twitter | ナノ


▼ loser

夜はこれから、の言葉に胸が高鳴る。ようやく私は吾朗ちゃんに抱かれるのかと思っていた。
身体を寄せるとそうするのが当たり前のように肩に手を回してくるし、頬にキスをした時なんか鼻の下を伸ばして喜んでいた。それなのにアフターでいい雰囲気になっても身体を求められることは無く、酔ったフリをしても「気をつけて帰るんやで」とタクシーに乗せられた。
やっと今日、私は吾朗ちゃんとひとつになれると確信していたのに。

「おぉ、なまえちゃーん!」

突然現れた女。自然に身体を離したというより、力尽くで引き剥がされたという言い方のほうが正しい。私の身体は吾朗ちゃんから離れ、その勢いに足元がふらついた。
一瞬地面に向いた目線を吾朗ちゃんに戻せば、私には見せたことのない柔らかな表情と優しい視線で女を見ていた。
あぁ、この女は吾朗ちゃんが少し酔って上機嫌になると話に出てくる例の女だと勘でわかった。

「ちょっと吾朗ちゃんっ、……誰この人? 早く行こ」

吾朗ちゃんに駆け寄り、たくましい腕に自分の腕も胸も密着させる。ギュッと力を入れて私から離れて行かないように。女に鋭い視線を送ると立ち去る素振りを見せたのでホッとした。

誰があんたみたいな色気の無い女に吾朗ちゃんをやるもんですか。

気を取り直して「次どこに行く?」と吾朗ちゃんに顔を向けるのと同時に、目を合わせることも無く、ボソリと女に聞こえないくらいの小さな低い声が聞こえてきた。

「放せや」
「……え?」

これも初めてだった。血の気が引くような冷たく恐ろしい吾朗ちゃんの声。それは聞き間違いではなく、私に向けられた言葉。すでに次の言葉を発している吾朗ちゃんの声はいつもの声色で、驚いて力が抜けた私の手からたくましい腕が蛇のようにするりと逃げ、その腕は女の腰へとしっかり巻き付く。

「行こか」
「で、でもっ」
「行くで」

振り向くこともせず「帰るわ」と吾朗ちゃんは女の腰を抱いたまま背を向けて歩いて行く。
そうすることが当たり前のように。
一緒に帰るのが当たり前のように。

「すんません。あの子、親父のお気に入りなんすわぁ」

南という男はこうなったのは仕方がない、とでも言いたそうな表情をした。ギリギリと握り拳に力が入り、ネイルが肉に刺さっていく。

「お気に入りって……、お気に入りって何よ! 今日は私と過ごすんじゃないの?! 吾朗ちゃん!」
「お、落ち着いてくださいっ。危ないですって!」

なんであの女なの?
どうして私じゃないの?

振り回したショルダーバッグから中身が飛び出し、香水瓶は割れ、口紅は折れた。
どちらも吾朗ちゃんが似合うと言ってくれた物だった。


◆拍手する◆


[ ←back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -