▼ No.56
今日は珍しく休日が重なって、真島さんと一緒に過ごしている。
特に何をするわけでもなく、狭い部屋の中では大きすぎるダブルベッドに横たわって、ただただお互いの肌に触れあってじゃれ合って。
「なまえとのキス、すっかり癖になってしもた」
ペロリと私の唇を舐めた真島さんは、そういった行為に慣れているようであるのに、照れたような表情を見せるから、たまらなくなって私も同じように仕返しする。
「ん……。しっかしなまえちゃんは悪い子になってしもたなぁ」
「どういう意味ですか?」
「出会った頃はウブで純真な女の子やったのに、今ではすっかり俺を誑かす悪い子や……」
そう言う割には嬉しそうな顔をして再び私の唇を何度も啄む。
舌を絡めた時の甘い感触も、チュッと淫猥な音を立てるやり方も真島さんが教えてくれたもので、私は惑わせてもいないし誑かせてもいない。
真島さんを悦ばせてあげたい、ただそれだけ。
「俺と付き合うてなければ、こんな天気のええ日にこないなことしてへんやろな」
たまに真島さんはこんなことを言う。
私がカタギの男と付き合っていたら、と今更言っても仕方のないことを。
だから私は「そんなことないよ」とわからせるために、深く深く真島さんにキスをする。今のところ、それに応えるように真島さんも溺れるようなキスをくれるから、私は安心して唇を離すことができる。
「私が真島さんと付き合っちゃダメでしたか?」
「カタギのなまえとヤクザの俺……。禁断の恋っちゅうやつやろ」
「禁断の恋は報われないってやつですか?」
「どうなんやろなぁ」
切なげに真島さんの指が私の髪を梳いて、柄にもないことを言ってしまったというような苦い笑みを浮かべた。
たしかに私は親にも友達にも同僚にも上司にもこの関係を伝えられない。受け入れられるはずもないし、祝福されるはずもない。
たった一人の男性の為に、私は手にしているものすべてを失うだろう。
それでも私は……。
「真島さん、私のこと好きですか?」
「もちろん好きやで。大好きや」
「私も真島さんのこと好きです。好き過ぎてどうしようもないんです」
「なまえ……」
たった一度の人生で私の手を優しく握ってくれたのは紛れもなく真島さんで、それはカタギだろうとヤクザだろうと関係はなく、一人の男性が私を必要として愛してくれていることが素直に嬉しい。
私の時間の中に真島さんが存在しないなんて、もう考えられない。
「私は豪華なご馳走も贅沢な生活もいらない」
「そうなんか?」
「豊かな楽園も安穏な天国もいらない」
「ほんなら何が欲しいんや?」
「真島さんの全部」
一緒にしたいことをして、私たちが幸せを感じられる場所があればそれでいい。たとえそれがボロボロのアパートでも、高架下にあるビニールシートのテントでも、真島さんさえ傍にいてくれれば。
レースのカーテンを突き抜けて差し込んだ陽の光が身体を照らして少し暑くなってきた。
真島さんも暑いはずなのに、ぴったり私に身体を密着させてきて私もそれを拒まない。この暑さが気持ちいい。
「天気のいい日にこうして真島さんとくっつくの、好きです」
「俺はいつでもなまえとくっつくの好きやで」
真島さんが癖になってしまったというキスをせがんできたので、舌を覗かせながら唇に触れる距離でもう一度訊いてみる。
「禁断の恋は報われないと思いますか?」
「それは、俺となまえ次第や」
その後の言葉は真島さんの口内に呑み込まれた。
5月6日に愛しの吾朗とベッドの上でゴロゴロゴロ。