あなたがすき




「静雄。次の仕事まで時間あっけど、どうする?」
いつものように午前中の仕事を終わらせ事務所に戻る途中、トムは後ろを付いて回る静雄を振り返り聞く。

「えっ?あ、はい…っ。」
トムの背中を眺めながら歩いていた静雄は、急にこちらを向いたトムに驚いてよく解らない答えを返してしまい頭を掻く。
そんな静雄の様子を見て、トムは思わず吹き出した。

「わ、笑わないでくださいよ…。」
彼が笑う。それだけで幸せな気分になれる。
少しだけ顔を赤くした静雄は、照れ臭くてトムと目を合わせられずにいた。

「で、どうするべ。」
笑いを含んだ声で再度トムに問われて、静雄は改めて考えるが何も浮かばない。
強いて言えば、歩き回って疲れた足を休めたい…それくらいだ。

「足、疲れました。」
そう伝えるとトムは顎に手を当てて暫し考えた後、腕時計を確認して一人頷く。

「とりあえずコンビニで何か買って、俺ん家に行くか。」
「うっす。…って、ええっ?」
事務所より近いから、と付け足しながら、トムは静雄の驚きの声を気にもせずさっさと歩き出してしまう。
静雄は一息遅れて、その背中を追い掛けた。

近くのコンビニで、昼飯になりそうな物と飲み物を買って裏路地に入る。

トムの家は本当にすぐ近くだった。

「おおおお邪魔します!」
初めて入る、大好きな人の家。
心拍数が半端なく上がる。
うるさい、静まれ俺の心臓!

高鳴る鼓動に呼応するかのように、体温まで上がってきたようだ。

「…静雄?」
はっとして意識を戻すと、目の前にはトムの顔があって…。

そこで俺は気を失った、らしい。

気付いた時にはベッドに寝かされていて、横を向けば心配そうなトムと目が合う。

「おいおい、そんなに疲れてたんなら早く言えっての。」
溜め息と苦笑を交えながら、静雄の頭を撫でてやると面白い程に顔や耳までもが赤くなっている。

「すんません、疲れてた訳じゃないんすけど…。」
ゆっくりと体を起こしトムと同じようにベッドに座って、危うく恥ずかしいことを言いそうになって口ごもる。

「ん?どういう事だ?」

さすがトムさん、こういう事にはしっかり食いついてくる!

なんて心の中で思いながらも、このままではあんな恥ずかしい理由を言わなければいけなくなる。
それだけは避けたいのに、きっとトムはそれを許してはくれないだろう。

「なぁ、静雄。トムさんに言ってみ?」
満面の笑みを浮かべたトムが、未だに赤いままの静雄の顔を覗き込んでくる。

あぁ、逃げられない…。

この後、トムと静雄は夜もすっかり更けてしまうまで部屋から出てくることはなかったのでした!







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