恋、始めました。




夏休みが終わった。
またあの日々が始まる…そう考えるだけで憂鬱だったが、静雄は1ヶ月程前と何ら変わることなく制服に着替えて学校に向かう。

「静雄、おはよう。」
後ろから声を掛けてきたのは新羅だ。
隣に並ぶ新羅に挨拶を返して、学校までの短い通学路を新羅の惚気のような話を聞き流しながら歩く。

夏休みに入る前と、何も変わらない日常だ。

だが、一つだけ変化した事がある。

校門に入って少し顔を上げれば、屋上にはあいつがいた。

「あ、臨也だ。…まだ学ラン着てるよ、まったく暑苦しい奴だね。」
そう言いながら新羅は静雄を見る。
隣の彼はきっと機嫌を急降下させ般若のような形相になっている、と思っていた新羅はあまりの驚きに固まってしまった。

何故なら、不機嫌そうな静雄の顔が真っ赤になっていたからだ。

何も言葉を発さずにスタスタと昇降口に入っていった静雄の後を慌てて追い掛けながら新羅は思った。

(やっと進展したんだね…おめでとう、臨也。)

上靴に履き替えた静雄が教室ではなく屋上へと真っ直ぐに向かう姿を見て、教室へ行く新羅は口元が緩むのを止められずにいた。

微かな足音を聞いて、臨也は扉の方を見る。
少し間を置いてから開いた扉の向こうには、夏休みの間に自分の恋人となった静雄がいた。

「シズちゃん、おはよう。」
ひらりと手を振れば照れ隠しなのか不機嫌そうな顔を更に歪めて静雄は近付いてくる。

距離を置いて立ち止まった静雄の腕を掴んでぐっと引き寄せる。

「が、学校ではやめろ…っ。」
キスしようと近付けた唇はあっさりと大きな手に阻まれてしまった。
臨也の眉間に皺が寄る。見た目よりも細い体を強く抱き締めながら、臨也は小さく溜め息を吐いてみせた。

まだ暑さの残る9月1日。
彼らの恋も、始まったばかり――。







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