mamёm | ナノ


▼ 03:違和感の正体

人というのはなぜ酔っているときに突飛な行動を取ってしまうのだろうか?
答えは分からない。
ひょっとすると酔いというのは自分自身の深層心理を映し出しているのかもしれない。

30代を前にして振られた女が取る行動。
それは現実を見る事だ。
そう、確実に自分の手に残る何かが欲しい。
私もそんな中の1人。

確実なモノ。
安全欲求が私には必要だった。
確実に安全で自分のモノになる。
そう、ここは我が城。

ローンの残高に胸が重くなるが、ここにいれば私の安全は保たれる。
そう、ここは私が初めて買った高額商品であるマンション。
生憎、仕事の方は順調で贅沢をしなければ返していける。
あとは犬か猫でもいれば悠々自適か。
そんな事を思いながら寂しさという気持ちはそっと心の奥にしまう。
そう、人は裏切ってもモノは裏切らない。

明日は休みかと思いながらも取り溜めしたドラマやバラエティーを見ながらロング缶を飲む。一本で確実に酔いはいい感じに回り、気づけば取り貯めしたものはなくなり、通常放送をパラパラと流し見。
深夜のTVはもうすでに通販番組やら、放送休止やらであまりおもしろいものもない。

そして流れるCM。
特有な軽快なCMソングと共に優しそうなおばちゃんがせっせと掃除している映像。
そして流れるゴロゴロゴロゴロゴロちゃんハウスキーパーという繰り返される社名。

なんだこれと思いながらもつい引き込まれて見入ってしまう。
そして今ならキャンペーン中!という赤い文字。
キャンペーン中かぁ…。自分の今の家の悲惨な状況を見ながらスマホを取り出して調べて入力していく。そして何だかやり切ったような気持ちになってそのまま意識が落ちる。

そう、人は酔っていると必要のない買い物をしてしまうことが時にある。

◆◇◆

今日も一日疲れたなぁと思いながらすでに日付が変わりそうな時間に1人コンビニでロング缶、おつまみを持って帰宅の途へ。

始めの頃はこんな自分を恥ずかしく思っていたが、慣れてしまうと何とも感じなくなる。
これが年を取るということなのか。
そう思いながらもコンビニの外にでると学生服姿の男女。

こんな遅くまで何やってんだ!と思いながらもその微笑ましい光景に自分の中にある黒い部分が溶けていくような気持ち。半分に分けられた肉まんを齧りながら片方ずつイヤホンをしながら音楽を楽しんでいる。純粋に可愛らしい。自分の中にもまだそんな感情があったことに驚きつつも1人寂しくビニール袋を持ちながら帰る。

本当は寂しいんじゃないの?
本当は誰かと恋したいんじゃないの?
このままずっと1人で生きていきたいの?

そんな脳内でのやり取りを吹っ切るように現実を。
早くお酒飲んで寝よう。
それに限る。

それでも今日はそんな毎日とは違っていた。

「何か用ですか?」

「あんたがみょうじなまえか?」

そうですけど…と答えてから後悔。
目の前の人物の奇抜な格好、そして胸元の刺青に普通の人と違う。関わってはいけない人なんじゃないか。脳裏に響く警告音。

「頼んだやろ、これ。」

そういって取り出したラジカセから聞こえてくるあのCMソング。そして踊りながら歌う男。

「あっ…!」

これが私と真島さんの出逢い。

◆◇◆

今日も綺麗!
テーブルには今日の清掃内容、そして食事の内容。
あれから1か月お試しキャンペーンで真島さんは私の家政婦として来てくれている。
あの時思わずチェンジでと言ったらものすごい威圧感を感じてそのまま契約書にサイン。そして私の散らかった部屋を見て掃除しがいがあるのぅと笑いながら去っていった。

…とはいえ私がいない間に家事全般は行われていて顔を合わせることがない。
案外いいかもしれないと今日も冷蔵庫に入っている作られたおかずをチンしながら食べる。
本当のあの人が作ったのだろうかと思いながらあっという間になくなるおかず。
そして綺麗な部屋を見ながら仕事はできる人なんだろうなぁと思う。
そんな風に日々は過ぎていく。

「はよ、起きんかい!」

「……もう…ちょっと…。」

なら、実力行使するで!と耳からの声がして反射的に身体を起こす。

「なんでいるんですか!」

「今日は来る日やで。」

そう言われてカレンダーを見ると確かにそう。
そして今日、私は有給を取っていた。

「朝ごはんできとるから食べるか?」

そういってダイニングに行くと目の前にはずらりと並ぶおかず。
そしてほかほかのご飯とお味噌汁。
真島さんは私がぼーっと座っている間にてきぱきと並べていく。
やっぱりできる人なんだと思いながらもお味噌汁を飲む。

「おいしい…。」

「せやろ!」

思わず出た言葉、そして嬉しそうに私の食べている目の前に座りながらおかずの説明をしている。

「真島さんは食べないんですか?」

「俺は仕事中や。」

「余ってもあれですから一緒にどうですか?」

さすがに1人では食べきれる量ではないおかずの数々。
それやったらと付けていたエプロンを外して私の目の前に。
なんだこれと思いながらも静かな朝食の時間。
食後にはきっちりと温かい緑茶まで出してくれる。
やはりできる男のようだ。

「今日は休みなんか?」

「そうです。」

「そしたら終わるまで外に出かけてくれててもええで。その間に終わらせる。」

出かける。
外を見ると快晴。
まさにお出かけ日和。
ショッピング出掛けるのも良し、美術館巡りをしても良し、映画館に行くのも良し。
そう、以前の私もそうだった。
気づけば友人の多くは家庭を持っていたり、独身の子も彼氏がいたりとそれぞれに予定がある。

「家にいてもいいですか?」

「ほんま、何も予定ないんやなぁ。」

それならええけど掃除するときはどいてもらうでと言って真島さんはエプロンを付けて作業を始めている。私はTVを見ながらも真島さんの作業している様子を盗み見る。
やっぱりできる人だなぁと思いながら気づけば瞼が重くなりうとうとしてきていた。

「終わったで!」

思ったほど近い顔に思わずうわっ!と声をあげるとゴロちゃん傷つくでと言いながらエプロンを外して帰る準備をしている。

「今日もありがとうございました。」

ぴかぴかになった床を見ながら今日も完璧だなぁと思う。そして帰ろうとしている真島さんを見て私もちょっとコンビニにでも何か買いに行こうかなと財布を手に。

「なんや、どっか出かけるんか?」

「コンビニですね。」

真島さんはコンビニしか行くところないんか?と言いながら私の横に並んで歩いている。
なんだこれと思いながらも当たり障りのない会話をする。

「今日はもう終わりなんですか?」

「せや。今からハッピーアワーやで。」

楽しそうに小躍りしている真島さんを見ながらなんかこの人悩みとかなさそうでいいなぁと羨ましく思う。

「なまえチャン、肉好きか?」

「好きですよ。」

コンビニまであと少しの所で真島さんはふいに話を変える。
そして私の顔をみてにやりと笑う。
うん、なんだろう、なんとなく嫌な予感。

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