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▼ たんと召し上がれ

「な、なんやなんや? もうみんな帰る時間やろ」

ホステスたちに「いいからいいから」と背中を押され、真島さんがホールにやってきた。私たちバンドメンバーはステージにスタンバイしていて、その姿を見た真島さんは目を丸くして驚いている。

「支配人! お誕生日、おめでとうございま〜すっ!」

パンッ、とあちこちで鳴るクラッカーの音。それを合図に演奏が始まり、ボーイもホステスもみんなで ”Happy Birthday To You" を大合唱する。
今日は真島さんの誕生日。内緒でGRANDが閉店した後にお祝いしようとみんなで計画していた。
歌が終わり、店長がバースデーケーキを持ってきてロウソクに火を点ける。照れくさそうに後頭部をかきながら、真島さんはその火をふぅっと消した。

「みんな疲れとるのに気ぃ遣わせてすまんな。おおきに。一人でこないな大きいケーキ食われへんからみんなで分けてくれや。食ったら早めに解散するんやで」

はぁい、と返事したホステスたちがすぐさまケーキに飛びつく。私が入り込める隙間は無いなと思っていたら真島さんが私の許へやってきた。

「なまえちゃん、ちょっとええか?」
「はい」

私は真島さんの背中を追うように事務室へ。……なんだか機嫌が悪そうだ。
中に入ってドアを閉めると「座り」とパイプ椅子を乱暴に私の前に置く。言われたとおり恐る恐る座ると、向かい合うように真島さんもパイプ椅子に座り、足と腕を組んで私をジッと見る。

「俺の誕生日バラしたのなまえちゃんやろ」
「え? だ、駄目でしたか?」
「はぁ〜。ダメに決まっとるやろ」

少し前に誘ってもらった食事の席で、ふとした話題から真島さんの誕生日を聞いた。これはお祝いしないわけにはいかない。どうせならみんなで祝ってあげようと思ってさっきのサプライズになったわけだが、あまりお気に召さなかったようで……。

「すいません。こういうのお嫌いでしたか?」
「そんなんちゃう」
「じゃあ」

ガタンッと音を立てて立ち上がった真島さんが私の背後に。そしてそのまま覆い被さるように私の背中を抱き締める。

「なまえちゃんやから教えたんやで。俺の誕生日」
「……っ」

ちょっと拗ねたような、甘えた声。左耳や頬に吐息やら熱やら、真島さんのいろいろなものを感じて身体が硬直した。

「サプライズなんていらんねん。なまえちゃんに祝って欲しかったんやで、俺」

真島さんの右手が伸びてきて、ギュッとスカートを握った私の右手をすっぽり包む。その手は少し汗ばんでいて、ドキドキと指から鼓動を感じる。

「この後、予定ないやろ?」
「……はい」
「ほんならもういっぺんハッピーバースデー歌って欲しいんやけど」
「そ、それだけでいいんですか?」
「他にもくれるんか?」
「あ、えっと、それは」

驚いて首を横に捻れば、鼻先がくっつきそうなくらいの距離に真島さんがいる。

「アホ。俺が歌だけで満足するわけないやろ」
「真島……さんっ」
「甘いもんはケーキやなくて……、なまえちゃんがええねん」

みんなが真島さんのバースデーケーキを貪っている中、真島さんは事務室で私の唇をさも美味しそうに──。


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