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▼ ハロウィン熱に浮かされる

10月31日、ハロウィン。……ハロウィーン?
ま、どっちでもいいか。普段は仕事でスルーしていたイベントも、彼氏が乗り気だと今年もスルー、とはいかない。
部屋の壁にはカボチャの絵に一文字ずつアルファベットが書かれた『HALLOWEEN』のミニフラッグを飾り、花瓶にはオレンジやパープルの花を挿した。魔女と蝙蝠が飛んでいるキャンドルも買って、ベッドルームに設置済み。……ほら、一応そういう雰囲気になったら、ね。
実は事前に料理も仕込んである。チェダーチーズとブラックベリーのオードブルにカボチャサラダ、旨辛スペアリブにミートパイ。もちろんこれもハロウィンカラー、ハロウィン仕様にこだわって作ってみた。
テレビをつけると盛り上がっている街の様子やコスプレした若者へのインタビューなんかが流れていて、見ている私もワクワクしてしまい、握り締めていたスマホで "ハロウィン" と検索すると、画面全体が自動的にハロウィンの壁紙になって、ウィンクしているオバケの愛らしさに微笑んだ。
すると「もう着くで」と一通のLINEが届いた。待ってるね、とネコのキャラクターがキス顔しているスタンプを送って既読になったと同時に玄関のドアが開いた。家の前からLINEしてたんだね。

「なまえ、調子どや?」
「うん……、微妙」

弱々しくそう言って、咳をしながら謝った。
初めて真島さんと迎えるハロウィン。浮かれ過ぎて慣れないことをしたせいか、それとも普段の行いが悪かったのか……こんな一大イベントの日に、私は自室のベッドで寝込んでいる。発熱中だ。枕元のテーブルで笑っているジャック・オー・ランタンが憎い。

「コレ、買うてきたで。美味そうやろ?」

ベッドの縁に座り、真島さんはコンビニ袋から "ハロウィン限定" と書かれたパンプキンプリンを取り出して、熱を発している私の額に押し付けた。

「冷たい」
「熱は?」
「37.6℃」

せっかく準備してくれとったのになぁ、と身体を起こした私の頬をムニっと摘んで微笑む真島さん。いつもの革手袋は既に外されていて、落ち込む私の頭を大きな手でワシワシと撫でた。そういう真島さんのほうがたくさん準備して、楽しみにしていたことを知っているから、そんな風に言われてしまうと本当に申し訳なくて、目蓋の裏が熱くなった。
私が体調を崩していなければ、仕事帰りに西田さんが車で迎えに来てくれてそのまま真島組へ。そこで真島さんがチョイスしたコスプレ衣装を着て街でデート。きっと真島組もド派手にハロウィンの装飾をしていたに違いない。その後、私の家でマッタリ……という予定だったのにこの有様。

「料理、気合い入れて作ったんやろ? ええ匂いする」
「お肉とミートパイはあと焼くだけなの……。真島さんお腹空いてるでしょ? 食べて」
「アホ抜かせ。俺一人で食うてもなぁんも味せぇへんわ! ほれ、あーんせぇ」

私の口内に冷たくて滑らかな食感のパンプキンプリンが入ってくる。……美味しい、悔しい。

「作ったもん冷蔵庫に入っとるんやろ? 明日一緒に食べようや。ただ、ミートパイは冷凍しといたほうが良さそうやな。なまえ、あーん」

口の中に甘いプリンの味が広がっていくのを感じながら、キッチンへと向かう真島さんの背中を見送る。何でも出来ちゃう器用な人だなぁとは思っていたけど、見た目と違って家庭的っていうのも追加しておこう。
頭がボーっとして少し眠気が襲ってきた頃、真島さんが戻ってきた。オードブルを口に咥えた白衣姿で。

「すまんなまえ! どぉしても我慢できへんかった。これ、めっちゃ美味いなぁ」
「そ、それより、その、白衣は……」
「具合の悪いなまえを癒すのは医者の仕事やろ」
「ゴホ、いや、そうじゃなくて……あ、あの、ちょ、」

どうやらコスプレ衣装はしっかり持参してきたらしい。私のこの状況に合わせて白衣にしたのだろう。いつもの素肌ジャケット姿に目が慣れているはずなのに、この素肌白衣は……ちょっと刺激が強い。
躊躇うことなく真島さんはベッドに入ってきて私を抱き締める。ふわりと大好きな人の香りが私を包み、一気に力が抜けて身を委ねてしまう。

「風邪、移っちゃう」
「移らへん。汗かいたら熱下がるやろ? 今日はずっとこうして抱き締めとるから、安心して寝たらええ」
「せっかくのハロウィンなのに……」
「ハロウィンなんていつでもええねん。なまえと二人でやらな意味ないやろ?」

ナース服、着てな♪ と言いながら、くっついた鼻先を甘えるように擦り付ける。やっぱり私の分も持参してたか。医者とナース……そういうのも好きなんだ。
いつでもええと言いつつパンプキンプリンを買ってきたり、コスプレ衣装を持ってきたり。やっぱりハロウィン、楽しみにしてたんだよね、真島さん。

「今日の為に、買ったから」

私は枕元のテーブルに手を伸ばし、キャンドルを掴んで真島さんに手渡す。真島さんはイヒヒと笑ってそれに火を灯した。

「ええムードやなぁ! でも今、俺は医者、なまえは患者やで」
「それも……ヤラしいですね」
「それもってどういう意味やねん!」
「じゃあ」

早く治してください、真島先生。
私の身体を抱き締めている真島さんの腕にグッと力が入った。興奮したのか荒く深い息をひとつ吐いて、私の名前を呼んだ。

「なまえ、俺は名医やで」

一晩で熱下げたるから、楽しみにしとけや。
お返しとばかりに、さっき食べたパンプキンプリンより甘いトーンで真島先生が囁いた。


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