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▼ 06:打ち明けた真実は

今日、髪を切る。
背中まで伸びた髪をショートに。
春から私は就職の為に地元を離れることになった。
新しいスタートを切るのにイメージチェンジしたかったのと、だらだらと続けていた片想いに終止符を打ちたかったから。

「なまえちゃん、待っとったで〜」

オシャレな扉を開ければ、いつも笑顔で出迎えてくれるオーナーの真島さん。
最初から最後まで自分が対応したいという真島さんのこだわりで、このヘアサロンには2席しかない。
何もかも丁寧で腕もいいし、話も面白いし何よりカッコいい。
だからここに来ると必ず綺麗な女性がいて、話に盛り上がっている二人の様子を嫌でも見せられ聞かされる。
新しく出来たスイーツのお店に行きたいけど一人で行けないから一緒に行ってくれないかとか、この髪型に似合う服がわからないから選んで欲しい、とか……。
所謂 "逆ナンパ" を目撃して胸が苦しくなった。
苦しくなって初めて真島さんが好きなんだと気づいた。その女性と同じように……。

「今日はどないする?」
「切りたくて」
「どれくらい?」
「……ショートに」

席に座って鏡越しに真島さんを見る。
驚いた表情で「ホンマにええんか?」と聞かれたので、お願いしますと頷いた。

「どんなのが似合うか自分じゃわからないから、真島さんにお任せします」
「勿体無いなぁ、なまえちゃんの髪キレイやから」
「正直ドキドキしてます。ショートにするの初めてなので」
「そうなんか? ロングのなまえちゃんも可愛えけど、顔ちっちゃいからショートも似合うと思うで。ほな――」

ジョキ、と髪が切断された音がした。
私は雑誌を見るでもなく、話をするでもなく、ただ髪が切られていく様をずっと見つめる。
片想いをしていた相手の手で私の身勝手な恋を終わらせてもらっている。
込み上げてくるものを必死に堪えた。

「聞いてもええ?」
「何ですか?」
「どういう心境の変化や?」
「……仕事が決まってここを離れるんです。だから新しいスタートを切る為にイメチェンです!」
「そうか、なまえちゃん地元離れるんか……寂しくなるなぁ」

ジョキ、ジョキ、ジョキ――

可哀想、私の髪。
身勝手な恋のせいで鋏を入れられてしまって。
髪は真島さんによってどんどん断ち切られ、床へと広がり散らばっていく。

「それだけか?」
「……?」
「長い髪、バッサリ切ってまう理由はそれだけなんか?」

失恋したら髪を切る。
そんな古い風習に頼ってしまうなんて自分でも笑ってしまう。
でも、真島さんにそのことはもうバレているようだ。

「もう一つは、真島さんが思ってるとおりの理由です」
「それは……」
「失恋しました」

失恋した相手に失恋しましたと言うなんて。
笑いながら涙を流してしまった。
真島さんは宥めようと必死に慰めの言葉を掛けてくれる。
だけどそれが余計に心を締め付けて……苦しい。

「その男、なまえちゃんのことフッたんか?」
「……告白、してません」
「はぁ? そんなら失恋ちゃうやろ!」
「その男性、すごくモテる方で周りにはいつも綺麗な女性がたくさんいるんです」
「なまえちゃんかて綺麗やで! 諦めるの早いんとちゃうか?」

あんな仲良さげに話している女性を間近で見てしまったら、諦めるも何もない。
私なんか、もう……。

「いいんです、ショートで」
「……そうか」
「ショートになるまで目、閉じてます」

本当は真島さんを見ていると辛くなってしまうから。
たまに触れる真島さんの指を意識しないようにして、切られていく髪の音だけに集中した。

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