▼ 般若ちゃん
家の中に入ってくる風が生温い。
それでも風が無いよりかはマシなのかもしれない。
床に座り、風の通り道を独占している般若がこちらを見ている。
「はぁ〜……、暑いのぅ」
パタパタうちわを扇いでいる真島さんの横に座る。
瞬間的に生み出された風が切り揃えられた髪をふわりと浮かせ、たったそれだけのことが艶めかしく見えて、私は真島さんから目が離せなくなる。
「なんやぁ? 暑いのに」
「般若ちゃんがこっちに来いって」
「なまえとコイツ、そない仲良しやったんか?」
真島さんはからかうように笑い、私に向かってうちわを扇いだ。
送られる風は涼しくてとても心地いい。
「涼しい」
目を閉じて真島さんの風を堪能していると、振られていたうちわの音が急に止んで風もなくなった。
もう少しだけ、とおねだりしようとしたところで熱い唇が押し当てられた。
あぁ、暑い。あぁ、熱い。
「んっ、ま、真島さんっ!」
「なまえがチュウ顔しとるから、般若ちゃんがチュウしてやれって」
「別にチュウ顔したわけじゃないですし、真島さんも般若ちゃんと仲良しじゃないですか」
「ヒヒッ、嫉妬したんか? ほな……、俺らも仲良うしようや」
べたつく肌、上がる息。
涼を求めていたはずなのに、結局欲しいのは私も真島さんもお互いの体温なのだ。
流れる汗を指で掬ってくすくすと笑いながら抱き合った。
きっと般若ちゃんも笑っている。