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▼ 二人の帰り道

仕事帰り。
ゆっくり料理の材料を時間をかけて選ぶはずだったのに、スーパーに向かう道の途中で真島さんに見つかってしまった。
結果、一緒に食材を選んでいて、今晩は2人分の食事を作ることになった。
さて何を作ろうか。

「なぁなまえ、レモン買ってええ? 酎ハイに入れたい」
「いいですよ。あ、香りがいいやつでお願いします。あと皮にハリツヤがあって重いのがいいです」

レモンを嗅ぎまくっている真島さんに思わずクスッと笑うと「何笑うとるんや? 言われた通り真剣に選んどるんや」と軽く怒られた。
選び抜かれた2個のレモンが買い物かごの中に入って、私たちは耳に残るお店のBGMを聞きながら陳列棚に沿って歩く。
するとどこからか空腹中枢を刺激するいい匂いが鼻を擽った。
見れば先にある鮮魚コーナーで試食販売のスタッフさんが調理をしていた。

「ええ匂いやなぁ」
「ホントに。お腹空いてるとなおさらですね」

自然と歩が進み、私たちに気づいたスタッフさんが明るい声を出した。

「食べていきませんか?」

試食用の容器を差し出して食べていくよう促されると受け取らないわけにはいかない。
手を伸ばそうとした時、スタッフさんから思いがけない言葉をかけられた。

「奥さん、いかがですか?」
「っ?! あ、あぁ、いただきます」

やっぱりそういう風に見えるんだろうか……。
後ろでクツクツと声を堪えて笑っている真島さんの声が聞こえる。

「奥さん、やて」

わざと低い声で囁くように耳元でそう言った真島さんに、スタッフさんがさらに追い打ちをかけた。

「旦那さんもどうぞ」
「ヒヒヒッ! こりゃ美味そうや〜、なぁ奥さん」

嬉しそうに試食をする真島さん。
私はサーモンとスタッフさんに勧められたクリーム煮の素を買い物かごに入れた。

「ありがとうございました!」
「こちらこそおおきにやでぇ〜」

食べ終えた真島さんは上機嫌に私の腰に腕を回す。
いつもなら人目が気になるはずなのに悪い気がしないのは、私も心のどこかであのスタッフさんの言葉を喜んでしまっているからだろう。

「あ、入浴剤買うていこ!」
「買わなくてもまだあります」
「今日、二人で入る用や。特別なやつ」
「え?!」
「そんなら風呂上りに飲む酒とつまみも必要やな!」

次から次へと品物をかごに入れていく真島さん。
会計を終えてそれらをエコバッグに詰めてみれば、破けそうなくらいパンパンに膨らんでしまった。

「重たいやろ? 持つわ」
「じゃあ、一緒に」
「フッ。可愛えとこあるやん」

持ち手の片方を真島さんに持ってもらい、もう片方を私が。
仲良し夫婦みたいに見えるかな。

「サーモンのクリーム煮、美味しく作りますね」
「あのオバはんに負けないくらい美味いやつ頼むで」
「はい、絶対大丈夫!」
「せやな、なまえの料理は俺への愛が入っとるもんな」
「何ですかそれ」
「愛はスパイス言うやろ!」

真島さんと私。
他愛無い会話をしながら二人で一つの家に帰る幸せ。


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