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▼ Re:告白

日曜日。少し寝坊した朝もやることは同じ。
ベッドの中で腕や足をぐんと伸ばし、何度か瞬きを繰り返して眠気を覚ます。
ただ、今日はいつもの日曜日ではないので、いつもとひとつだけ違うことをしてみようと思う。

「真島さんのバーカ!」

布団に口を押し付けて思い切り叫び、枕をボフンッとグーで殴ってみた。

今日はホワイトデー。
私は真島さんの恋人。
恋人の真島さんはヤクザ。

今日は組員を引き連れて、バレンタインデーのお返しの為に飲食店やキャバクラを渡り歩いているらしい。

『島ん中のバーのママさんやらキャバ嬢たちから仰山プレゼントもろたんや。返さんワケにいかんやろ』

それが仕事、というのは重々承知している。
真島さんの女になってもうすぐ二年。そうすると、ヤクザの世界は見栄で出来ていることが嫌でもわかってくる。
ヤクザはいろんな業界と繋がっていて、それは政治家とか芸能界なども含んでいる。真島組の事務所に高価なビンテージのウィスキーやらワインが並べて置いてあるのは真島さんが飲むためではなく、そういった人たちや同業者が訪ねてきた時、酒を出す流れになったら飲ませる用なのだとか。
安い酒を飲まされたなんて話を広められたら真島さんのメンツが立たない。今回のお返しも結局はそれと同じこと……と自分に言い聞かせている。
きっと高価なプレゼントも貰ったんだろうから、それなりの物はお返ししなきゃいけないんだろうし。
お返ししない、なんて以ての外なんだろうし。

「で、私とのホワイトデーは?!」

大声で叫んでしまった。
私の部屋に隣接している住人さん、ごめんなさい。
叫びたくもなる。私だってそれなりのプレゼントをしたつもりだし、私は真島吾朗さんの恋人! なのに。
大事な仕事と頭では理解しているけれど、心がとてつもなく寂しい。

『終わったらすぐ連絡するから待っといてや』

昨日そう宥められ、唇にチュッとキスをされ、いつものようにベッドに身体を運ばれて……納得してしまった。
いつ連絡が来てもいいように出かけず部屋に籠っていたら、連絡が来ないまま朝日は夕日に、夕日は月に変化して、私のホワイトデーは終了間近。もうダメだ、と諦めかけていた頃、それは鳴った。


ピンポーン──。


「遅過ぎですっ!」
「ひぃぃぃぃぃっ」

玄関のドアを勢いよく開けた私の顔は、真島さんの刺青に負けないくらいの般若の形相だったかもしれない。
ドスを利かせた声で叫んだ相手は真島さんではなく西田さんだった。





「こんな時間になってしまってすいません」
「……仕方ないです。だって仕事じゃないですか」
「親父は早く帰りたがってたんですけど」

なぜか私は西田さんが運転する黒塗りの車に乗せられ、真島組の事務所に向かっている。真島さんの指示らしい。

「そんなにたくさん貰ってたんですか? バレンタインのプレゼント」
「なんせケツ持ちしてる店が多いんで。それに親父はやっぱキャバ嬢から人気がありますから……あっ!」
「……でしょうね」
「あぁっ、ち、違うんです、そうじゃなくて! 親父は姐さん一筋ですから。それは本当です、信じてください!」

どうして私なの?
たくさんの女性に囲まれていることを知っていたから、真島さんに俺の女になって欲しいと言われた時にそう訊いた。

『なまえちゃんが毎日俺のこと困らせるからや。毎日、お前のことで頭ん中いっぱいなんや』

そんなことを言われた。
すごく嬉しかった。嬉しかったけど……いっぱいになり過ぎて、どこからかそのいっぱいになった私がこぼれてしまって、そのこぼれた隙間に別な女性が入り込んできたら。
他の女性の香りを纏って真島さんが飲んで帰って来た時なんかは特にそう考えてしまったりする。だから抱かれている時は吾朗さんと呼べるけど、普段は自信の無さから真島さん、としか呼べないでいる。
できるだけ悪いほうに考えないよう努力しているけれど、西田さんからそんな事実を聞いてしまうとさすがに項垂れた。

「す、すいませんっ! 俺が余計なこと言って! でも、親父は本気です。これから親父に会えばわかりますから」

西田さんがその言葉を言い終えると同時にピタリと車がミレニアムタワー前で停まった。

「西田さんは来ないんですか?」
「ここからは姐さん一人でお願いします。親父の指示ですから」
「わかりました」

何を企んでいるのか。
大人しくミレニアムタワーに入り、57階にある真島組に向かった。

「姐さん、親父がお待ちです」

エレベーターの扉が開くとすぐに組員二人に出迎えられた。

「あ、あの」
「親父がお待ちです。どうぞ中へ」

真島組の入口まで連れて来られた。
扉は開いているが中は真っ暗。しかし床には等間隔に配置されたキャンドルがあり、空港の滑走路にある誘導灯のように光っている。
その二人も中には入らず、ここからは姐さん一人で、と。
恐る恐るゆっくりとキャンドルに沿って受付前を通り右に曲がる。
すると──。

「待たせてしもたなぁ、なまえ」

そこにはたくさんのキャンドルが灯され、幻想的な光の中に佇む白いタキシードを着た真島さんがいた。

「真島、さん」
「今日はホワイトデー、やろ?」
「どういうことですか?」
「ゴロちゃんドッキリ作戦、大成功やな!」

驚いて固まっている私の様子に真島さんは満足げにニッと笑って私を抱き締めた。

「どや? 俺のタキシード姿は」
「似合ってます、けど……、これって」
「ほんなら、お前もコレ着ろや」

パチン、と真島さんが指を鳴らすと、一人の組員が奥の部屋から何かを持ってやってきた。それは純白のウェディングドレス。

「ホワイトデーなら、なまえにも白い服着てもらわんと」
「っ……!」
「俺の特注ウェディングドレスは、お前しか似合わへんやろ」

私は訳も分からず震える手でドレスを受け取り、別室で着替えて真島さんの許へ。

「想像した以上や。……めっちゃキレイやで、なまえ」
「あの、真島さん、これって」
「せやから言うたやろ? 『待たせてしもたな』って」

ポロポロと涙を零す私の前に真島さんが跪き、私の左手を取って薬指に美しいダイヤモンドの指輪を通した。

「こんなところで」
「教会連れてったらバレてまうやろが!」
「うん、そうだね」
「式は後日ちゃんと挙げるとして……、練習させてくれや」


健やかなる時も 病める時も
富める時も 貧しき時も
俺はなまえを妻として愛し 敬い
慈しむ事を誓います


「愛しとるで、なまえ。俺と結婚してくれるか?」


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