なかよし





仕事のロケ中に、兄さんと会った。

もうバーテンダーはクビになったと言っていたのに、いつも俺が贈ったバーテン服を着てくれている。
(兄さん曰く、これを着てると頑張れるそうだ。)

どこまでも弟思いな兄さんのことが好きで好きでたまらない。
勿論、恋愛対象として。

ずっと傍で見てきたから、兄さんが何を求めているのかもすぐに理解できる。

兄さんは、誰かに愛されたいのだ。

だから、俺が愛してあげる。
他の人には渡さない。
…特に、折原臨也には。

自分の撮影を終わらせ休憩に入ったとき、道の端でこちらを見てくれていた静雄に近付いていく。


「幽、頑張ってるな。」
ふわりと頭に乗せられる手が温かくて、普段はあまり変化しない表情が勝手に緩んでいくように感じる。
人前で恥ずかしい等と微塵も思わない幽は、嬉しさのあまりに静雄の頬へ軽く口づけてみせる。

「うおっ!か、幽…?」
ほんのり顔を赤くして周りを見渡している静雄を見て、幽は首を小さく傾げる。
何も気にする事はないのに。

「大丈夫、誰も見てないから。」
幽の言う通り、都会を行き交う人々は皆忙しなく歩いていてこちらなど気にしていなかった。

「兄さん、キスしよ?」
まるで、恋人同士のように幽は言う。
呆気に取られている内に幽の手が頬に添えられ、整った顔が近付いてきても静雄は顔を逸らしたりできなかった。

ちゅ、と軽く唇を触れ合わせるだけの可愛いキス。

幽の満足げな様子に、静雄も恥ずかしさを忘れて笑う。

「じゃあ、もう行くね。」
遠くの方からスタッフの呼ぶ声が聞こえて、幽が少しだけ悲しそうな顔をして静雄から離れる。

「あぁ、またな。」
手を振って見送ると、幽は現場へと戻っていった。

「お前ら、仲良いんだなー。」

「とととトムさんっ、いつから見てたんですか?」
そういえば自分も仕事中で、休憩していたんだったといつの間にか隣にいたトムによって気付かされる。

話した時間はわずかだったが、互いの心は確かに幸せを感じていて。

「トムさん。俺、この仕事頑張ります。」
照れ臭そうに笑いながら、静雄はそう誓った。



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