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▼ ボニスとフェンリー

「納涼にはやっぱゾンビやろ」

そんな理由でここ最近、真島さんと海外のゾンビドラマを見ている。
楽しそうにゾンビの映画やドラマを見ているので、本当に好きなんだろうと思う。
おどろおどろしいゾンビたちを容赦なく撃ち殺す爽快さ。
人間同士の腹の探り合い、迫られる選択。
死と隣り合わせの緊迫したその世界観がなんともいえないらしい。

「あぁ、囲まれちゃった。フェンリーとボニスはどうなっちゃうんでしょう」
「ボロい建物やからなぁ……絶体絶命やな」

最初こそ凄惨な表現に真島さんの陰に隠れて見ていたが、今はゾンビより人間関係のほうが気になって、ついつい画面にくぎづけになってしまう。
するとヒヒヒと場違いな笑い声が聞こえて、隣にいる真島さんを見てみれば、意地の悪い笑顔でこちらを見ていた。

「な、なんですか」
「そないにギュッと腕にしがみついて。なまえ、怖いんか?」
「怖くありません。ただ……あっ!」
「なんや?!」
「フェンリーが噛まれましたっ!」

恋人関係にあった彼氏のフェンリーが彼女のボニスを守る為に銃弾を使い切り、家の中になだれ込んできたゾンビに噛まれてしまった。

『ボニス……、俺を置いて逃げるんだ』
『嫌よ! そんなことできない』
『お前は生き延びろ……頼む。そして、最後のお願いだ……笑ってくれないか』

感情移入してしまった私の目からは涙が零れて止まらない。

「フェンリぃー」
「まったく……、可愛えなぁホンマに」
「え? ……んっ」

急に顎を持ち上げられ、真島さんにキスされた。
テレビからはボニスの泣き声が聞こえているというのに、こちらの世界はなんとも甘い。

「んんっ、も、もう! なんですか急に!」
「やっぱゾンビはええなぁと思て」
「それとこれと関係あります?」
「大アリやで。なまえが俺にくっついてくれるし、可愛く泣いたり驚いたりするとこ、間近で見れるからのぅ」

『さよなら、フェンリー』
『さよなら、ボニス』

フェンリーとボニスが永遠の別れのキスをしている。
ふとドラマと現実が重なり合った時、真島さんも私にキスをしようと顔を近づけてきた。

「お別れのキスは……嫌です」

その言葉を聞いてピタリと動きを止めた真島さんは、私の頭を撫でて微笑んだ。

「アホか。……俺はフェンリーみたいなヘマせんわ」

お前を守ることを誓うキスだと言って、唇を重ねたままソファに押し倒された。
たしかに真島さんならゾンビから守ってくれそうだな……。
そんな風に思ってしまった私は、真島さんのゾンビ好きが感染してしまったのかもしれない。


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