硬度を伝えてくる。

「俺のココさ、シズちゃんのせいでこんなになっちゃった。」
責任取ってよね、と耳元で低く囁けば静雄の顔が羞恥に赤く染まる。
微かに潤んだ瞳がこちらを睨みつけてきたので、目を細め舌舐めずりしてみせると眉間の皺が深まり視線が逸らされた。

「ほら、ちゃんと触って。」
ぐいぐいと腰を押し付けてくる臨也から体が勝手に逃げようとするが、身動きできずに無駄な抵抗に終わる。
そうしている間に臨也は片手で自分のベルトを器用に緩めていて、下着の中に直接手を突っ込まされていた。

「…っ、はぁ。」
静雄の手が性器に触れた瞬間、目を軽く伏せて艶を帯びた息を漏らし臨也が小さく震える。
狭い布の中、静雄の手の上から自分の手を重ねて裏筋を擦る。
動かしているのは自分なのに、擦る手が静雄のものだと思うだけでイってしまいそうだ。

「…は、やば…くっ。」
ドクドクと脈打つペニスが限界を訴える。
竿を数回扱いて、静雄の掌で先端を包み込み吐精してやった。
掌に広がる熱い体液の感触に、静雄は涙を滲ませて唇を噛み締めている。

「あっは!シズちゃん、手に出しちゃってごめんね?」
悪びれた様子など欠片も見せずに、いつもの嫌な笑みを浮かべて臨也が楽しそうに言う。
手は既に下着の中から解放されているが、拳を軽く握った状態から動かせずにいた。

「ティッシュ、寄越せ…。」
この気持ち悪いものを早く拭い去ってしまいたくて、拭くものを要求するが臨也は動こうとしない。

「舐めて。やらないと…わかるよねぇ。」
臨也の口元が一層歪められ、汚れた手が掴まれて静雄の目の前に差し出される。
青臭い匂いが鼻をつき、静雄は顔を背けてしまう。
だが、やらなければ…静雄は決心して自らの掌に付着した臨也の精液を舌先で舐める。
独特の味が口の中に広がり、静雄は思い切り顔を歪めながらも綺麗に舐め尽くした。
その様子をしっかりと見ていた臨也が、満足げに笑みを深めて静雄の熱くて赤い頬に手をやり優しく撫でてやった。

「よくできました。美味しかった?」

「まずいに決まってるだろ。」
嬉しそうな表情でこちらを見つめてくる瞳から逃れるように視線を泳がせる。

そんな顔をしてほしくなかった。
人を卑怯な手で脅して、屈辱的な行為を強いてる癖に…ずるい野郎だ。




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