mamёm | ナノ


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はぁ…と最近は溜息ばかり。
あれから私は真島さんと顏を合わせても素っ気ない。
まっすぐ見てしまうとあの時の事を思い出してしまうからだ。

そしてそれから1回もCandy Dragonに行っていない。
理由は一つ。
他の女の子に優しく接客している真島さんを見たくないからだ。

自分の中に潜む黒い感情。
そしてどうにもできない臆病な私。
ただ、逃げているだけ。それが今の私。
ただ、指を咥えて溜息をつくことしができないのが今の情けない現状だった。

そんな時だった。

「なまえさんの携帯ですか?」

「そうです…。」

電話の主はCandy Dragonのオーナーの堂島さんからだった。
今日の予約はどうされますか?と聞かれて私は予約していませんけどと答える。
そして堂島さんは少し黙ってからキャンセルはできないので今日は絶対に来てくださいと一言。困りますと言っている内にではと一方的に切られる。

行きたくない…。

そう思いながらもお店の前に立ちながら入るべきか悩む。
そしてドアが開き、秋山さんが顔を出している。

「なまえお嬢様、お帰りなさい。」

その微笑みを見て私は覚悟を決めた。

秋山さんがエスコートしてくれたのは個室。
私には値段が高くて入れなかった場所。

やっぱりすごい…。

そう思っている内に秋山さんはじゃあ、後はごゆっくりと告げて外に。
とりあえず座ろうと思っている内に目の前に現れる人。

「真島さん…。」

「なまえお嬢様、お帰りなさい。」

にっこりと微笑む真島さん。
その笑顔。
いつもと違うのにやっぱりこの人はこの店の1番だ。
私はそんな事をじんわりと感じていた。

私の目の前で綺麗にケーキを取り分けてくれる真島さん。
そう、ここでの真島さん。
普段の真島さんは黒い手袋、でもここでは白い手袋。

本当のあなたはどっち?
どうしてキスをしたの?

聞きたいのに聞けない私。
だって聞いたら最後。
私の唯一の居場所を失い、そして好きだった人とも会えなくなる。

「今日はいつもみたいに笑わへんのやなぁ。」

思わず出た真島さんのオフの言葉。
そう、ここでは絶対的にお嬢様への丁寧な言葉使いがルール。

黙ったままの私。
そして俺のせいやなと一言ぽつり。
そして告げられる。

「なまえチャンが最後のお嬢様やで。」

どういう事?
それって真島さんCandy Dragonを辞めるってこと?

「何で…。」

真島さんは私の座っていた横に腰かける。

「惚れた女ができたからや。」

耳許でそっと囁かれる低い声。
それでも私は真島さんがここを辞めるということが響く。
だって、私と同じように真島さんに憧れや恋を抱いている女の子達がたくさん。
例え恋愛できなかったとしても80分という時間だけ恋をできる。
そう、ここはそんな場所。

「どうして、そんな簡単に辞めちゃうんですか!」

気づけばそんな女の子達の切ない気持ち、自分の行き場のない感情がぐるぐると渦を巻いてそれは涙に変わり、零れ落ちて、言葉は少しだけ怒り気味に。

「なまえチャンに惚れてもうたからのぅ。」

嘘…。

そんな事を考えている内に私は抱き留められて零れる涙は真島さんの着ているシャツに。
分からない、分からない。
それでも抱きしめられている温もりは確かに暖かい。
そして堕とされる2度目の口づけ。

1回目の時と違い、深く、深く、甘い。

そして私の手を取り、個室をでる。
すでにお客さんはいなくて私だけ。
そして驚く執事さんの声が聞こえる店内。

「大吾チャン、約束通り今日までで辞めるからな。」

私の目の前にいるスーツの男性。少し困ったような顔をしながらも諦めたようにわかりましたと一言。
そのまま手を繋いだまま外に。
さっきまでと違う現実世界。
それでも横にいるのは確かに真島さん。

「ほな、帰ろか。」

「……はい。」

分からない、分からない。

それでも今はこの手を離したくなくて温もりは確か。
そして今日も綺麗な月。
真島さんの顔が綺麗に照らされている。
それだけは真実。
















「え!ヤクザ!」

「せや、ゴロちゃんはヤクザやで。」

やっと戻れたのぅと言いながら淡々と話していく真島さん。

まだまだ分からない。

それでも変わらないのは一つ。

なまえ…と言って口づけてくれる。
それは確かに甘くて蕩けそう。
Candy Dragonで食べていたどんなスイーツよりも。

「真島さん、またキスしてください。」

「仰せのままにお嬢様。」

そう、今は私だけの執事。私も真島さんだけのお嬢様。
曖昧な関係な意味がもたらされる。


written by mame / site:Endorphin
title by 夢見月


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