なぜ?




トムとの通話を終えてすぐ、静雄は乱れた髪と衣服を整えて何を考えてるか解らないような笑みを張り付けた臨也を見る。

「いってらっしゃい、シズちゃん。」
咎めるような視線を気にもせずに、臨也は喉奥で小さな笑い声を漏らしながら静雄を送り出した。

「くそ…臨也のヤツ、何を考えてやがるんだ?」
池袋へと向かう電車の中で、静雄は小さく独りごちた。
何故、トムからの誘いを断らせなかったのか…意味がわからなかった。
うまく考えが纏まらない内に、電車は池袋駅へ到着する。
トムの家はここから歩いてすぐだ。
静雄は考えるのを止めて改札口を出る。
乗り気ではなかったとしても、行くと約束してしまったのだからトムを待たせる訳にはいかないと思った。


コンコン…と控えめにドアをノックすれば、小さく返事が聞こえてすぐに扉が開く。

「やっと来たな、静雄。」
ほんのりと頬を赤くしたトムを見て、静雄は自然と口元を緩ませた。
トムに促されて部屋へと上がると、テーブルにはビールの空き缶が数本転がっていた。
やはりトムは少し酔っているのだろう。いつもとはどこか雰囲気が違うトムを見て、静雄はそう思った。

「お前の為にチューハイも買ってあるんだ。持ってくるから座ってろ。」
そう言って台所へと向かうトムの後ろ姿を暫し見つめて、トムが座っていたと思われる所の隣に腰を落ち着ける。





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