醒めないで





戻ってきたトムの手には、ビールとカシスオレンジの缶チューハイが握られていた。
差し出された缶を礼を言いながら受け取り、トムが座ってからプルタブを開ける。

「んっ……。うまいっす。」
自分が思っていた以上に喉が乾いていたらしく、ごくごくと一息に酒を呷る。
静雄はあまりアルコールに強くないからか、それだけで既に少し酔い始めていた。
徐々に思考がぼんやりとしだして、こちらを見つめてくるトムににっこりと笑いかける。

「そうか、うまいか。もっと飲んでいいぞ?」
新しく開けたビールを、トムも静雄と同じようにごくごくと飲む。
静雄もそれに釣られるようにして、ちびちびとではあるが酒を飲み進めていった。

「はは、もう顔赤くなってるぞ?」
トムの冷たい指先が頬に触れる。否、冷たく感じるのは自分の顔が熱いからだ。
その冷たさは火照った頬に心地好くて、静雄は目を細めて擦りよった。

「トムさんの手、気持ちいいっすね…。」
普段の素の状態ではこんな風にトムに触れることなんてできないが、今は酒の影響もあって静雄は柔らかな笑みを浮かべてトムの手を掴む。

やっぱり俺は、この人が好きだ。

酔ってふわふわした思考の中で、静雄は改めて思った。

せめて今だけは、誰にも邪魔をされずに貴方の事だけを考えさせてください。

そう願いながら、静雄は缶に残った最後の一口を飲み干した。





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