誓いの口づけ





あれは確か、中学を卒業する二日ほど前だっただろうか。
いつものように屋上で他愛もない話をして、それから帰ろうとした時だった。

「静雄。」
ドアのノブに手をかけたまま、トムが静雄を呼ぶ。
目が合って、腕を掴まれ引き寄せられて、そのまま温かな腕の中に抱き締められて。
驚いてトムの顔を見れば、ゆっくりと唇を重ねられた。
ただ触れるだけのキス。
トムにとっても静雄にとっても、それだけで胸が爆発しそうだった。

「俺はいなくなっちまうけど、頑張れよ。」
少しだけ頬を赤く染めたトムが、視線を空に向けながら言った。
トムに言われて染めた金髪を、トムの指が優しく梳いていく。

「はい、俺、頑張ります。」
鼻の奥がツンと痛くて、震える声をどうにか搾り出して答えると、トムは笑ってくれた。

この時に交わした約束を胸に、静雄は頑張ってきた。

最悪だった高校時代だって乗り越えられた。




「トムさんには本当に感謝してます。」
大の男二人が寝るには少し狭いベッドの上で、肌を重ね合わせた後の心地好い疲労感に包まれながら、隣で煙草を吸うトムを見つめて静雄は唐突にそう零す。

「何だよいきなり、照れ臭いだろ。」
口元を緩めたトムが、静雄の汗ばんだ髪を撫でる。
中学時代と変わらない、傷んだ金髪だ。

「トムさんがいなかったら、俺はきっと人の道を踏み外してました。」
頭を撫でる手の気持ち良さに目を伏せ、あの日を思い出す。
十年以上経った今でも、鮮明に残る記憶。

「だから…俺、トムさんを幸せにします。」
そう告げてすぐ、一気に恥ずかしさに襲われた静雄は掛けていたタオルケットを引っ張り上げて真っ赤になった顔を隠した。

一方、トムも衝撃的な言葉に口を開けたまま暫し動きを止める。
だがすぐに正気を取り戻し、タオルケットを剥がして静雄の上に覆い被さる。

「お前なぁ、それは俺の台詞だっつーの。」
額や目元、頬や唇に軽く口づけて静雄を見つめる。

「俺はもう充分幸せだからよ、今度は俺が静雄を幸せにする。」
わかったか?と問えば、今にも涙が零れそうな瞳を瞑って静雄が頷く。

愛してると互いに呟いて、あの日と同じように触れるだけのキスをした。









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