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▼ Can't wait !

会社で処理しきれなかった仕事を家に持ち帰ってしまった。
彼に嫌な顔をされたが、ごめんと謝ってパソコンに向かいキーボードを打ち込む。
少しでも早く終らせる為にろくに休憩も取らず、長時間A4用紙という名の白い画面を見続けていれば、いつの間にか視界はぼやけて目の奥がズキズキと痛み出してきた。
もう、目が限界。テレビのCMのように目頭を押さえてみたり目の周りをマッサージしたりしてみるが、これといって効果は感じられない。

「家におる時くらい仕事のこと忘れたらどや?」
「ごめんね。これだけどうしてもやらなきゃいけなくて……」
「そりゃ、ご苦労さんなこっちゃ」

それは拗ねた時に出す意地悪な声。
作業が終わるのをソファに寝転がって待っていてくれた真島さんだったが、痺れを切らせたのか溜め息をついて起き上がり、私の視界の入らないところへ行ってしまった。

私だって好きで仕事を家に持ち込んだわけじゃないのに。
私だってやりたくてやってるんじゃないのに。

重たい頭を左右に振って再びパソコンに向かうが、キーを打ち込む私の顔はきっと不細工なしかめっ面だ。無意識に指に力が入ってカタカタとキーボードが大きな音を立てる。
イライラしながら仕事して、そんな自分が嫌でさらにイライラして。画面に映る文字やアイコンが徐々に滲んでくる。

「頑張り過ぎんなや」

ふらりと私の許に戻ってきた真島さんの手には私が愛用しているマグカップ。
てっきり仕事が終わらないことに怒って席を立ってしまったのだと思っていたが、私を気遣ってコーヒーを淹れてくれていた。
半ベソ状態でマグカップを受け取ると「泣くな」と頭を小突かれ、その反動でカップの中の液体が大きく揺れた。零れないように一口こくりと飲むと、コーヒー特有のコク深い香りが口の中に広がった。

「美味しい」
「せやろ? ゴロちゃんスペシャルドリップやで」
「何、そのドリップ」

からかうように笑ったが、猫舌の私が火傷しないくらいの程よい温度で、疲れた脳にじんわり染みる甘めのコーヒーはたしかにゴロちゃんスペシャルだった。
ゆっくり味と香りを堪能していると、横から感じる熱視線。

「ん? どうしたの?」
「メガネ、似合うんやな」
「そうかな? ブルーライトカットの安いメガネだよ」
「ふぅん」

目を細めてメガネのフレームをなぞる真島さんの指がゆっくりと私の唇に降りてきたので、慌てて手にしていたマグカップを机に置いた。

「な、何?」
「メガネのなまえ……めっちゃソソるわ! 今晩はそのメガネしてな」

そう言ったそばから私の頬やら首やらに吸い付いて離れない真島さんは、電源が入ったままのパソコンに手を伸ばすと、器用に "Ctrl+S" を押して途中になっていたデータを上書き保存した。

……もう、今晩まで待てないくせに。


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