始まりの日




きっと、初めて出会った時から貴方が好きだったのだ。
でもずっと気付かない振りをしていた。
当たり前だ。俺は男で、化物なのだから。

そんな化け物に、貴方は優しくしてくれる。
傍に置いてくれる。

この想いが叶わなくてもいい。
ただ、いつまでも貴方の隣にいさせてください。


今日もトムさんと一緒に、テレクラの代金を踏み倒した馬鹿の元に取り立てに行く。
回収先の住所録なんかはトムさんが持ち歩いてるから、俺は必然的にトムさんの後ろをついていくだけになる。

あぁ、なんて幸せな時間だろうか。

トムさんは背中から見ても格好良い。
そんな事を思いながら歩いていると、俺の大嫌いな匂いがどこからともなく漂ってきた。

「シーズちゃん。」
待ち伏せでもしていたのか、電柱の影から顔を出し手を振っている奴の名は折原臨也だ。
新宿を根城にしている情報屋…が何故ここにいるんだ。

自分の蟀谷に青筋が浮かぶのがわかる。
駄目だ、込み上げてくる怒りを抑えられそうにない。
ぐっと握り締めた拳がブルブル震え始め、視界の端でトムさんが巻き込まれない位置に動いたのが見えて安心する。

「いーざーやーくーん、何でテメェがここにいるんだぁ?」
指の関節を鳴らしながら、嫌な笑みを浮かべる臨也に近付く。
逃げる素振りすら見せない臨也はポケットから素早くナイフを取り出し構えた。

「何だか急にシズちゃんを斬り付けたくなってね。」
ナイフの切っ先をこちらに向けて笑う臨也の姿に、俺の中で何かが切れた。

「テメェ、覚悟しやがれっ!」

車道と歩道を区切るためにあるガードレールを掴み地面から引き剥がして頭上に持ち上げ、臨也に向かって思い切り投げ付けた。

「っ!…危ないな、まったく。」
ほんの一瞬だけ目を見開いて驚いた臨也だったが、すぐに体を横にずらしてガードレールを避ける。


「おーい、静雄。そろそろ時間だべ。」
怒りに任せ標識を持ち上げた時だった。
声のした方を向くとトムさんが腕時計を指差している。

そういえば仕事の途中だったと思い出し、持っていた標識をその辺りに投げ捨ててトムさんの元に駆け寄る

「すんません、さっさと行きましょうか。」
何事もなかったかのように歩き出した静雄とトムの姿に、臨也は内心で舌打ちする。

またあの男だ。
面白くない。

「田中トム、か…。」



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