囚われの身




弟の幽から連絡がきたのは、随分と久し振りの事のように思う。
最近まで映画の撮影や宣伝やらで忙しそうにしていたのは、テレビで知っていた。

だからこそ静雄は、「会いたい」とだけ記されたメールを読んですぐに家を飛び出した。


「いらっしゃい、兄さん。」
幽が所有する高級マンションの一室で、二人は久々の再会に喜びを隠せずにいた。
ソファに座る静雄の前に淹れ立てのカフェオレを置いて、幽は僅かに口元を緩ませて隣に腰を下ろした。

「おう。……忙しかったみたいだな。」
元から幽は細かったが、更に少しだけ痩せたような気がして、静雄は眉根を寄せる。

「まぁ、ね。そんな顔しないでよ、俺は大丈夫だから。」
確かに少し体重は落ちたが、心配する程ではないと笑ってみせる。その笑みに嘘がないとわかった静雄の表情が緩み、ミルクと砂糖がたっぷりと入った温かいカフェオレに口をつける。

「それよりも、俺は兄さんの方が心配だな。」
いくら仕事が忙しくても、色々な意味で有名な兄の噂は簡単に耳に入ってくる。
自販機を投げていた、標識を振り回していた…これは日常茶飯事なのであまり気にならないのだが。

「兄さんが丈夫なのは知ってるけど…。」
静かに話を聞いていた静雄が、いきなり幽に脇腹を撫でられてビクリと体を震わせ驚いた顔で幽を見つめる。

「撃たれたんでしょ、ここ。」
端から見れば無表情にしか見えないが、静雄には幽の怒りが痛い程に伝わってきた。
脇腹にあった手はゆっくりと降下して、今度は太股に触れる。

「か、幽?やめろ…っ。」
普段の幽からは考えられない行動に、静雄は動揺を隠せず名を呼ぶ。
だが幽は気にする事もなく、静雄の太股をスラックスの上から優しく撫でた。
どうにか止めさせようと幽の手を掴むが、いつもの力を出すわけにはいかず抵抗は弱々しいものにしかならない。
そんな静雄の優しさにつけこむようにして、幽の行動は更に大胆になっていく。
太股を撫でながら静雄の肩をソファの背凭れに押し付け、互いの息遣いが感じられる程に顔を近付ける。

「う…かす、か…。」
この状況から逃げ出すべきなのに、何故か動けなかった。
体が徐々に重くなり、瞼が勝手に閉じていく。

「ごめんね、兄さん。」
意識が薄れていく間、どこか辛そうな声色で呟く幽の悲しそうな顔が脳裏に焼き付いた。

カフェオレに溶かしておいた睡眠薬のお陰で静雄はすっかり眠ってしまった。
今のうちに、とこの日の為に用意していた部屋へ兄の重い体を引きずるようにして運ぶ。

ワンルームと呼ぶには少し広すぎるこの部屋には、ベッドと少しの家具。
この空間だけで生活できるように最低限なものは準備しておいた。
兄を監禁する為に。







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