青春しようか。







この高校に入学してから、途絶えることを知らない争いの日々に静雄は疲れきっていた。

今日も例に漏れず、校門の近くには彼を待つ不良達の姿が見受けられる。
正面からそれを見渡しながら、静雄は奥歯を噛み締め怒りを抑えようとしていた。

そもそも、どうして彼が毎日のように不良に絡まれているのか…元凶は折原臨也という人物にあった。
入学式の時に知り合った時から、二人は互いを嫌悪していた。
だからこそ静雄は余計な暴力を奮わないようにと、折原臨也には関わらないようにしているのだ。
それなのに、事あるごとに臨也は静雄にちょっかいをかけてくるから質が悪い。

「あーくそ、むかつくっ。」
募る苛立ちを言葉に変えて吐き捨てる。
だが、不良達が待ち受けている状況は変わる訳でもなく静雄は溜め息をついた。

「おー、今日もいっぱい来てるじゃねぇか。」
背後から急に掛けられた声にびくりと肩を跳ねさせ、静雄は声の主を振り返る。

「………か、かど、た?」
そこにいたのは、確か同じクラスの門田京介という男。
我ながらよく名前を思い出したものだ、と失礼な事を内心で思いながらぎこちなく名を呼ぶ。
よっ、と軽く手を挙げて門田は静雄の横に並び不良達を見る。

平和島静雄という男の事は、折原臨也からよく聞いていた。

暴力が服を着て歩いているような化け物のくせに、暴力を嫌っている変な奴。
だから、毎日のように不良達をけしかけて争わせている。

折原は笑いながらそう言っていた。
自分には関係ないとその時は話を聞き流していたが、実際に目にすると少し放っておけないような気がしてつい声を掛けてしまったのだ。

「お前はよく絡まれるな。」
ちらりと視線を横に向けると、静雄は顔をしかめて前を見ていた。

「好きで絡まれてるんじゃねーよ。」
周りを徐々に囲まれ始め、静雄は舌打ちする。
今日もまた、この忌まわしい力を使わなければいけないらしい。
そう覚悟して構えた時だった。

「逃げるぞ。」
左手が何か温かいものに包まれたかと思うと、門田は不良達の隙間を縫うようにして走り出す。
静雄も当然、門田につられて走り出した。

複雑に入り組む裏路地を走り回り、追っ手が来てない事を確認して壁にもたれかかる。

「は、はぁ…っ。大丈夫か?」
乱れた呼吸を整えながら、隣で同じように息を荒げる静雄に問い掛けた。

「あぁ、平気だ…。」
額に浮かぶ汗を右手で拭い、深く息を吸い込んで吐き出す。
漸くお互い落ち着いたところで、二人はふと気付いた。

「「…っ!」」
繋がれた右手と左手を見て、それからお互いを見て、二人は一気に顔を赤くして反対方向を向く。
気まずくなったのか、静雄が手を握る力を弱めて門田から離れようとした。

「か、門田?」
離そうとした左手は、未だ門田に握り締められたまま。
しかも先程よりも手の力は強くなっている。
静雄の困ったような呼びかけに対して、門田は赤くなった顔を俯かせた。

「悪い…後もう少しだけ…。」
門田という男にしては珍しい、小さな声で返されて、静雄も赤みを帯びた頬を隠すように俯いた。


二人の間に芽生えた感情に、互いが気付くのはまだ先になりそうだ。











気に入って頂けましたら、ぽちっとお願いします(*・ω・)人

TOP