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▼ 正義の鬼

本当の鬼に出会った。
ガラの悪い男たちに絡まれ、逃げ場のない袋小路に追い詰められた時に。

ガラ、ガラ、ガラ、ガラ……

何かを引き摺りながらこちらに歩いてきた。

「一人の女に男が寄ってたかって恥ずかしくないんか! あぁ?!」

音は金属バットを引き摺る音だった。
鬼は目を剥き、男たちに容赦なく襲い掛かる。
殴り、叩きつけ、骨が折れ、潰れる。
許しを請いながら悲鳴を上げていた男たちの声は、いつの間にか消えていた。

「大丈夫か? ネエちゃん」

その声に無意識に瞑っていた目を開くと、鬼はしゃがんで腰を抜かした私をジッと見つめていた。
鬼の腹もバットも返り血の赤。男たちはピクリとも動かない。

「こ、この人たち……、死んだんですか?」
「まだ生きとる。躾してやっただけや。……ホレ、立てるか?」

差し出された手。
握ってしまったら私はこの鬼の餌食になってしまうのか?
躊躇して手を伸ばせずにいると強引に腕を掴まれた。

「ここにずっとおりたいんか? あいつら、動き出すかもしれへんで」

倒れている男たちを見てヒヒヒと笑う鬼は狂気に満ちていて、ぞくりと全身が震えた。

「あーぁ、そんな格好にされてしもて。服ズタズタやんか、これでも羽織っとけ」
「で、でも」

鬼はジャケットを脱いで私の肩に掛けると、掴んだ手を引いて歩きだす。
露になった鬼の肌には蛇が二匹、背中には般若がいて、桜が舞い散っている中鋭い眼で私を睨んでいる。

「行くでぇ。そんな格好で街歩いとったら、またヘンな奴らに目ぇつけられるやろ」
「あ、あなたは……」

グッと力強く握られた手。
それは私を解放するつもりなど更更ないだろう。

「ネエちゃん、名前は?」
「……みょうじです」
「下は?」
「なまえ、です」
「なまえちゃんやな。俺は真島や、真島吾朗。俺から離れるんやないで」

憎しみと嫉妬の念で鬼と化した女性が般若なのだと聞いたことがある。
だとしたら、あなたはなぜ鬼になってしまったの?
手を引かれるまま、私は鬼についていく。
真島吾朗という鬼に、私は囚われてしまった。


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