ある暑い夏の日





「暑い…。」
そうぼやいた彼は、ワイシャツのボタンを全て外してあまり太陽の光を浴びない白い肌を晒していた。

放課後を迎えた教室には二人きり。

普段は殺し合いのような喧嘩ばかりしている臨也と静雄は、珍しいことにまだ強い陽射しが差し込む窓際の席で他愛ない話をしていた。

二人はつい一ヶ月程前に恋人同士となっていた。
この事は多分、まだ本人たちしか知らない。
交際を始めても喧嘩は続けていたし、何より二人は男同士だ。
隠している訳ではなかったが、あえて公言するつもりもなかった。

今こうやって二人でいるのは、校内に人がほとんどいないから。
平日は大半が人目につく学校にいるから、なかなか二人きりになれないのだ。
だから週の真ん中になると互いが恋しくなって、こうやって密かな逢瀬に励んでいる。

運動場で部活に励む生徒たちを観察していた臨也の視線は今、無防備な姿を見せている静雄の体に釘付けになっている。
化け物のような力を持っているにしては細い、けれどしなやかな筋肉に覆われた美しい体。
臨也は無意識の内にゴクリと唾を飲み込んだ。

「ねぇ、シズちゃん…それ誘ってるの?」

「…臨也?」
ガタッと大きな音を立てて椅子から立ち上がった臨也が、静雄の目の前に立ちシャツの袷を掴む。
当の静雄はいきなりの行動に心底驚いたのか、口をぽかんと開けたまま臨也を見ていた。

「こんな所でこんな格好してさ、そんなに俺に襲われたいのかなっ。」
怒ったように言いながら、臨也が器用にシャツのボタンを一つずつ閉めていく。
その顔は赤くなっていてどこか切羽詰まっていたから、静雄もつられて顔が真っ赤になっていく。

「ば、ばか臨也…!」
暑いと言うのにきっちりと第一ボタンまで閉められて、帰るからと手を繋がれて、半ば引き摺られるようにしながら教室を後にする。
恥ずかしさと嬉しさが複雑に混じりあって口をついて出た言葉は、臨也を苦笑させる事しかできなかった。








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